March 19, 2015
ハーバード調査「年収が100万円増えても幸福度は2%しか変わらない。家族や友人と関係を深める方が効果的。」

健康や人間関係、そして金銭問題など、人生の幸福度に大きな影響を与えるものは数多くありますが、アメリカの経済誌「エコノミック・ジャーナル」が、13万人の被験者を対象に数十年間にわたって追跡調査したところ、幸福度に一番ネガティブな影響を与えるのは、「長期にわたる失業状態」だということが分かりました。

この調査によれば、夫や妻を亡くすなど非常につらい出来事に直面したとしても、数年後には配偶者が亡くなる以前の幸福度に回復しますが、1年以上続いた長期の失業のダメージは大きく、そこから回復するのに5年かかる場合もあったそうです。(幸福の習慣 P26〜P29)


↑幸福度に最も大きな影響を与えるのは「長期にわたる失業状態」(ryan melaugh)

別の行動経済学者が行った調査では、「自分の周りの様々な人のだれと一緒にいる時が一番楽しいか?」と質問し、友達や親戚、自分の子供から職場の同僚にいたるまで順位付けしてもらったところ、「自分の上司と一緒にいる時間」が最下位になり、さらに、「上司と一緒にいる時間」は洗濯や家事をしている時間よりも順位が低かったことを考えると、上司と一緒に過ごすぐらいなら、家事でもしていた方がマシと考える人が、世の中に溢れていることになります。

スウェーデンで約3000人の就労者を対象に行われた調査では、「自分の上司は無能だ」と思っている人は、そうでない人に比べて、深刻な心臓病のリスクが24%も高いという結果も出ています。


↑会社の上司と時間を過ごすぐらいなら、家事でもしている方がマシ。(AFGE)

様々なリサーチが証明しているように、企業の長期的な収益と幸福度には深い関係があり、それを分けて考えれば、従業員も企業も大きな代償を払うことになりますが、不況になればなるほど、短期的な利益を優先するようになり、最終的には数字でしか物事を考えられなくなってしまいます。

ハーバード大学のリサーチによれば、例えばパフォーマンスが高い企業であっても、たった29%の従業員しか会社のビジョンを明確に答えられず、このリサーチが正しければ、約70%の従業員はどこに向かっているのか分からず仕事をしているようなもので、仕事のスピードや生産性は確実に減速していきます。


↑どんなにパフォーマンスが高い企業であっても、従業員の29%しか会社のビジョンを理解していない。(Sean Kelly)

アリババの創業者ジャック・マーは、「愚かな部下は決していない。愚かなリーダーがいるだけだ」と述べてましたが、どれだけITが発達し、仕事が効率化されても、最終的に企業が長期的に競争力を保てるのは、「人間」という資本だけであることは間違いありません。

ジャック・マーは次のように述べています。

「現在、銀行の利息は2%程度です。もし、その金を社員に投資して彼らを教育したら、社員が生み出してくれるものはそれどころではありません。わが社は去年、広告にはまったくお金を使っていませんが、社員の教育には数百万元つぎ込んでいます。われわれはこれが一番いい社員へのお返しの方法だと思います。」


↑「愚かな部下は決していない。愚かなリーダーがいるだけだ」(nhipsongso)

企業価値はますます数字では見えにくくなっており、売上が全く無くても企業価値が何十億ドルと評価される企業が次々と登場しています。

2008年、スターバックスが株式上場以来、最大の赤字を出した時、U2のボノはスターバックスの従業員に向けて次のような言葉を贈りました。

「市場で大切なのは道徳ではなくて、金だと言う人がいる。それは古い考え方だと思う。間違った選択だよ。今世紀の偉大な企業は、賢く成功を収める一方で、企業の本当の成功は収支表では測れないという考え方に敏感じゃなきゃならない。」


↑U2 ボノ「今世紀の偉大な企業は数字に表れない企業価値に敏感じゃなきゃいけない。」(radio1interactive)

最近では不景気や時代の煽りを受けてか、歩合制や実力主義などという言葉を頻繁に聞きますが、「急がなければ殺すと脅されたクリエイティビティは、たいてい急げずに死ぬ」と言われるように、本当にクリエイティブなことをしてほしければ、従業員に安心を与え、従業員の幸福度について真剣に考えていかなければなりません。

ビートたけしさんはあるインタビューで次のように述べていました。

「しっかりメシが食えて、安らかに眠れる場所があって、人間は初めて心から笑えるんだ。」


↑安らげる余裕もないのに結果を出せなんて、無茶苦茶なんじゃないかい?(eLENA tUBARO)

ギャラップの調査によれば、従業員が企業に対する忠誠心を失うことで、発生する経済的損失はアメリカだけでも1年で約3兆円あり、別の調査では従業員の感情が企業の売上や利益に直接関係することが分かっています。

さらに、トム・ラスさんの「幸福の習慣」という本によれば、3人に2人は毎日仕事が終わるのを待ち望んでおり、日中のストレスレベルは極めて高く、終業時間が近づくにつれてストレスレベルがどんどん下がっていくそうです。


↑従業員の忠誠心はすぐに会社の損失に影響する。(Tracy O)

ただ実際、仕事に情熱を持つことができ、会社に認められれば幸せになれるというわけではなく、ハーバード大学によれば、年収が100万円増えても幸福度は2%しか変わらないという調査結果から、研究者は「幸せになりたいなら、収入を増やすよりも、よき家族や友人との関係を強める方が効果的」だと結論づけています。

21世紀に入り、働く意義も幸せの定義も少しずつ変わってきているのかもしれません。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾズは何か新しいことを決断する時、自分が80歳になった時のことを想像して後悔のない決断をすると言っていましたが、従業員はベゾズの考えを見習い、経営者は従業員の幸せは利益に直結すると信じて投資し続けることが、一番のハイリターンを生む唯一の方法なのではないでしょうか。

Eye Catch Pic by Nathan Adams

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