グーグル日本法人の元代表、村上憲郎さんによれば、グーグルやフェイスブックなど短期間で急速に成長する世の中の0.1%の企業は、世の中に突然湧き出てくる「ソーシャルメディア」、「ビッグデータ」、そして「クラウドコンピューティング」などと言う新しい概念を、ひとつの「点」と捉えているのではなく、テクノロジーや社会の流れを一本の「線」で捉えているため、周りにどれだけ非難されようが、すぐに利益を生み出さず、多くの赤字を出してしまおうが、思い切って新しいことに挑戦できると言います。(1)
確かにグーグルが当時約10億5000万円の売上しかなかったYoutubeを約1600億円で買収した時、ほとんどの人にはその額の意味が理解できませんでしたし、フェイスブックが当時売上ゼロであったInstagramを810億円で買収した時も、Whatsappに2兆円(!)以上 払った時も、アマゾンがザッポスに830億円払った時も、多くの人が巨額の買収額に眉をひそめ、この行動をしっかり理解できたのは、ものごとを「点」ではなく、「線」として見ている世の中の0.1%の人達だけでした。
↑未来を“点”ではなく、“線”でみれば、Youtube、Instagram、そしてWhatsappも妥当な金額。
なぜ、99.9%の人が未来を予測できないかと言えば、人間ひとりの知識や思考力には限界があり、世の中の変化はひとりの人間が認知できないほどの莫大な要素が混ざりあって進化していくため、毎年、年末年始に発表される来年の業界予想みたいなものを見て、「フム、フム」と頷いているようでは、未来に先回りすることなど、まずできるはずがありません。
ビル・ゲイツは次のように述べています。
「私たちは次の2年に何が起こるかを過大評価して、10年後に起こるであろう変化を過小評価する傾向にあります。それに身を任せて、自分を甘やかしてはいけません。」
↑マイクロソフトもWhatsappを買いたかった。 (Pic by iStock)
Airbnbの創業者が「自分自身が想像できることは、必ず現実化することができる」と述べ、Twitterの共同創業者であるジャック・ドーシーが「未来は自分の頭の中にある。ただ、まだそれが世の中に上手く分配されていないだけだ。」と言っているように、長期的に見れば、時間とともに価格面や技術面でイノベーションが起こり、抜けていたピースが埋まっていくことで、人間が想像できるようなアイデアのほんとんどは実現化されていき、グーグルの創業者もTEDトークで次のように述べていました。
「私は様々な企業を見てきました。なぜ多くの企業が成功し続けることができないのか。実際、私たちもたくさんの失敗を経験してきましたが。彼らの何が間違っていたのか?たいていの場合は、ただ未来をつかみ損ねていただけなんです。」
↑長期的に見れば、人間の想像できることなんて、大体は実現する。
常に時代の5年先から10年先は、2016年現在の世の中に見え隠れしていると言われますが、最近ではテクノロジーの進化があまりにも速く、IT分野の会社を経営する起業家や投資家でさえ、技術の進歩についていけず、あのグーグルの経営陣ですら、未来を正確に予測できないという前提をもとに組織づくりをしていると言います。
中でも、佐藤航陽さんの「未来に先回りする思考法」という本によれば、グーグルの社員が仕事の時間の20%を自分の好きなことに使ってよいという「20%ルール」は、仮にトップの意思決定が間違っても、組織が存続できるようにするためのリスクヘッジだそうで、実際、グーグル元CEOのエリック・シュミットも「グーグルで私が犯した一番の過ちは、ソーシャルネットワークの存在を軽視していたことだ。」として、経営判断のミスを認めています。(2)
↑グーグル元CEO「明確な“線”を見極められなかったのは、間違いなく私の責任だ。」(Pic by iStock)
逆に、2004年当時、少し違う角度から世の中の「線」を描いていたマーク・ザッカーバーグは2010年、タイム誌で「今年の人」に選ばれ、そのインタビューで次のように話しています。(3)
「あの当時のことで、とにかく異常だなと思うのは、大学時代に友達と交わした会話を覚えているんです。世の中が今みたいな状況になるという前提で物事を考えていました。でも、僕たちはただの大学生じゃないかと。そんな大それたことを実現する最適任者が、僕らだったなんて。こんなおかしいことはないですよ。(しばらく間を空けて) 後からわかってきたことなんですが、おそらく他の人たちは僕らほど気にしていなかったということなんでしょうね。」
↑結局、本気で信じていたのは僕たちだけだったんでしょうね。 (Pic by iStock)
株式投資で一番愚かな行為は、「株価が上がっているから買うこと」だそうですが、インターネットが空気のように世の中に浸透し、もの凄いスピードで世の中が変化していく時代だからこそ、2、3年後の予想を放棄し、社会全体のパターンを見抜いて、的確な判断を下していかなければなりませんが、ビル・ゲイツ言わく、「私に話を持ってくるようでは、もう始めるのが遅すぎる」のだそうです。
“短期間”で偉大な企業を築いた人が高いコミュニケーションスキルを持ち、リーダーシップに優れていることはごく稀だそうで、彼らに共通していることは、「世の中の流れを読み、今どの場所にいるのかが最も有利なのかを適切に察知する能力」なのだそうです。(4)
20世紀に入ったばかりの頃、ニューヨークタイムズの一流記者が「飛行機の実現までには百万年から1千万年はかかるだろう」という記事を書いた数週間後、ライト兄弟が人類で初めて空を飛ぶことに成功し、2002年にグーグルのラリー・ペイジが全世界の大学の蔵書を6年ですべて電子化すると言うと、「蔵書をすべて電子化?1000年はかかる」と反論されますが、現実はラリーの言葉通りに進んでいきました。
↑ものごとを「点」でしか考えられない99.9%の人が未来を予測できないのは、当然と言えば、当然。
人間は放っておいても、未知の領域を開拓する性質を持っており、今後はIT企業から生まれた利益が宇宙や健康など様々な産業に流れていく可能性がありますが、それをどこからともなく現れた「点」として捉えるのか、それとも世の中全体を考慮した「線」として捉えるのか、思考の仕方一つでビジネスは大きく変わってくるのかもしれません。
ビル・ゲイツがCEOをスティーブ・バルマーに譲って会長に退いた1998年、「ライバルは誰か?」と聞かれて、「どこかで小さな会社をおこし、自宅のガレージを作業場に何かを生み出そうとしている若者たちだ。」と答えた年に創業したグーグルは、6年後に上場を果たして、マイクロソフトを脅かす存在になり、グーグルが上場した年に創業したフェイスブックは、その6年後の2010年に
グーグルのアクセス数を抜き、アメリカで一番のウェブサイトになりました。(5)
フェイスブック本社にあるポスターには、「完璧よりも完了」というポスターが掲げられているそうですが、要するに自分の頭の中で「点」ではなく、しっかりとした「線」が描けたのなら、御託を並べる前に、さっさと行動して終わらせろというザッカーバーグなりの的確なメッセージなのかもしれません。
1.佐藤航陽「未来に先回りする思考法」(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年) Kindle P140 2.佐藤航陽「未来に先回りする思考法」Kindle P1952 3.エカテリーナ・ウォルター「THINK LIKE ZUCK マーク・ザッカーバーグの思考法」(講談社、2014年) Kindle P555 4.佐藤航陽「未来に先回りする思考法」Kindle PP2129 5.桑原 晃弥「マーク・ザッカーバーグ 史上最速の仕事術」(ソフトバンククリエイティブ、2011年) Kindle P310
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