October 7, 2014
シリコンバレー文化の反動:ツイッターの創業者たちが気づいた人間味を取り戻す唯一の方法はコーヒー

コーヒーを飲まないと一日が始まらないという人も多いのではないでしょうか?

スターバックスやタリーズ、そしてセブンイレブンなど上質なコーヒーを手軽に飲める時代になり、忙しく働き続ける日本人にとってコーヒーは欠かせない存在になりつつあります。スターバックスはCEOのハワード・ショルツさんがイタリアのミラノを訪れた際に、立ち寄ったCafeの雰囲気とコーヒーのテイストに魅了され、アメリカに持ち帰って世界展開を始めました。

タリーズも松田公太さんが友人の結婚式でたまたまシアトルに訪れた際に、タリーズの雰囲気に魅了され、人脈もないなか体当たりの交渉で独占契約権を獲得し日本に広めていきました。


↑世界に18,000店舗「いつも賑わうスターバックス。」

スターバックスやタリーズはフランチャイズや直営など、様々なシステムを通じて、素晴らしいお店の雰囲気やコーヒーの品質を保っていますが、現在シリコンバレーのIT起業家を中心に、スターバックスなど大手コーヒーチェーンの次を行くコーヒー文化、「第三世代コーヒー(third wave coffee)」が活発になりつつあります。

この新しいコーヒー文化はTwitterの創業者、ジャック・ドーシーが発起人と言われており、なぜIT起業家たちがコーヒー文化に夢中になるのかと不思議に思う方も多いかもしれません。


↑Twitterの創業者「スタバの次のコーヒー文化を作る。」

第三世代コーヒーの中心的存在「ブルーボトル・コーヒー」の資金調達を担当したブライアン・ミーハンは次のように述べています。

「スターバックスはただの組み立てラインになってしまっていた。どのようにして適切な豆を選ぶか。どこで誰がその豆を作っているのか。焙煎はどうこだわるべきか。そういった側面が忘れ去られてしまったんだよ。」(ワイヤード Vol.12)

第三世代コーヒーの中心的存在であり、Instagaramの共同創業者、ケヴィン・シストロム、MediumとTwitterの共同創業者、エヴァン・ウィリアムズ、Wordpressの創業者、マット・マレンウェッグ、そしてFlickrの創業者、カトリーナ・フェイクなど数多くのIT起業家が投資するブルーボトル・コーヒーはマイクロソフト的なコーヒーを作るスターバックスに対して、コーヒー界のアップルと呼ばれています。


↑スターバックスはただの組み立てラインになってしまった。

グローバル社会を代表する企業であったスターバックスは、忙しいビジネスマンがコーヒーを流し込み、ノート・パソコンで仕事をするというまさに時代の象徴でした。

スターバックスのようなコーヒーショップは立地がよく便利ですが、本当に美味しいコーヒーを飲みながら、新しいアイディアを考えたいクリエイターや起業家の欲求を満たすことはできません。

現在、2000年代後半にIT業界で起こったような事がコーヒー業界でも起こりつつあります。2000年代、アップルが再度コンピューターに「感情」を吹き込むまで、テック界の商品はエクセルような機能しかありませんでした。

期待通りの働きはしてくれるが、何も特別な感情を抱かせることはなく、ただ「生産的」に作業を進めるための道具になってしまっていたのです。

しかし、ブルーボトル・コーヒーのような店は、豆の生産者や焙煎温度などに徹底的にこだわり、何か「特別な感情」を抱かせてくれる店であるため、現在IT業界の人を引きつけ、コーヒーショップを通じて新しいライフスタイルの文化が生まれつつあります。


↑値段も高いし、待ち時間も長い。でも味は間違いなく世界一のコーヒーだ。

1984年からずっとスティーブ・ジョブズと一緒に仕事をしてきた、沖縄生まれのジェーム比嘉さんもブルーボトル・コーヒーに投資しており、その理由を次のように述べています。

「アップルがそうであったように、ブルーボトルのCEOはすべての詳細に気を配っている。コーヒー豆の炒り方ひとつとってもそうだし、店の造りにもそれは表れている。」(ワイヤード Vol.12)

「そこには、ぼくがアップルで培ったカルチャーや哲学と非常に近しいものが感じられる。深いソウルやテイストがあると言えると思う。ジョブズは特にテイストという表現を好んで使っていたからね。」

ここ5,6年でエクセルのような利便性だけを重視した商品から、ソフト、ハード、そしてアプリの開発者たちは、その利便性だけではなく、商品を通じてエンドユーザーがどのように感じるかを意識するようになりました。


↑アップルとブルーボトル・コーヒーが似ていることは、起業家たちが一番身近に感じ取っている。

シリコンバレーによって人間関係までデジタル化され、スターバックスはただの組み立てラインになりつつあります。

このような急激な時代の変化と「効率性」だけでは生み出せない、新しい時代の付加価値の必要性が「第三世代コーヒー」の文化をどんどん大きくしていっています。

シリコンバレー文化の反動、人間味と創造性を取り戻す作業は、郊外の小さなコーヒーショップから生まれるのです。

本当に美味しいコーヒーで眠気を覚ますわけではない、クリエイティビティーを上げるのだ


↑世界で一番コーヒーを飲んでいる国はルクセンブルク。消費量は日本の約8倍。

起業家やクリエイター問わず、コーヒーを飲んで少しリラックスしたら、急に仕事がはかどり始めたという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

科学的に「クリエイティビティー」とは「現在存在しているアイディアを頭の中で組み合わせて、何か新しいものを創ることができるスキル」と定義されます。

生物学的に考えると、コーヒーに含まれるカフェインが神経伝達物質の機能を強く長持ちされるため、人間の脳は過去のアイデアにアクセスしやすくなります。頭の中で組み合わせるアイディアが多くなることで人間のクリエイティビティは一時的にどんどん高くなっていくのです。

よくカフェインは眠気を抑えるものだと言われていますが、それには少し語弊があり、カフェインは疲れを取るのではなく、「疲れ」を脳に伝達される機能を弱める役目を果たします。

(ただその”疲れ”は消えてなくなるわけではなく、後で遅れて脳に伝達されます。その疲れを取る方法は休息しかありません。)


↑コーヒーと創造性の関係は生物学的に説明がつく。

さらにイリノイ大学の調査によって、コーヒーショップのような適度の”ざわざわ感”がクリエイティブなアイデアを促進させるためには一番良い環境だということが証明されています。

この実験はクリエイティブ思考を測るテストを50デシべル、70デシべル、85デシべルの雑音、そして全く音がない環境の中で行った結果、カフェの雑音と同じレベルの雑音、70デシビルでテストを受けた人の成績が一番よかったそうです。

この調査を見た大学生のJustin KauszlerさんはWebでカフェの”ざわざわ感”をひらすらループするアプリ、Coffitivityを自分でプログラミングのクラスを取って自分で作りました。

Justinさんはカフェに行くと新しいアイデアがどんどん湧いてくるため、ほとんどの仕事をカフェで済ませていましたが、ある時上司にカフェに行くことを禁じられたため、自分で作ってしまったそうです。


↑適度な「ざわざわ感」が脳を活性化させる。

ニューヨーク・タイムズの記事にも、コーヒー・ショップは学校の課題や仕事を終わらせるためには最適な場所というレポートがあり、生産性を求めるルーティンタスクはオフィス、自分にしかできないクリエイティブな仕事はカフェという場所の選択はそれほど間違っていないのかもしれません。

21世紀の重大な仕事はオフィスではなく、カフェで行われるのではないでしょうか。

コーヒーの待ち時間も素晴らしい経験。IT起業家がどうしても投資したいコーヒーショップ


↑サイズは一種類しかない。(jen) (CC)

コーヒー界のアップルと呼ばれるブルーボトル・コーヒーはソーシャルメディア革命で一夜にして億万長者となったIT起業家を中心に約46億円の投資を受けています。

投資家のほとんどがIT出身のため、さぞかしハイテクなコーヒー・ショップなのかと想像してしまいますが、店内はロゴがひとつあるだけで、デジタル機器は最低限に制限され、Wi-fiすらありません。

ITは最低限に制限されているのに、なぜIT関連者がこれほどまでに投資したがるのかについてブルーボトルCEO、ジェーム・フリーマンさんは次のように述べています。

「私自身もなぜテック投資家がこれほどまでにブルーボトル・コーヒーを熱愛するのかは、よく分からない。」

「私なりの仮説は彼らのハッカー精神と私たちの常にコーヒーの品質を上げていこうという精神が一致したのではないかと思う。ハッカー達はすべてのプロセスで改善が可能だと考え、今よりも素晴らしいものを作る精神を持っている。時には徹夜でプログラミングしてでも別のやり方を自分で見つけ出すんだ。」


↑プログラマーはハッカー精神を失ったら終わりだ。

ブルーボトル・コーヒーでは前日の焙煎の仕方や温度などのデータをすべて記録しており、どのような方法でコーヒーを作ったら一番美味しくなるのかを毎日休むことなく研究しています。

「時々、投資家に聞かれるんだ。どうやってこのクオリティーを保っているんだってね。クオリティーを”保つ”という言葉は間違ってる。常に改善していくんだ。」(ジェーム・フリーマン)

ブルーボトルのメニューには「オーガニック」や「コーヒー豆の公平な取引」という言葉はどこにもありません。

そんなことはもう当たり前だと考えているため、わざわざメニューに記載する必要はなく、コーヒーを最高の味で楽しめる48時間以内に焙煎されたもの以外は顧客には出しません。

さらにニューヨークなどの都会に住んでいる人は、常に狭く隔離されたアパートに住んでいるため、せめて店内だけはリラックしてもらえるようにと、広告やショップグッズなどは一切置かないと決めているそうです。


↑常を保つなんて単なるギャグ。

アップルはUIやハードのデザインはもちろんのことですが、店舗のデザインや梱包など、本当に細かい部分にまで気を配り、消費者が商品を通じてどのように感じるかを常に気にしていました。

ジョブズもそうでしたが、人々がコンピューターに何を求めているかは、どれだけリサーチしても分かりません。その商品を手に取って初めて、「これが私の求めていたものだ!」と気づくものなのです。

多くのIT起業家がこれほど小さなコーヒーショップに夢中になるのは、ブルーボトルのコーヒーに対する哲学がアップルにもの凄く近いからです。

CEOのフリーマンさんはどれほど有名なレストランがブルーボトル・コーヒーを取り扱いたいと言っても、素晴らしいコーヒーが提供できる環境、器具、そして人が揃わなければコーヒー豆の販売はしません。


↑最高の環境が整わなければこの豆を売れない。

投資家はブルーボトルの成長を10年、20年の長期スパンで考えており、WhatsAppのようなリターンを求めて投資しているわけではないようです。Twitterの共同創業、エヴァン・ウィリアムズさんは次のように述べています。

「僕が投資するかしないかを判断するルールはひとつだけ。その企業が成功する姿をこの目でみたいだけなんだ。リターンを得るか得ないかはそれほど重要ではないよ。」

ブルーボトル・コーヒーにはスケボーの神様、トニー・ホークやヘッジファウンド・マネージャーでイタリア・サッカー協会の代表を勤める、パッロッタ・ジェームスも投資しており、どの業界の成功者から見ても、ブルーボトル・コーヒーの情熱は本物であり、成功者に共通する「何か」を持っているのかもしれません。

まとめ(新しいコーヒー文化、日本へ上陸)

ブルーボトルを中心とする「第三世代コーヒー」の台頭はスターバックスのような生産性を重視したライフスタイルから、ゆっくりと美味しいコーヒーを飲みながら頭を活用することが必要とされる「創造性」を重視した時代のシフトが大きく影響しています。

それに付随して、多くの食品業界が工場化してしまったことや、すべてをデジタル化しようとするシリコンバレー文化に対して、密かな人間の抵抗かもしれません。


↑シリコンバレー文化の反動:人間が悲鳴を上げている。

日本もデジタル化が進み、同じような状況にありますが、ブルーボトル・コーヒーは海外第一号店の場所に日本を選びました。CEOのフリーマンさんは次のように述べています。

「羽田空港からモノレールに乗ってホテルに到着する。これが未来のあるべき姿でしょう。日本にはクオリティーの高いコーヒーを提供する喫茶店の文化が深く根強いる。値段は高いし、待ち時間も長い。でもそれがどうだって言うんだい?美味しさが一番重要だよ。」

ブルーボトル・コーヒーの他にもジャック・ドーシーが投資するサンライト・コーヒーやインテリジェンシア・コーヒーなど新しい時代を予感させるライフスタイルがアメリカで浸透しつつあります。

資本主義が暴走し始め、テレビ番組から食の安全管理まですべてが視聴者や売上重視になってしまい、現在の世の中は明らかに方向性を見失っています。

ソーシャルメディア革命で大成功した起業家たちが小さなコーヒー文化を支援するのは、恐らくこの新しい「コーヒー文化」に人類の歩むべき道が見え隠れしているからでしょう。


↑暴走する資本主義の時代に、美味しいでも飲みながらちょっとゆっくり考えてみる。

シリコンバレー発の新しいコーヒー文化が暴走する資本主義とデジタル革命に「ちょっと待った!」をかけているように思います。僕たちの生活は数式では表せませんし、コーヒーをがぶ飲みしてノートパソコンをたたく時代は徐々に終わりを告げようとしています。

スマホやPCを置いて、美味しいコーヒーでも飲みながらゆっくり考える時期なのかもしれません。

/COFFEE_CREATIVE