100年以上前、イタリアの経済学者、ヴィルフレド・パレート教授がイギリスの資産を詳しく調べたところ、資産の大半がごく一部の人たちに集中していることに気づきました。
パレート教授はその後、イギリスの資産統計を何百年もさかのぼって調べ、アメリカ、イタリア、フランス、そしてスイスなどの資産分布とも比較してみましたが、結果は同じで、おおよそ上位20パーセントの資産家が、世の中に存在する全資産の80パーセントを所有するというパターンがどの国、どの時代でも繰り返し確認されました。
↑どの時代も80%の資産は、20%の資産家が所有する (Le Rétroviseur)
これは、のちに「80対20の法則」と名付けられましたが、20世紀に入り、多くの研究者がこの法則を様々な角度から研究していくと、犯罪の80%は20%の犯罪者が占めている、企業の80%の利益は、20%の顧客によって生み出されている、カーペットの擦り切れる部分は大体決まっていて、擦り切れる場所の80%は、20%の場所に集中しているなど、世の中のあらゆる場所で、この「80対20の法則」が適応されていることが分かり始めました。
↑80%の利益は、20%の熱狂的なファンから生まれる (Christopher Michel)
例えば、あなたが成し遂げる仕事の80%は、費やした時間の20%から生まれており、これは仕事に関わらず、個性、能力、友人関係、そして資産においても、大切な20%に目を向け、それを育むことで、大きな可能性にレバレッジをかけることができますが、残念なことに、間違ったこと(つまり、重要ではない80%)を懸命にやっている人が世の中には圧倒的に多く、ビル・ゲイツと並ぶ大富豪、ウォーレン・バフェットも、「やる価値のないことを上手くやっても、まったく意味がない。」と述べています。
↑やる価値のないことを、上手くやったところで何の意味もない (Fortune Live Media)
1800年頃に、「起業家」という言葉を生み出したフランスの経済学者、J・B・セイは、「生産性が低い分野から、生産性の高い分野に経済資源をシフトさせるのが、起業家である。」と述べましたが、80対20の法則を企業や市場に当てはめると、製品、顧客、そして従業員の20%が利益の80%を生み出していることになり、これが本当だとすれば(調査によれば、どの企業もこれに近い数値が出ている。)、逆に考えると80%の製品、顧客、そして従業員は会社の利益の20%にしか貢献しておらず、企業内部は「効率化」とはほど遠い状況にあることが分かります。
↑効率の悪い80%が、会社を支える20%の足を引っ張っている (Andrés García)
1963年、IBMはこの80対20の法則にいち早く気づき、コンピューターを使う時間の約80%が、全機能の約20%に集中していることを発見すると、ただちに頻繁に使われる20%の機能をユーザーにとって使いやすいオペレーション・システムに書き換えることで、IBMのコンピューターの性能をどんどん上げていき、その後、アップル、マイクロソフトなどの新興企業も80対20の法則を活かして、製品コストを下げ、使い勝手をよくすることで、ユーザーを拡大していくことに成功しました。
↑本当に必要とされる20%の機能に、80%の労力を捧げる (Kevin Boey)
アメリカン・エキスプレスは1994年以降、「80%の収益を占める20%の顧客を絶対に放さない」として、カード利用額が多い業種、企業、そして小売店を対象に、カード利用促進キャンペーンを次々と打ち出しており、南フロリダの営業責任者、カルロス・ビエラは次のように述べています。
「これは昔からの80対20の法則だ。ビジネス・チャンスの大半は、市場の20%に集中している。人々にもっと外食するように勧めてもしょうがない。うちはそんなキャンペーンはやらない。」
↑核となる20%の顧客には全社をあげて奉仕し、絶対に逃さない (Thomas Hawk)
80対20の法則がビジネスに与える影響を長年研究している、経営コンサルタントのリチャード・コッチ氏は、重要でない顧客については、経費を減らし、用事は電話ですませるようにし、過去に大量注文があって、最近は注文が途絶えている顧客があれば、今すぐに注文が取れないとしても、営業マンに足を運ばせることが大切だと述べていますが、ほとんどの企業は顧客を平等に扱い過ぎていて、大きなビジネスチャンスを逃していると言います。
↑小口の80%の顧客は中央で一括管理し、20%の顧客に使う時間を増やす (Sebastiaan ter Burg)
80対20の法則は、もちろんビジネス以外のところでも応用することができ、インターネットが普及したことで人間関係が多様化したように見えますが、カーネギー・メロン大学が2年間にわたって調査した内容によれば、ネットの利用時間が多いほど、孤独感が深まり、憂鬱になる傾向が強く、上辺だけの人間関係に時間をかけることによって、本当に大切な人に充てる時間は明らかに少なくなっています。
コラムニストの小田嶋隆さんは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)について次のように述べています。
「(SNSは)友だちのコストを下げるためのツールだ。ネット上に引き上げることによって、友だちはローコストになる。コミュニケーションは安価になり、時間はシェアされ、言葉は使い回しが効くようになる。ベネフィット(利益)は、たぶんそんなに変わらない。」
↑多くの人が大切でない80%に多くの時間を使い過ぎている (Pabak Sarkar)
恋愛に80対20の法則を当てはめると、恋人への80%の不満は、20%の問題(例えば、仕事の帰りが遅いなど)からきており、ダイエットに当てはめると、1日3食すべての食事を健康的にするのではなく、80%を目標にし、20%はレストランや自分の好きな物を食べても良いと考えれば、少し気持ちが楽になります。
本を読むのも同じことで、内容が薄い本と感じる本でも、ダラダラと何百ページもあるのは、ある程度の長さにしないと、本として出版できないからであり、実際に本の重要なポイントは中身の20%ほどしかありません。
↑恋人への80%の不満は、20%の問題にある (Reuben Stanton)
「レバレッジ・リーディング」の著者、本田直之さんは、「一冊、一万円の本でも全部は読むな。ビジネス本一冊にかける時間は一時間で十分だ。」と述べており、大の読書家として知られる、ユニクロの柳井正さんは、まず「目次」や「あとがき」を読んで、自分にとって役に立つかどうかを判断し、読むときめたら、役に立つところをメモするのだそうです。
つまり、本の中で、「自分に必要な20%の部分」をいかに速く見つけられるかが重要になりますが、僕の経験上、2〜3行の文を一気に、ほとんど横に読み進めていくと、なんとなく引っかかるところ出てくるので、そこをメモし、何度も何度も繰り返し、頭に入れることで、自分の血となり、肉となってくるような気がします。
↑本は20%の内容を理解すれば十分 (Roxanne Ready)
古代ギリシャの哲学者たちは奴隷に仕事をさせることで、自分たちはクリエイティブなことに時間を使ったと言われていますが、80対20の法則とは、選別の法則でもあり、自分がもっとも得意とする20%の活動に集中するために、核になるもの以外は、すべて外部に委託するという考えを持つことも大切です。
自分の得意分野に集中し、数少ない選別を確実に当て、そこに大金を投資することで、ビル・ゲイツに次ぐ世界第2位のお金持ちになった投資家のウォーレン・バフェットは、「それなりに理解できる」は、「理解できない」と同じだとして、世の中がどれほどもてはやそうと、自分の分からないテクノロジーの分野には一切、手を出しませんでした。
↑得意な20%に集中するために、自分でやる必要のない80%は外部に委託 (Office Now)
80対20の法則はもう100年以上も前に、各国の資産の80%が20%の人によって所有されているというところから始まりましたが、この時代の税率は現在と比べて、ものすごく低いものでした。
20世紀に入り、世界中の政府が、金持ちの税率を引き上げ、貧乏人に回すようになりましたが、80対20の法則の分布は変わっておらず、アインシュタインは「カネがカネをよぶ」という意味で、複利(計算された利子)を、「世界の八番目の不思議」、「歴史上最大の数学的発見」、そして「宇宙で最も大きな力」とまで呼びましたが、世の中の富が平等に分配されることは、今後も絶対にないのかもしれません。
↑複利(計算された利子)は宇宙で最も大きな力 (Pic)
80対20の法則を自分のものにして、人生にレバレッジをかけるためには、自分にとって大事な20パーセントは何か、を見極めることが一番重要になります。
もし、80%の時間で20%の結果しか生み出せていないとすれば、それは間違いなく80%の時間を他人のために使っているからであり、それが何十年続こうが、労働という歴史の一部を消費しているに過ぎません。
行動は思考を追い越してしまうため、そこに大きな無駄が発生してしまいますが、まずは行動しようとする体をグッと押さえつけ、頭の方に力を集中させる方が、成功の近道になっていくのではないでしょうか。
参考:「人生を変える80対20の法則/リチャード コッチ」、「楽して、儲けて、楽しむ 80対20の法則 生活実践篇/リチャード・コッチ」、「ゼロ・トゥ・ワン/ピーター・ティール」、「友だちリクエストの返事が来ない午後/小田嶋隆」