January 2, 2017
iPhoneの充電器を寝室に持っていった時点で、あなたはもう経営者失格よ。

新聞や出版業界の衰退により多くのジャーナリストが職を失っているというニュースを最近良く耳にするようになりました。欧米の大手新聞社は、記事を読むためには会員登録をさせたり、数多くのポップアップ広告などを入れてなんとか衰退を防ごうとしていますが、長い間、お金や権力によってメディアを支配してきた人達にとっては、方向変換が難しい時代なのかもしれません。

伝統的なメディアを運営する企業が、時代の変化で大きく苦戦するなか、ギリシャ語の強いアクセントで、メディアとジャーナリストの未来をものすごく楽観的に語る女性がいます。

「ジャーナリストの黄金時代が始まろうとしています。」


↑もう若者が「紙」を手に取ることは少ない。

このように語るのは、月間3300万人以上のユーザーが訪れるハフィントン・ポストの創業者、アリアナ・ハフィントンさんです。2005年にハフィントン・ポストを立ち上げると、ブロガーやジャーナリストが無償で記事を投稿したくなるようなプラットフォームを作り上げ、数年で一気に拡大しました。

アリアナさんはハフィントン・ポストのアクセス数がもの凄い勢いで伸びていることを背景に、
「ジャーナリストが新聞に依存する時代は終わった」と断言しており、新聞社に記事を渡して数万円貰うよりも、無料で記事を書き、たくさんの人に自分の記事を読んでもらうことで、自分の影響力を広げる方が価値をもたらす時代になっていくだろうと予測しています。


↑無料で記事を書くが、多くのユーザーに読んでもらえる。
(Huffington Post HP)

アリアナさんがハフィントン・ポストをAOLに売却した時、ブロガーやジャーナリストの無償の投稿によって、ハフィントン・ポストが成り立っているのだから、彼らにもお金を渡すべきではないか?という意見もありました。しかし、お金を貰うよりも、多くの人に読んでもらうことの方が価値があると信じているアリアナさんは、登録しているブロガーとジャーナリスト全員に次のようなEmailを送りました。

「アメリカ国内で1170万人のユーザーが訪れるハフィントン・ポストと世界で2500万人のユーザーを持つAOLが一緒になりました。あなたの投稿は国内に留まらず、国境を超えて世界中にインパクトを与える存在になったのです。」


↑お金をもらうよりも、読んでもらう方が価値がある。

ギリシャで生まれ、16歳でギリシャ語のアクセントに苦労しながらケンブリッジ大学に入学、億万長者と結婚したことでアメリカに移り住みますが、夫が同姓愛者であることを告白し離婚と、様々な角度から世の中を見てきたアリアナさんだからこそ、無料でも喜んで記事を投稿するプラットフォーム、ハフィントン・ポストを作ることができたのかもしれません。

そんなちょっと変わった人生を歩んできているアリアナさんですが、普段はどんなことに気をつけて生活をしているのでしょうか。

会社の昼寝ルームはいつも予約でいっぱいよ。



経営者やビジネスマンの中には、生活習慣などは一切かえりみず働き続ける人と、自分のライフスタイルに合わせて、一定の「ルール」を設けることで自分をマネージメントし、周りからは少し違った視点で、世の中を観察することで創造性を発揮する人たちがいます。アリアナさんも実は数年前までは、どこにでもいる多忙なビジネスウーマンの一人でしたが、ある日疲労で倒れ、
アゴとオデコを怪我したことから自分の生活習慣を見直します。

アリアナさんは睡眠について本格的に研究を始め、様々な医者や科学者からアドバイスを貰った結果、「仕事の生産性を上げ、人々を感動させて、人生を楽しいものにするための唯一の秘訣は十分な睡眠を取ること」という結論を導き出します。
TEDトークのスピーチで次のように述べています。

「前夜に4時間しか睡眠を取らなかった男性と食事をする機会が最近あったんです。私はその男性と食事をしながら心の中ではずっとこう思っていました。もしあなたの睡眠時間が4時間ではなくて、5時間だったら、この食事はもっともっと楽しいものになっていたでしょうね。」


↑睡眠時間が少ない人との会話はつまらない。

アリアナさんはなぜ高いIQや学歴、ビジネス経験を多く持ったCEOや政治家が酷い意思決定をしてしまうのかを例に上げ、休日や睡眠を削って働き、仕事一本に集中し続けることが「男性」のステータスであり、それが従来の成功モデルであったと指摘しています。

CEOや政治家がすべきことは24時間働き詰めになることではなく、「タイタニックが氷山にぶつかる前に、氷山を見つ出すことです。」ほとんどのCEOや政治家がタイタニックが氷山にぶつかった後で、やっと氷山の存在に気づくとアリアナさんは指摘し、その原因の多くは、働き詰めで睡眠時間が短く、意思決定の力が鈍っているからだと断言しています。


↑睡眠時間が減ると氷山の存在に気づかない。

ウィンストン・チャーチル、レオナルド・ダ・ヴィンチ、そしてジョン・F・ケネディなども昼寝魔として知られ、Mr.Childrenの桜井さんも寝袋を持ち歩きどこでも昼寝をするそうですが、しっかりと睡眠をとらないことは、正確な「意思決定」をすることが仕事のCEOや政治家にとって、仕事で手を抜いているのと同じことなのかもしれません。

IT業界には睡眠時間が少ないことを自慢する人が多いように思いますが、こうなってくると、このような人達と一緒に仕事をするのが少し怖くなってきます。(笑)ハフィントン・ポストのオフィスには昼寝用の部屋が二つあるそうですが、常に満室で、新しい昼寝ルームを作って行こうと言う計画がどんどん進んでいっているそうです。

他人と会話している時に、iPhoneをいじるなんて絶対にダメ



スマートフォンの普及によって人々はどこにいても、世の中のすべての情報にアクセスできるようになりました。ツイッター、フェイスブック、そしてLineとリアルタイムで流れてくる情報を常にチェックしていたいという気持ちは僕もよく分かります。アリアナさんは1日8時間寝ることと同じように、スマートフォンとの付き合い方についても自分の中でしっかりルールを決めて、経営者として、また一人間として大切なものを見失わないように気を使っています。

「私の場合は、本当に幸運で母親が大切なことをすべて教えてくれました。ある日、私がメールをチェックしながら娘たちと会話していると、母親がものすごい勢いで怒ったんです。”アリアナ、私は複数の事を同時にやろうとする人が大嫌いなの。軽蔑するわ”ってね。」

アリアナさんはこの母親の言葉に機に、スマートフォンとの付き合い方を改めます。人と会話している時だけではなく、
自分の寝室には電子機器を一切持ち込まず、自分の娘にも寝室には電子機器を一切持ち込まないように言い聞かせているそうです。


↑自分なりのルールを決める「母親の教えは自分の娘にも。」

「クリエイティビティーをマネージメントするわけではありません。クリエイティブになるために自分をマネージメントするのです。」
アリアナさんはあるスピーチでこう言っていました。

現在、多くのリーダーは忙しすぎて、「創造的になるためのスペース」が頭の中にありません。ジョブズが禅の修行をし、瞑想することで頭の中に「創造するためのスペース」を作り出した話はあまりにも有名ですが、ビル・ゲイツ氏も“Think Week”と言って、1週間ほど家族や仕事仲間から離れ、南のビーチに寝そべって創造的になる時間を作っているそうです。


↑意識を集中させるのはスクリーンではなく自分の頭の中。

最近では普通に二人で会話していても、平気でフェイスブックのタイムラインをチェックする人が増えてきました。もちろん相手に失礼というのもありますが、マイクロソフトの調べでも、Emailをチェックしながら複数タスクを同時に進行させることはものすごく効率が悪いということが証明されています。大都市には田舎に比べて怒りっぽい人が多い一番の原因は、複数のタスクを同時に行うことがもの凄く多いためとのことで、「創造的になるためのスペース」をどんどん自分で食い潰してしまっていることになります。

まとめ


↑64歳、ステップダウンするつもりはない。(C2 Montréal/Flickr)

アリアナさんはAOLにハフィントン・ポストを売却し、巨額の富を得ましたが、現状に満足せず、すでに次の大きなプロジェクトに向けて動き出しています。アリアナさんが次に目指すのがノーベル賞受賞者からスペインの失業者まで誰でも世界ベースで議論を交わすることのできるプラットフォーム、the World Postの創業です。

すでにこのプロジェクトには英国元首相のトニー・ブレア氏やGoogle元CEOのエリック・シュミット氏などが参加を表明しており、このプラットフォームが完成すれば、国や世界を動かすリーダーやCEOと失業者や学生がリアルに話し合う場所が整うことになります。


↑現実に直面した人物とリーダー達は何を話すのか?

僕たちには想像がつなかい、人類の歴史を動かしてしまうような人達は、メディアや企業に引っ張りだこで、ものすごく忙しいように見えますが、「自分なりのルール」をしっかり作って、常に正しい意思決定ができる環境を整えたり、創造性が生まれやすくなるように頭の中を整理しています。

まだまだ日本では長時間働くことが美徳とされ、間違った意思決定をしていることにすら気づいていない企業も多いのが事実ですが、アリアナさんの習慣をマネて、ちょっと意識を変えるだけで、今までとは違った未来が見えてくるのかもしれません。

Eye Catch illustration by L&C

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