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戦後、日本でもアメリカでも、個人が会社に忠誠を誓い、会社が個人に安定を保証するという単純な取引が、個人と組織をしっかりと結びつけていました。
なかでもIBMは約50年間にわたって、「完全雇用」を貫き、どんなに業績が悪化しても社員を解雇しないことを約束してきましたが、IBMや他の大企業は、その考え方が時代遅れなことに気づき始めたようです。
↑つい最近まで、個人と組織は「忠誠=安定」という言葉でしっかり結びついていた。(Pic by Flickr)
「会社は家族と同じだ!」とよく言われますが、典型的な大企業の内部は次のような感じかもしれません。
住宅ローンを抱え、未来の見通しも立てられない夫婦が、ある日、あらためて家の中を見回すと、20歳の子供がリビングルームでポテトチップスを食べながらドラマの再放送を観ていることに気づいた。
そんな息子に対して、「冗談じゃないわ! さっさと家から出ていってちょうだい!」とパパやママが言うと、子供も「ああ、上等じゃないか。前から、こんな家、クソくらえと思っていたよ。」(フリーエージェント社会の到来 P53)
こうして、個人が会社に忠誠を誓い、会社が個人に安定を保証するという単純な取引は決裂、労働者が一人の人間として自立する、フリーエージェントとしての生活が幕を明けようとしています。
↑こうして労働者の子供時代は終わった。 (Pic by Flickr)
実際、1970年には約50年あった企業の寿命は2008年には10.3年、現在では確実に10年を切っていると言われていますが、それ以上に重要なのはIT革命による世の中の変化の速さです。
ハブスポット社の調査によれば、1983年にアメリカのフォーチュン1000に選ばれた企業は、10年後の1993年にも約800社選ばれていますが、2003年にフォーチュン1000に選ばれた1000社は、10年後の2013年にはたった250社しか残っておらず、インターネット時代に適応できなかった企業はこの10年間でどんどん消えていきました。
↑変化に適応できない企業は滅びるのみ。(Pic by Flickr)
それにともなって、職種の寿命もどんどん短くなっていき、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏はIT業界の変化の速さを「18ヶ月」と述べましたが、10年前、「アプリ開発」という職業を誰も知らなかったように、2025年にはアプリ開発という職業があっとことなど誰も覚えていないかもしれません。
このように変化の速い世の中で、組織にしがみつこうとする人たちを社内に置いていたら、会社ごとなくなってしまうのは時間の問題です。
↑IT業界のサイクルは18ヶ月。10年後には「アプリ開発」という職業があっことすら誰も覚えていない。(Pic by Flickr)
アメリカの社会学者、ウィリアム・ホワイト氏は「組織のなかの人間」という本の中で、「ゲームの仕組みは組織に有利なようにできている」と述べていますが、現在の流れはそれと全く逆になっており、大手企業は新しいアイディアを貰うために、10代、20代の若者に頭を下げなければならないことも少なくありません。
さら
に家で使っているiPadと会社内で使っているiPadは、基本的な機能、扱う情報量のレベルに大きな差はありませんが、一つだけ大きく違うところは、個人のほうが企業よりも「早く導入している」ということであり、個人の方が先に情報収集や拡散の利便性を享受するようになってきています。
↑ゲームの仕組みは個人に有利なように機能し始めている。(Pic by Flickr)
ただ、現在の教育システムは未だに、企業に忠誠を誓う「組織人間」を育成するためのものであり、名門大学に入学できるのは、時代遅れの教育制度で良い成績を収めた人たちが多いのが事実です。
企業に依存せずに生きていく人たちは、会社の人材開発部にTOEICを受けろ、セミナーに行け、と尻を叩かれなくても、自己投資が自分の仕事に直結することを理解しているため、自主的な勉強を続けていくことができます。
↑企業に依存せず生きていく人たちは、自己投資が次の仕事に直結することを一番理解している。(Pic by Flickr)
ある研究によれば、世界で最も進んでいる街の一つ、ニューヨークの労働者は週の平均労働時間の1/3に当たる、13.5時間を新しい技術の獲得のために(無給で)費やしているらしく、これはインターネットの発達によって、自分の好きなものはなんでもWeb上で学べるようになり、公式のプログラムではとても追いつけない業界の速いニーズに対応できる環境が整ったことが大きく影響しているようです。
↑自由を謳歌するニューヨーカーは週13.5時間を自己投資に費やしている。(Pic by Flickr)
ビル・ゲイツも出資するオンライン学習をサポートするNPO団体、カーンアカデミーの創業者、サミエル・カーン氏は次のように述べています。
「500 年後に生きる人たちがこんな会話をしているのが想像できるよ。”8 歳の子供が工場のようなクラスルームで物理学の本質を理解しようとしてたんだって。こんなの変だよね。”」
これはもちろん大人になった私たちも同じことで、専門学校や会社の公式プログラムを通じてスキルを高めなくても、場所や時間に囚われず、インターネットを通じて学習することが驚くほど簡単になり、21世紀は立派な卒業書証よりも、インターネットにアクセスして自分が必要としている情報を見つけて応用し、まだ世の中に存在しないものを生み出す力が重要になってくるのではないでしょうか。
↑子供も大人も同じ。工場のような学校やオフィスで、物事の本質を理解することはできない。(Pic by Flickr)
ただ私たちは神ではないため、一人で世界を変えたり、イノベーションを起こしたりすることはできません。
大手コンサルティング会社マッキンゼーの1996年のレポートには、「才能をもっている者が勝つ」と書かれていますが、優秀な人材を大勢集めることは、多額資金を集めるよりも遥かに難しく、金銭的なモチベーションよりも、共有できる遥か大きなビジョンを持つことが、漫画「ワンピース」のような才能のある仲間を集める鍵となってくるのではないでしょうか。
↑優秀な人材を大勢集めることは、多額資金を集めるよりも遥かに難しい。(Pic by Flickr)
フェイスブックの創業メンバーの会話の中には、何度となく「支配(ドミネート)」という言葉が飛び交い、当時、「フェイスブック概要」のページにはマーク・ザッカーバーグの肩書きとして、「創業者・指揮官・国家の敵」と記されており、同じような志を持った仲間がザッカーバーグの周りに集まったことで、フェイスブックは大きな成功を収めました。
↑「支配」「国家の敵」このビジョンに共有する人は集まれ。(Pic by Flickr)
実力を持ち、本当に明確なビジョンを持つ人たちは、くだらない仕事を見事にやり遂げたとしても、それは本当の業績とは言えないし、そもそも、「やる価値のないことは、立派にやり遂げるだけの価値はない。」と考えます。
以前、どこかの経営者さんが、「週末が待ち遠しいと思う人は、人生において大損をしている。」みたいなことを述べていましたが、組織社会を抜け出して自由に生きる人たちは、稼いだお金 で何かを購入して喜び得るのではなく、1日の仕事を素晴らしいものにすることで自己の欲求を満たしていくことでしょう。
↑週末が待ち遠しいと思う人は、人生において大損をしている。(Pic by Flickr)
アップルの従業員たちは、「週に90時間働く。でもそれが大好きなの」と書かれたTシャツを着て仕事をしていたそうですが、彼らにとって自分の仕事は面白く、それ以上に、彼らは自分たちの手で世界を変えていけることが一番の喜びだったのかもしれません。
↑「週に90時間働く。でもそれが大好きなの」(Pic by Flickr)
アップルやフェイスブックのように、世界を変えていくことが楽しく、組織の中で働き続ける人もいますが、バブル崩壊後から多くの企業が安定を保証できなくなり、それと共に従業員の忠誠心も徐々に薄れていったと推測すると、2008年の金融危機はそれにとどめを刺したことになります。
アラン・バートン・ショーンは、もう15年以上前に出版した書籍の中で二世代後の人々は自分たちの祖父母に、「雇われるというのはどんな感じだったか」と尋ねるようになるだろうと述べていますが、数年もすれば、運転免許を取るよりも先に起業する若者がどんどん増えてくるのかもしれません。
↑運転免許を取る前に起業する若者はこれからどんどん増える。(Pic by Flickr)
個人が会社に忠誠を誓い、会社が個人に安定を保証するという単純な取引が決裂した今、仕事のスピードはどんどん加速し、個人が抱えるプレッシャーやリスクは間違いなく多くなりますが、それと同時に多くの人が自分の人生に独立を宣言することで、企業に指図されず、自分の能力を存分に発揮できる世の中かが少しずつ現実的になってくるのではないでしょうか。
↑企業に指図されず、自分の能力を十分に発揮する社会。(Pic by Flickr)
この未来を楽観視できる点は、柔軟性、コラボレーション、そしてクリエティビティ、どの点を取っても、ゲームの仕組みは個人に有利なようにできており、リスクを取って行動すれば、必ず個人のプレーヤーに追い風が吹いてくるということです。
自分の将来は走りながら考えるくらいがちょうど良いのかもしれませんが、リーマンショックから早7年、未来はそれほど気長には待ってくれそうにありません。