October 10, 2014
大学に入った頃はPCの電源の入れ方すら分からなかった私が、20年後YahooのCEOになった。

Pic_TechCrunch_CC

マイクロソフトやIBM、一時は時代の支配者とも呼ばれたIT企業が、時代の流れにうまく乗ることができず苦戦しています。昨日、人々の生活を変えてしまう劇的なイノベーションを起こした企業が、数年後ライバルにシェアを奪われどんどん衰退していっています。

Web1.0、2.0、3.0、ソーシャル・ネットワーク、モバイル、タブレット、「Buzzword」と呼ばれる流行語は数年おきに変わり、経営者の先見力一つで、企業価値が2倍になったり半分になったりするこの競争社会は、インターネットのブラウザ上で見ている僕たちにとってはエキサイティングなのかもしれませんが、経営者にとってはもの凄く残酷な世界なのかもしれません。


↑支配者がどんどん入れ替わる。

2012年、アメリカのYahooも時代の流れについて行けず、衰退し始めている企業のひとつでした。ドットコム・バブルの中心的存在であり、全米中で誰も訪れるポータルサイトが検索エンジンの分野でグーグルにシェアを奪われ、モバイルの流れにうまく乗ることができずに混乱していたのです。

業績の悪化を受けて、新しい時代をリードできるCEOを探していたところに、同時ライバル会社、当時グーグルの役員だったマリッサ・メイヤーさんに声がかかります。

そして、メイヤーさんはYahooの主要メンバーであるMichael Wolfさんに会うためニューヨークに飛び、彼のアパートを訪れた時、Yahoo文化やプロダクトのライナップをどのように変えるべきかを明確に述べ、Yahooを主要メンバーを驚かせたと言います。


↑当時はまだグーグルの役員であったマリッサ・メイヤー。(JD Lasica by Flickr)

彼女の戦略はあまりにも的を得たものだったらしく、彼女が部屋を去った後、主要メンバーの一人が言いました。

「That’s the next CEO of Yahoo.」(これが次のYahooのCEOだ!)

メイヤーさんはグーグルに13年間勤め、まだ弱冠38歳でしたが、すでにこの時、世界的大企業のCEOとは何をしなければならない存在なのかに気づいていたのかもしれません。前CEOがメイヤーさんに言いました。

「社長というのは数少ない意思決定だけすればいいんだよ。でもその意思決定はすべて100点満点でなければいけないんだ。」

メイヤーさんがCEOに就任後、株価も従業員も水を獲た魚のように息を吹き返します。1993年、スタンフォード大学に入学した時にはPCの電源も入れることができなかった彼女が、グーグルで13年間働き、どのようなビジョンを持ってYahooを立て直したのか、少し覗いてみましょう。

モバイル、モバイル、モバイル!いつまでWeb1.0でいるつもり?


↑時代の流れを読むことが社長の仕事。(JD Lasica by flickr)

「Yahooの未来はモバイル・アプリケーションです。」

メイヤーさんは2014年はインターネットの進化の中でも転換期になると言い、モバイル革命が人々の生活を根本的に変えるだろうと断言しています。CEO就任後、新しいエンジニアを1000人(その中の50人は博士号)採用し、2014年の終わりまで半分以上のアクセスがモバイルからにするため、急ピッチで作業を進めています。

実際、Yahooは人々が欲しがるようなコンテンツを以前から持っていました。メール、天気、そしてニュースなどすべて人々の生活に欠かせないものですが、それらのコンテンツの多くはデスクトップベースで、モバイルにうまくシフトできていません。実際、一番の問題はYahooの従業員がモバイルの重要性を理解していないと考えたメイヤーさんは、従業員全員にiPhoneを配り、実際に使ってもらうことで、Yahoo全体を「モバイル・カンパニー」として大きく方向転換させていきます。


↑実際に使ってみなければ時代の流れは感じられない。

メイヤーさんはYahooをテクノロジー企業からモバイル時代のメディア・カンパニーへと大きくシフト転換しようとしています。彼女が11,500人の従業員に常に言っていることは、いち個人のためにカスタマイズされ、クセになるようなコンテンツをアプリを作ること。モバイルからの広告収益はまだまだですが、数年後には会社の大半の収益をモバイルから得ることは間違いなさそうです。

数年前、グーグルの元CEO、エリック・シュミットさんが、SNSの存在を見逃していたのは経営者の責任、私は本当に大きなミスを犯したと語っていましたが、時代の流れを読み勇気を持って行動することが、どれだけ重要か、そしてその意思決定にどれだけ重大な責任がのしかかるのか、メイヤーさんの行動を見ていると良く分かります。

生産性よりも創造性。これが私のやり方


↑文化がすべて。それが私がグーグルで学んだこと

メイヤーさんがCEOになる以前、Yahooは従業員が自宅で仕事することに関しての規制はものすごく緩やかでした。しかし、メイヤーがCEOになったとたん、従業員はいきなり二つの選択を迫られます。

「本社のオフィス勤務。できないのであれば辞めて下さい。」

この強制的なオフィス勤務は社内から大きな批判を買うことになります。しかも世の中の流れはオフィスに束縛されず、ITテクノロジーを最大限に使ってワーク&バランスを保つという方向に向かっており、自宅で邪魔をされずに仕事をする方が生産性が上がるリサーチも数多く発表されています。それを十分に理解した上で、彼女は次のように解答しています。

「一人で仕事する方が生産性が高いのは理解してるわ。でも、人々は一緒の場所で働く方がより協力的になってイノベーションを起こしやすくなるの。多くの素晴らしいアイデアは、二つのアイデアをくっつけたものなんだから。」


↑素晴らしいアイデアはどうでも良い会話の中から生まれる。

メイヤーさんの主張はグーグルとYahooの生産性を比べてみれば十分理解できます。グーグルは53,861人の従業員で、一人の従業員につき931,657ドルの収益を上げているのに対し、Yahooは一人の従業員が生み出す収入は344,758ドル、グーグルの従業員の方が170%もパフォーマンスが良いことになります。

グーグルは異なったバックグラウンドを持つ、ものすごくスマートなエンジニアがそれぞれの意見をランダムにぶつけ合うことで世の中にイノベーションを起こし続けています。ただグーグルも場合によっては自宅で仕事をすることを認めているそうです。


↑イノベーションは異なったバックグラウンドを持つ人達が、意見をぶつけ合うことで生まれる。

この強制的なオフィス勤務の件で、メイヤーさんは大きな批判を浴びますが、根本的な問題を一つ一つ確実に解決していくことでYahooはどんどん活気を取り戻していきます。

メイヤーさんがCEOになる前は、9時〜10時に出社して午後4時には帰宅していた従業員が朝7時に出社して夜7時まで働くようになり、さらに会社の文化を強化することで、「Yahooで働きたい」と毎日のように外部から履歴書が送られてくるようになりました。


↑Yahoo!に履歴書が殺到。

結局、何が人にモチベーションを与えるのかは定かではありませんが、最初はメイヤーさんの理想を無理やりでも押し付けてでも、企業文化を強くしていきました。ジョブズやメイヤーさんなど、時にカリスマと呼ばれる経営者は強引な戦略で周りから反感をかいますが、最終的に「結果を出す」という一番重要ところに繋げていきます。

このような人たちが本当の意味で「プロ」と呼ばれるのかもしれません。

まとめ


↑世界で最も影響力のある女性。これからどんな活躍を見せるのか。

「私にとって重要なものは、神、家族、そしてYahooよ。」

メイヤーさんはあるインタビューで答えています。メイヤーさんは小さい頃からサイエンスや数学が得意でしたが1993年にスタンフォード大学に入学した時はPCの電源の入れ方すら分からなかったと言います。その後、当時はまだベンチャー企業だったグーグルに20番目の社員として入社、一気に頭角を表していきます。

そして37歳の若さでYahooのCEOになり、彼女がCEOに就任してからYahooの株価は二倍、2013年8月にはアクセス数でグーグルを抜き去り、アメリカで一番アクセスが多いサイトなりました。現在38歳で世界的IT企業のトップに立つ女性、さぞかしどんなパワフルな女性かと思われるかもしれませんが、家に帰れば普通の38歳、Yahooより家族の方が大事のようです。


↑多忙ながらも家族との時間はしっかりとる。

Web1.0時代の覇者になったYahoo、モバイル時代の代表するメディア・カンパニーになれるのでしょうか。若きCEO、マリッサ・メイヤーさんの挑戦は始まったばかりなのです。

/MARISSA_MAYER