日本では、未だに「英語=国際人」という印象が強く、電車の中は英会話教室の広告で溢れ、書店には◯◯で学ぶビジネス英語のような本がところ狭しと並んでいますが、本当に日本は小学校から全員が英語を学び、ユニクロや楽天のように社員全員が英語を話す必要があるのでしょうか。
1991年から2000年まで、日本マイクロソフトの代表を務めた成毛眞さんは、日本の9割の人に英語は必要なく、国語や数学は自分の頭で考えて結論を出す学問ですが、英語はただ暗記するだけの科目なため、得意科目を聞かれて、「英語」と答える人は、自分は物覚えがいいだけのバカだと自覚すべきで、現代では創造力がない人ほど、英語を勉強すると述べています。(1)
↑得意科目を英語と答える人は、もの覚えがいいだけのバカ。
日本人の英語に関しては、様々な議論がありますが、世の中の雰囲気は圧倒的に「英語ができる人=優秀」で、マスコミや企業などが英語の習得が必要でない9割の人にまで、英語ができないと世界で生き残れないような錯覚を日々植えつけており、ましてや、子供の頃から国民全員に英語を教えたりすれば、日本から国際人がいなくなってしまいます。
人間は母国語で考える時、最も創造性を発揮し、19世紀から高校や大学の授業をすべて英語で行っているインドの人々は、母国語で自然科学や社会科学といった高度な学問を学べることを羨しがると言いますが、数学者で「国家の品格」の著者でもある藤原正彦さんも、数学という論理的学問であっても、新しい解法を模索する際、最終的に頼るべきものは母語のもたらす感覚や情緒だと述べています。(2)
↑英語よりも国語、小学校から英語なんかを教えたら、日本から国際人がいなくなる。
言語社会学者である寺沢拓敬さんの「日本と英語の社会学」によれば、英語をよく使う人は、どの世代でも全体の2〜3%しかおらず、産業ごとに、2006年から2010年の間で、「過去一年に英語を少しでも使った人」の割合を見てみると、ほとんどの産業で英語使用が減っており、ほんの少し増えたのは農業だけだと言います。(3)
元マイクロソフトCEOの成毛眞さんは外資系企業ですら、英語を使うのは一部の経営幹部だけで、英語を学ぶために仕事をするわけではないのだから、楽天やユニクロのように会社から英語を強制されたら、転職を検討する方が利口だと述べており、一年に数回しか乗らない車を買う意味がないように、大して使わない英語を全員が学ぶことは、大きな無駄だと言えます。(4)
↑英語で考えれば考えるほど、創造性は無くなる。社員全員が英語を使うことは明らかにバカげてる。
結論から言えば、英語が重要でないと言っているのではなく、英語など、もし本当に必要になったら、慌てて学べばいいだけのことで、本当の国際競争力をつけるためには、英語以外の優れた能力を身につける必要があり、読書をしないと経済力も政治力も落ちて、国がどんどん衰退していくと言われますが、藤原正彦さんは「流暢な英語で中身がない人が、最も恥ずべき日本人。これは国辱、国益に反する」とした上で、国際人になるためには、一に国語、二に国語、三、四が無くて、五に数学だと述べています。
↑英語が話せて中身がない人が、もっとも恥ずべき日本人。
英語が国際的な言語になっていくのは19世紀はイギリス、20世紀はアメリカの順番で、世界の覇権を握ったからであり、現在日本で英語を学ばなければ、おいていかれるというムードを作り上げているのは、アメリカ・イギリスが自国の影響を維持するための戦略にすぎません。
近年、日本企業の株が外国資本に買われる傾向が強くなり、2013年の時点で東証上場企業の株式の3割が外資によるものですが、青山学院大学の永井 忠孝氏は、2014年に時点で楽天の外国人持ち株比率が35.5%、ユニクロのファーストリティリングも21.5%と、決して低くないことを指摘し、英語の社内公用化は株主の意向に沿ったものかもしれないと指摘しています。(5)
↑英語の社内公用化はアメリカ・イギリスの覇権維持と、無関係だとはとても思えない。
世界中の人々が英語を国際語だと思い込み、アメリカ・イギリス英語を学んでくれれば、彼らは莫大な利益を得ることができ、むしろそのためにアメリカとイギリスは英語を普及させる努力をしてきました。
現に、アメリカは音楽の輸出だけで年間約1兆7000億円を稼ぎ、イギリスは本、映画、そしてテレビ番組の輸出で約9000億円の利益を上げていますが、このように数字で見るとすごく説得力がありますが、むしろ数字に表れない影響力の方が、アメリカやイギリスにとっては重要なのかもしれません。(6)
↑英語が国際語であり続けることで、莫大な利益を得る人たちがいる。
日本で英語ができる人は、ほかの外国語が喋れる人たちよりも圧倒的に多いため、日本の報道機関は、非英語圏よりも英語圏に人をどんどん送り込むことになります。
「日本新聞年鑑2015」によれば、日本の報道機関が海外に派遣している569人のうち、4人に1人がアメリカに、3人に1人以上がアメリカかイギリスにいるそうですが、例えばアメリカ同時多発テロから10年経ったニュースに関しても、ニューヨークの追悼式の様子はよく報道される一方で、同時多発テロをきっかけに起こったアフガン戦争やイラク戦争の犠牲者を追悼する行事は、一切報道されません。(7)
↑英語を学ぶ人が増えれば増えるほど報道は偏る。
アメリカが自国の犠牲者を追悼するのは当たり前ですが、日本人にとっては、アメリカ人も、アフガニスタン人やイラク人も同じ外国人であり、一人の人間の命と捉えるべきですが、アメリカ英語を身につける人が増えることによって、私たちは知らず知らずのうちに、アメリカ目線で世界を見るようになっていきます。
もちろん、これは日本に限ったことではありませんが、特に日本は英語重視の傾向が強いため、メディアはアメリカ目線の報道が多いようにように感じられます。
↑結局、日本がやっているのはグローバリゼーションではなく、ただのアメリカ化。 (Speaker John Boehner)
さらに楽天の三木谷社長や安倍総理は、「大学の授業の5割」を英語で行うべきなどと主張していますが、どんどん日本に英語が普及すれば、日本人の良さである「思いやり」や「気配り」などの道徳心がどんどん薄れ、長い歴史のある日本文化自体が無くなってしまいます。(8)
言語と文化は非常に関係性が深く、以前から海外の日本研究者や日本語学習者の間では、日本語を学ぶと性格が優しくなり、一方的な自己主張を控えるようになって、相手の話をしっかり聞くようになるということが指摘されていましたが、英語は自分自身を表す言葉が”I”しかないのに対して、日本語は「私、俺、僕、自分、わし」など様々な表現があり、英語は”I”、つまり自分を中心にもの事を考えますが、日本語は相手によって自己の表現方法を色々と考えるため、その配慮によって、世界に一つしかない日本文化が作り出されていきます。
↑英語には”I”しかないのに対し、日本語には「私、俺、僕、自分、わし」など様々な表現がある。
イギリスの真の財産は北海油田ではなく英語であると言われており、イギリスの首相ウィンストン・チャーチルは、「ベーシック英語を普及させることは、イギリスにとって広大な領土を併合するよりも、はるかに永続的で実り多い利益になる。」とまで述べましたが、楽天やユニクロ、そして英会話学校の広告に惑わされることで、日本の良さや強みはどんどん破壊され、日本の分厚い中間層がどんどん弱体化していってしまいます。(9)
↑サンキュー、あなたが英語を勉強すればするほどイギリスは繁栄する。 (nationalpost)
イェール大学のウェリアム・D・ホイットニーは母国語を捨て、外国語によって近代化を図った国は、ほとんど存在しないとして、日本が発展していくためには、まず母国語を豊かにする必要があり、豊かになった「国語」こそ、日本文化を形成する上で一番大切なものになると述べています。
現在、日本政府や一部の企業が想定している長期戦略は、アメリカ主導のグローバル化や英語社会で、日本の位置をできるだけ高めようとするものなのかもしれませんが、日本人の母国語ではない英語で、アメリカなど英語圏の人たちと本気で勝負したところで、日本人が勝てる見込みはほとんどなく、日本はアメリカのような国なりたいと夢を見ますが、結局フィリピンのような発展途上国に落ちてしまう可能性の方が、圧倒的に高いのではないでしょうか。
↑日本人が英語で勝負したところで、勝てる見込みはほとんどない。
野茂投手の英語はあまり上手だとは言えませんが、彼は人間としての生きる力を持っており、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは記者会見で堂々と「I don’t want to speak English」と宣言しましたが、野茂選手や田中さんが評価されるのは、英語力ではなく、それぞれの分野での評価なのは言うまでもありません。(10)
イチロー選手はアメリカに10年以上暮らしているため、日常会話などの英語は問題ありませんが、インビューでは言葉の表現にこだわりを持つため、必ず通訳を入れるようにしていると言います。
逆に楽天の社員はツイッターで、「重要なことなので日本語で失礼します」とつぶやいたそうですが、もうここまでいくとウケを狙ったギャクのようにも思えてきます。
↑すべての業界に野茂選手のような人がいれば日本は大丈夫。
英会話など、高校で習う典型的な「ジャパニーズ・イングリッシュ」で十分です。帰国子女で、英語も問題なく喋ることのできる苫米地英人さんは、ものすごく下手な英語で喋る方のほうが、異様な迫力が醸しだされるため、アメリカ人はその雰囲気に呑まれて、商談が上手くいくことが多かったと述べており、三菱地所に勤めていた頃、苫米地さんは英語が問題なく喋れるのにも関わらず、「アイアムフロムミツビシ、ウィーアーインタレステッドインユアビルディング」と日本語発音の英語で交渉を進めていったそうです。(11)
アメリカの国務長官を務め、ドイツ語訛りの英語を話すヘンリー・キッシンジャーも、「私は外国語を流暢に話す人間を信用しない」と述べています。
↑ アメリカの国務長官「私は外国語を流暢に話す人は信用しない。」
「国家の品格」の著者、藤原正彦さんは、「チューリップは確かに美しい。しかし、世界をチューリップ一色にしては絶対にいけない」と述べており、チューリップ以外にも、世界にはコスモス(日本語)やユリ(アラビア語)があるからこそ、多様性が生まれますが、それを効率やビジネス的理由でいとも簡単に壊してしまってもよいのでしょうか。(12)
↑美しいチューリップ一色で世界を染めてはいけない。
インドの独立の父、ガンジーも次のような言葉を残しています。
「何百人もの人に英語の知識を与えることは、その人たちを奴隷にすることである。マコーリー(インド監督庁次官)が築いた教育制度は、我々を奴隷にした。裁判所に行きたければ英語を使わなければならないというのは、つらいことではないか?弁護士になったら自分の母語を話すことが許されず、他の人に自分の母語から通訳してもらわなければならないというのは、つらいことではないか?これは全くばかげたことではないか?それは我々が奴隷だというしるしではないか?こんなことになったのは、イギリスのせいだろうか、私自身のせいだろうか?インドを奴隷化したのは、我々英語を使うインド人だ。この国の天罰は、イギリス人ではなく、我々にくだるだろう。」(永井 忠孝さんの「英語の害毒」から引用) (13)
↑英語を使い続ける天罰は、いずれ日本人自身に来るだろう。
世の中には重要なことは百も千もあり、1日が24時間しかないと考えると、私たち日本人は、英語を完璧に学んでいる暇などありません。もし国際社会を迎えて、英語が必要なのであれば、求められるのはfluent(流暢)な英語ではなく、informative(有益な価値のある)な内容のある英語であり、むしろ単にfluent(流暢)であることに、何の意味もありません。(14)
大正末期から昭和の初めにかけて、駐日フランス大使を務めたポール・クローデルは、昭和18年、パリで次のように述べました。
「日本人は貧しい。しかし、高貴だ。世界でただ一つ、どうしても生き残って欲しい民族をあげるとしたら、それは日本人だ。」(15)
↑日本文化「次の時代に必ず伝えていくもの。」
戦後、祖国を忘れるように教育された日本人は、すっかり弱気になり、何千年も語りつがれている自分たちの文化や伝統をあっさり捨て、市場経済に代表される欧米の社会的システムに身を売ってしまいました。
グローバリデーションなど、アメリカ冷戦後の一時的な戦略に過ぎません。21世紀はグローバルな時代ではなく、ローカリズムの時代であり、各国、各地方の文化や伝統がお互いを尊重し合い、それぞれの文化が上手く交わることで、世界がより良い方向に向かっていきます。
そういった意味で、英語を小学校で教えたり、英語を社内公用語などにしていては、日本という国の存在感はどんどん薄くなる一方でしょう。
このまま、どんどん日本に英語が普及すれば、「失われた20年」どころの話ではなく、「失われた50年」、「失われた21世紀」を迎えることになるでしょう。
そんなに英語が好きで、経済やその他の効率を重視したいのであれば、明日から生まれてくる子供全員に英語だけを教えるようにすればいいのかもしれませんが、そんな世界に人間が生きる意味など存在しません。
1.(日本人の9割に英語はいらない/成毛眞) Kindle P133 2.(英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる/施 光恒) P163 3.(英語の害毒/永井 忠孝) P22〜23 4.(日本人の9割に英語はいらない/成毛眞) Kindle 676 5. (英語の害毒/永井 忠孝) P139 6.(英語の害毒/永井 忠孝) P93 7.(英語の害毒/永井 忠孝) P102 8.(英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる/施 光恒) P22 9.(英語の害毒/永井 忠孝) P110 10.(英語を子どもに教えるな/市川 力) Kindle P1326 11.(「婚活」がなくなる日 結婚=幸せという洗脳/苫米地 英人) P83 12.(国家の品格/藤原 正彦) P139 13.(英語の害毒/永井 忠孝) P189 14.(英語を子どもに教えるな/市川 力) Kindle P1289 15.(国家の品格/藤原 正彦) P191その他の参考 (21世紀の英会話/高城剛)、(日本人の誇り/藤原 正彦)、(イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」/デービッド・アトキンソン)
Eye Catch Pic by drburtoni