September 23, 2016
もうお金でモチベーションを上げるのは不可能「僕らはお金を入れたら動く自動販売機じゃない。」

image:L&C

戦後日本は焼け野原から這い上がるため、ただ今日、明日の食べ物を確保するために働き、高度経済成長期に入ると「欧米に追いつけ追い越せ」をキーワードに成果報酬など導入しなくても、給料も売上げも面白いように上がったため、日本人全員がやる気満々でした。

しかし、1990年代にバブルが弾け、なんとか社員のモチベーションを上げなければとアメとムチのような成果報酬主義を導入する企業が増えましたが、アメリカで100年近く採用されてきた制度をいきなり日本に移植しても上手くいくはずもなく、多くの人が「働く意義」を見つけ出せなかったり、月曜の出社が恐怖となる「サザエさん病」にかかったりと早くも様々な障害が出てきています。


↑成果報酬主義で長期的に成功している企業は存在しない。

アル・ゴア副大統領のスピーチライターを務め、ベストセラー作家でもあるダニエル•ピンク氏によれば人間のモチベーションは三段階に分かれるそうです。

モチベーション1.0

生存のための本能的なモチベーション。やりたいか、やりたくないかではなく、やらなければ生きていけないから、頑張るという世界。

モチベーション2.0

アメとムチによる成果報酬によるモチベーション。人間を馬と考え、ニンジンをぶら下げてやる気を出させる、もしくは罰を与え、それを避けたいという気持ちから無理矢理やる気を出させる。

モチベーション3.0

何かを達成したいとか、社会の役に立ちたいといった個人の中から自然と出てくるモチベーションのことを指す。

掛け金のないゲームであっても「やりたいからやる」のである。職場に成果主義が導入されなくてもいなくても、自分の中に達成したいものがあるから頑張るという世界。


↑お金ではなく、「やりたいからやる。」それ以上の理由はない。(droidcon Global/Flickr)

例えばアメとムチのモチベーション2.0を使って、子供に数学の勉強をさせたとしましょう。問題集を1ページ終えるごとにお小遣いを与えれば、その子はほぼ確実に、短期間、数学に夢中になりますが、長期的に考えれば、間違いなく数学そのものへの興味を失います。

それは仕事でも同じことで、デザイナーにもっと良い成果を期待して、製品がヒットすれば報酬を与えると約束すれば、当面の間、デザイナーは仕事に没頭しますが、長期的には仕事への興味を失うことになるでしょう。

さらにピンク氏によると、仕事に金銭的なモチベーションを与えると、視野がどんどん狭くなって、クリエイティブな発想ができなくなるそうです。


↑金銭的なモチベーションと創造性は反比例する。

Facebookのマーク・ザッカーバーグさんは高校生の時に、「Synapse Media Play」というサービスを作り、マイクロソフトから約1億円で買い取りたいというオファーを受けましたが、世の中の人に自由に使ってもらいたいという想いから、このオファーを断りました。

さらにグーグルの創業者、ラリー・ペイジさんが
一番腹を立てることは、あるアイデアがどれだけ儲けられるかを言い立てることだそうです。

田原総一郎さんはLineやリブセンス、そしてライフネット生命など急成長している日本企業を取材し、次のように述べています。

「ROE(株主資本利益率)よりもソーシャルインパクトを重視していることも、ポスト・ホリエモン世代の特徴だ。彼らは自分が儲けることより、新しい事業で社会を変えることに喜びを見出している。」


↑お金よりもソーシャルインパクト「これもキレイごとじゃない。」

モチベーション3.0は利益を最大化することは否定しませんが、「目的の最大化」を利益以上に重要視するため、営業会議よりもビジョン会議の方がはるかに重要になってきます。

ベンチャーキャピタリストでハーバード大学の卒業生でもあるボブ•コンプトンさんは20代と関わった時の経験を次のように話しています。

「あるとき若手社員に商品開発のスピードを上げたらストックオプションとボーナスをやると提案したら、”僕はお金を入れたら動く自動販売機じゃないんですよ、ボブ”って言われたんだ。お金を入れたら動くじゃないって?それじゃどうすれば動くんだ?今でも分からない。ハーバードで学んだことなんて全然役に立たないよ。」


↑もう世界最高峰の大学で学んだことも役に立たない。

働く意義を見出せなかったり、月曜の出社が恐怖となる「サザエさん病」にかかる人たちが増える中で、「仕事を何だと思ってる」、「全く近頃の若者は」と批判するのは簡単ですが、イノベーションを起こしたり、利益を最大化させる定義は時代とともに変わっており、どれだけ医学は発展しても、次の時代を担うのは、今の20代、そして30代の人たちです。


↑ストックオプションより、なぜこの仕事をやるのかを教えて。

アメとムチによる成果報酬型のインセンティブは生産性が重視された20世紀の遺産となりつつあります。

本当にイノベーションを起こしたいのであれば、自分たちの価値観を押し付けるのではなく、モチベーション3.0の定義に習ったビジョンの共有に時間を使い、社員が自ら動く環境を作って上げることが大切なのではないでしょうか。

あなたの部下もお金を入れたら動く自動販売機ではないのですから。

/MOTIVATION30