December 26, 2014
スティーブ・ジョブズ「スタンフォード大学に行くよりも、パリで数年間、詩の勉強をすることを強く勧める。」

日本や欧米に関わらず、現在世界中の教育で共通していることは、言語と数学が中心の教育で、これらのカリキュラムは、産業革命がスタートしてからの数百年間あまり変わっていません。

大量生産、大量消費で経済が回っていた20世紀であれば、産業革命当初に作られた教育方法を、そのまま使い続けるのは十分理解できますが、1990年代から始まったIT革命によって、多くのものが自動化され、人間には機械のような「効率性」ではなく、機械には到底生み出すことのできない「創造性」が求められるようになりました。


↑言語と数学を中心とする教育システムは産業革命全盛期で活躍するためのもの。(Pic by galleryhip)

なぜ創造性の固まりである、芸術、アート、そしてダンスの重要性は国語や数学よりも低いのでしょうか?

リーマンショックによって今まで信じてきた価値感が壊されて、「答えがある時代」から「答えのない時代」に大きくシフトしようとしている中で、私たち人間も、新しい時代に向けて大きくマインドシフトをしていなかければなりません。

英語やプログラミング、そしてMBAなど、ある程度「答え」を明確にしてくれるものは、もちろんこれからも必要ですが、イノベーションや業界改革などが騒がれる中で、明確な「答え」がなく、すぐに結果につながらないものに投資していくことが、最終的にはイノベーションを起こす近道になるのではないでしょうか。


↑明確な答えがないものに投資することがイノベーションへの一番の近道。(Pic by Flickr)

基本的にクリエイティブな人というのは、前提のある情報と自分の想像力を使って、一つの問題に対して複数の解決方法を導き出しますが、1600人の幼稚園児から高校生を調査したリサーチによれば、幼稚園児の約98%がこの「複数の解決方法を導き出す力(divergent thinking」を持っていたのに対して、小学生は32%、そして高校生に至っては10%しか持ち合わせておらず、人間は教育を受ければ受けるほど、どんどん創造性を失っていることが分かります。

実際、ウィリアム・アンド・メアリー大学の調査によれば、人間の創造性は1990年をピークに低下しており、中でも幼稚園から小学3年生までの間の衰えが一番激しいと報告しています。


↑いつの日か自分の頭で考えるのをやめてしまう。(Pic by Flickr)

イノベーションの代表格とされてきた、スティーブ・ジョブズはまだ世の中に無いものは、今存在するモノとモノの組み合わせで、創造性とは、その「組み合わせ」を見つける経験をどれだけ行っているかと述べた上で、「スタンフォード大学に入ることも悪くはないが、パリで数年間、詩の勉強をしたり、発展途上国の生活を自分の目で見てみることを強く勧める。」とアドバイスしています。

女性のプログラミング習得をサポートする「Rails Girls」の創業者で、フィンランド出身のLinda Liukasさんが、「もしJavascriptが世界の共通言語なら、もう私たちには文法のレッスンは要らないけど、詩のレッスンが必要ね。」と述べてるように◯◯×芸術(感性)のメソッドはどの業界でも取り入れることができるのではないでしょうか。


↑ジョブズ「スタンフォードへ行くよりも、詩の勉強をすることを強く勧める。」(Pic by Flickr)

マッキンゼーの戦略コンサルタントとして、長らく企業の現場の事業変革に取り組んできた、斎藤立さんはもうロジックだけでの問題解決には限界があると感じ、経営にアートを取り入れることにしたと仰っていますが、ジョブズも同じような概念を別の言葉で表現しています。

「アップルのDNAだけでは十分じゃない。テクノロジーが人文科学、自然科学、社会科学と結婚することで、人間の心が歌い出すんだ。」


↑テクノロジーと芸術が結婚することで心が歌い出す。(Pic by flickr)

シリコンバレーの投資家、マーク アンドリーセンは、「文学の学位を取ったって、結局卒業すれば靴を売るはめになる。」と述べていましたが、ペイパルの創業者ピーター・ティール氏や、個人資産2兆円を超える投資家、ジョージ・ソロス氏は大学で哲学を専攻していましたし、当然のことながらジョブズも大学では、テクノロジーとは「直接関係なさそうな」西洋書道のクラスを取っていました。


↑ジョージ・ソロス「全く関係ないことを自分の専門分野へ」(Pic by Flickr)

現在、MBAなどの教育の現場や大企業の経営改革の場面でも、データに基づいたケーススタディーやロジックを使って「直線的」にゴールにたどり着こうとして、数字上では目標を達成しても、結局それは世の中の常識の範囲で、イノベーションまではたどり着けていないのかもしれません。

現に、売上げや企業価値は数字で表すことができても、従業員の気持ちや感情を数字で表現するのは、そんなに簡単なことではありませんし、都合よく感情を数字にしていくことで、どんどん会社が崩れていく可能性があります。

最近では従業員に、「働く上で大切にしていること」を自由に絵で表現してもらい、大企業の役員たちがそれを経営会議の場で並べて、戦略を考える企業もあると聞きますが、従業員の方々も社会人という立場上、言葉では心にウソをつけても、絵でウソをつくことはなかなか難しいのではないでしょうか。


↑芸術はその人の正直な気持ちを表す。(Pic by Flickr)

世界を代表するロンドンの現代美術館、テイトモダンの周辺では、開館後15年間で地域住民は2倍に増え、働く人の数も数千人増加したというデータもあり、もしかすると世の中はその業界のプロフェッショナルや政治家が指揮を取るよりも、未来を描けるアーティストが前に立った方が上手く機能するのかもしれません。

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