May 12, 2015
モンドセレクションを受賞した商品は、絶対に購入してはいけない。

コンサルティング会社、ミルワード・ブラウン・オプティマーがアメリカを代表する500社の企業価値を調査したところ、1980年、企業価値のほとんどが、オフィスや工場といった不動産や設備、そして在庫などの「目に見える資産」に構成されていましたが、2010年にはその割合は40%前後に落ち込み、残りの60%は目に見えない資産になっているそうで、長い間、P&Gのマーケティングトップとして活躍していたジム・ステンゲル氏は、目に見えない価値の30%以上は「ブランド価値」が占めていると述べています。


↑30%以上が目に見えない「ブランド価値」(sam deng)

ステンゲル氏はさらに、10年間にわたって、ブランド理念の面で、特に優れている50のブランドを調査し、ブランド力が強い企業は、そうでない企業に比べて、投資利益率(ROI)の伸び率が平均で4倍も高く、ビジネス界ではブランド理念を追求し、正しいことをすれば、新しい市場を切り開くことができ、長期的に考えれば、最も大きな利益を手にいれることができるようです。


↑長期的に正しいことを続ければ、利益はズバ抜けて高い。(illustration by L&C)

20世紀、多くのリーダーは経営や財務など、「ビジネス運営者」としての腕をひたすら磨いてきましたが、現代、ビジネスを急成長させていくためには、ビジネス運営者としてのスキルだけではなく、「ビジネス・アーティスト」としての素質が必ずと言ってよいほど必要であり、偉大なアーティストは世界を全く違う視線で見ることで、自分たちの製品に「目には見えない付加価値」を加えていくことができます。


↑「ビジネス運営者」ではなく、「ビジネス・アーティスト」(VirginMoney)

しかし、多くの企業は長期的なブランドを構築するなど、時間がかかり過ぎると考え、短期間でブランドを構築をしようと様々な操作を繰り返します。

「五人のうち四人の歯科医がトライデントのほうを好みます」、「有名大学で二重盲検比較試験をおこなったとこ ろ……」、「プロに愛用されている製品なら、あなたにもいいに決まっています!」、「一〇〇万人以上の ご愛用者は、まだ増えつづけています!」

このような「操作」は、多くの人が購入しているモノを買わないでいると、あなただけ仲間外れになりますよとプレッシャーを与え、とりあえずこの商品を買っておけば問題ないだろうと、消費者に思いこませることで、商品の売り上げを上げようとしています。


↑操作を続ける。だって、操作には効果があるのだから (photozou)

最近、「モンドセレクション 金賞を受賞しました」と、高々にプレスリリースを出して、ロゴを商品に貼って企業を見かけますが、これはベルギーにあるモンゼセレクション本部に1製品につき15万円払えば、約8割が入賞する賞で、2012年だけでも3000品目が受賞しており、そのほとんどが日本企業だと言われています。

日本では急速に知名度を上げていますが、もちろん海外ではほとんど無名で、企業がお金を払ってモンドセレクションを取るのは、ただ単に売上が上がるからであり、このように消費者をバカにするような商品があふれていて、日本は本当に大丈夫なのかと不安になってしまいます。


↑お金を払えば、誰でも入賞するモンドセレクション (くーさん)

モンドセレクションを日本企業が導入するきっかけを作った、「たべっ子どうぶつビスケット」を販売するギンビスの宮本周治社長は、1975年にモンドセレクションを使うキッカケについて、ビスケットの本場ヨーロッパで、日本の菓子が通用するのかどうかを確認したかったからだと述べた上で、今後ブランド戦略について次のように述べています。

「ひと言で言えば、ブランドエクステンション(拡張)ですね。それにより強い柱をさらに強くし、堅実な成長を達成する。」

審査の基準が年々どのように変わっているのは分かりませんが、15万円払えば、8割が入賞し、年間3000もの製品が受賞している賞が、真のブランド戦略と言えるか、マーケティングの知識がない人でも、少し考えれば分かるのではないでしょうか。


↑操作は消費者を侮辱する (元)

フランスの高級ブランド、ルイ・ヴィトンは150年以上に渡って、人生という旅を上質で濃厚な経験にするための商品を販売しており、創業者のルイヴィトンは1821年にフランス東部のジェラ地方で生まれ、14歳の時に家を飛び出して、およそ400キロを歩いてパリに向かい、かばん職人としてキャリアをスタートさせましたが、この頃から「人生という旅を上質で濃厚な経験する」という想いは変わっておらず、パリのシャンゼリゼ通りにあるお店の売り上げの半分以上は旅行者が占めていると言います。

実際、2008年、世界中を巻き込んだ大不況で、高級品と旅行は大きな打撃を受け、ルイ・ヴィトンのビジネス自体が大きく脅かされましたが、彼らは自分たちの信念を曲げることはありませんでした。


↑200年経っても、「旅を上質で濃厚な経験する」というビジョンは変わらない (Susanna A.)

スターバックス CEOのハワード・ショルツさんはコーヒーを通じて、ストーリーを語り、イタリアの庶民の集い場である「バール」を再現することでビジネスを大成功させましたが、ある記事によれば、現在スターバックスはインターネットを通じた「メディア・カンパニー」に大きくシフトしており、ノンフィクションを中心とした人間関係を描くコンテンツを作成していくと述べています。


↑スターバックスが「メディア・カンパニー」にシフト (Tracey)

アメリカのバージニア州にあるポリフェースという農場は、「大企業にはできないことをする」という強い信念を持ち、コストはかかりますが、牛にはトウモロコシのかわりに草を食べさせ、抗生物質は決して与えず、決して食品を外に出荷しないことを徹底しています。

お客は農場のどこへでも自由に出入りできるため(典型的な食肉処理工場ではそんなことはできない)、愛する家族が口に入れる食品は、本当に信用できる人たちからと何時間もかけて遠方から買いに来る人も多いそうですが、ポリフェースは鶏肉を売っているわけではなく、「考え方」を売っていることに注目しなければなりません。


↑食品ではなく、「考え方」を売る (Brian Johnson)

消費者があるブランドを選ぶ理由は機能や価格だけではなく、私たちは感情に左右されず、客観的に物事を判断しているように思う傾向がありますが、現実はそうではなく、認知神経科学の研究でも明らかになっているように、私たちの決断と選択は感情によって大きく左右されており、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルは指摘するように、最初の2秒、なんとなくが正しく、私たちは「考えずに考える」ことを常に頭の中で繰り返しています。


↑マルコム・グラッドウェル「最初の2秒、なんとなくが正しい」(Fotagenic)

よく広告費に使う予算が多ければ、多いほど、その企業にはオリジナリティーがないと言われますが、レッドブルはマーケティングの予算の80%をコンテンツ作成に使い、20%(もしくはそれ以下)をコンテンツをサポートするための広告に使っています。

お金を使わず遊ぼうと決めた時、始めてクリエイティブな力を発揮するように、モンドセレクションやフェイスブック広告など、小手先だけの「ブランド戦略」に頼るのではなく、脳みそに汗をかいて考えたアイディア以外、長期的な利益を生むことはありえないのかもしれません。


↑広告費が少なければ、少ないほどその企業のブランドが高まる (Juan Felipe Rubio)

不況になればなるほど、多くの企業がモンドセレクションなどの安易なブランディングに頼りますが、時代のニーズが、「ビジネス運営者」から「ビジネス・アーティスト」にシフトしていく中で、今後も安上がりなブランド戦略しか持てないようでは、日本からヴァージンやレッドブル、そしてスターバックスのような「目に見えない価値」を持つ本当のブランドは難しいのではないでしょうか。

レッドブルやスターバックスを消費するだけの国になるか、それとも自分たちで作る側になるか、たべっ子どうぶつビスケットを食べながら考えている暇はありません。

Eye Catch Pic by hekke

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