June 19, 2015
“尊敬できない上司”や、“興味のない男”にご飯をおごってもらうのは最悪「彼らの支配下に落ちたくなかったら、意地でも自分で払え。」

以前、ある人から「影響力の武器」という本を読み、この本の内容を着実に実行している人が、営業でダントツの成績を収めているという話を聞きましたが、世の中には「自動的な影響力の武器」を深く理解し、それを上手く活用することで、自分の欲しいものを手に入れる人もいれば、その影響力の奴隷となり、ただただ、人や企業に乗せられ続けている人たちも多くいるようです。


↑この内容を着実に実行している人も多い。

例えば、「影響力の武器」の代表的なものに、「返報性のルール」というものがあり、このルールは「他人から何か良いことをしてもらったら、似たような形でそのお返しをしなければならない」というもので、例えば、ある人が自分に誕生日プレゼントをくれたのであれば、今度はその人の誕生日にプレゼントをあげなければならないと言うように、生活の様々な場面で、このような状況に遭遇します。

「返報性のルール」が浸透したことで人間社会は大きく発展しましたが、ほとんどの人は自分の行動が何によって左右されているかを認識しておらず、「私だったら、どういったことに心を動かされるだろう」と自問するあまり、他人が自分に与えている影響の大きさを、かなり割り引いて考えてしまっているようです。


↑「返報性のルール」は人間社会に大きく貢献してきた。(Anne Worner/Flickr)

例えば、社会科学者のランディ・ガーナーはある調査に協力してもらうために、「調査票の記入をお願いします。」と手書きで記された付箋(ふせん)をカバーレターに貼ったものと、付箋をつけずに送ったもので実験をしたところ、付箋をつけたグループの75%は記入して返送してくれたのに対し、付箋を貼らなかったグループは36%しか返送してくれませんでした。

これは付箋が蛍光色だから目立つというわけではなく、付箋を探して、カバーレターに貼り、そして、メッセージを書くという小さな作業でも、受け取る側はそれを送り主の手間と心遣いと感じとり、それに対して「自分を何か答えなければならない」と思うようになるようです。


↑付箋一つでも「影響力の武器」になる。(the Italian voice/Flickr)

しかし、「返報性のルール」の悪いところは、望んでいない親切でも、いったんそれを受けてしまうと、借りできたような気持ちになってしまい、寄付金集めなどでこのテクニックはよく使われます。

例えば、ビジネスマンが人混みの中を歩いていると、宗教の信者が当然現れ、花を1輪差し出します。ビジネスマンはびっくりしながら、花を受け取りますが、「いらない」と返そうとすると、宗教の信者が次のように述べます。

「それは教団からの贈り物ですから、お持ちになってい下さい。ですが、教団の慈善活動のために、寄付していただければとても嬉しく思います。」

ビジネスマンは「いらない」と、とにかく花を返そうとしますが、宗教の信者は一向に受け取ろうとせず、最終的にビジネスマンはこのプレッシャーに耐えることができなくなり、ポケットから小銭を差し出して、ゴミ箱にその花を捨てます。 


↑要らないものでも、貰ってしまうと「返報性のルール」から逃げられない。

心理学者デニス・リーガン氏の実験でも、コーラをおごってもらった場合と、そうでない場合でくじ付きのチケットの販売を調べたところ、被験者は借りを返えさなければならないという義務感から、チケットを購入する確率が高くなりました。

実際、僕の父親も大手企業に勤めていますが、商社の人によくジュースをおごってもらうそうで、よく「あの一本にやられちゃうんだよな。」とよく言っていました。


↑コーラ一本でも借りができる可能性がある。

このように「返報性のルール」は恐ろしいほど力を持ちますが、恩を受けることで何か失うかもしれないという理由から、恩を拒むこともあり、ある女性は次のように述べています。

「いろいろとつらい思いをしてきたので、もうクラブで会った男性に飲み物をおごってもらうことはしません。おごってもらったんだから、体を許して当然だ、なんて相手に思われたたくないし、自分を追い詰めたくもないからです。」(影響力の正体 P702)


↑時に恩を拒むことも必要。

もちろん、影響力の武器は返報性のルール以外にも様々なものがあり、例えば不動産の営業マンが使う「比較のルール」は、後に出されるものが、最初のものとかなり違うと、その差を通常よりも大きく考える傾向があり、特に精神物理学の世界ではよく知られています。

不動産屋は「目くらまし物件」と呼ばれる、やたらと高値をつけたボロ屋を1,2件所有し、そちら物件を先に見せた後で、本来売りたい物件を見せ、本命物件の価値をつり上げたり、洋品店では高額商品から先に売るように指導し、たとえ一万円の高いセーターでも、5万円のセーターを購入した後であれば、さほど高くないのではないかという感覚に落ちいってしまいます。


↑比較されるものがあまりにも違うと、値段や価値の感覚が麻痺する。

またテレビ局などが使う影響力の武器として、「社会的証明の原理」というものがあり、これは自分がどうしてよいか分からないときは、周りに目を向けて、他人の行動を手本にするという行動指針に沿ったもので、テレビ局は面白い番組が放送される時に、録画された笑い声を同時流すことで、視聴者の笑う時間と回数が増え、番組がよりいっそう面白く見えることを様々な研究結果から理解しています。

さらに、最近のテレフォン・ショッピングなどでは、「オペレーターがお待ちしています、いますぐお電話ください。」という台詞を、「オペレーターにつながらない場合は、恐れ入りますが、繰り返しお電話ください。」に変更しました。

つまり、「オペレーターがお待ちしています」だけだと、消費者は鳴らない電話の前で暇そうにしているオペレーターを想像してしまいますが、「つながらない場合は、恐れ入りますが、繰り返しお電話ください。」と伝えることで、ひきりっぱなりしになる電話に、オペレーターが休む暇もなく対応する姿をさせることができます。


↑録画がした笑い声を流すことで、視聴者を操作する。(Gilgongo/Flickr)

さらにやっかいなのは「地位」や「肩書き」も見えない影響力の武器となり、これを調べるためにあるナースステーションで、高度な訓練を受けた看護師を対象に実験が行われました。

実験は、電話を通して行われ、まずは自分はこの病院の医師だと自称する人物が、電話に出た看護師に、特別な病室にいる患者にアストロゲンという薬を20ミリグラム投与するように指示します。ここで看護師が注意しなければならないのは次の4つです。

(1) 処方は、電話越しに口頭で伝えられ、これは病院の方針に反するもの。

(2)指示された薬は無認可のもの。

(3)薬の箱には、はっきりと”1日10ミリグラムまで” と書かれており、医師からの指示は明らかに、限度も超えた危険な量。

(4)看護婦は指示した男性とは一度も会ったことはなく、この電話以前に話したこともない。


↑指示された内容は、明らかに限度を超えた危険な量。

この実験は、驚くことに95 %の看護師がまっすぐ病棟の薬品保管棚に行き、アストロゲンを指示された量を確保すると、患者に投薬するために、病室に向かってしまいました。(実験のため、病室に向かう途中で止められた。)

ここで注目すべきことは、最も簡単にでっちあげることができる「肩書き」という影響力の武器によって、人間はいとも簡単に「プロとしての知性」を停止させ、機械的な反応に移行してしまうということで、有名人と写真を撮りまくり、フェイスブックにのせている人たちも「でっちあげ」で影響力を拡大しようとしているのかもしれません。


↑肩書きや地位など、簡単に偽われる。

「返報性のルール」、「比較のルール」、そして「社会的証明の原理」など様々な影響力の武器を見てみましたが、どれもこれもが悪いわけではなく、ただ誠実に人のために尽くしたいと考える人は世の中にたくさんおり、常に「私は利用されているのでは」などと考える人が増えれば、世の中はどんどんギスギスした世界になっていってしまいます。

大切なのは、影響力の武器を巧みに利用しようとする人や企業から身を守り、もし自分が活用するのであれば、それがどんな条件の時に最も効力を発揮するかを理解することで、日々の交渉を上手く進めるコツを掴むことなのではないでしょうか。

できれば、今後お世話になりそうな人には恩を売っておきましょう。そして、「こいつはダメだな」と感じた人から、コーラ1本たりともおごってもらわないことです。

参考: 「影響力の武器」、「影響力の武器:実践編」、「影響力の正体」

/INFLUENCE