March 11, 2015
ランニングマシーンではなく外を走ることで、体を健康に保つナチュラルキラー細胞が40%増加する。

新聞や雑誌の健康関連のニュースを見ていると、メディアは毎日のように、「運動とダイエット」の因果関係について新しい研究結果が発表されたと伝えています。

ある「ニューヨークタイムズ」の記事では次のように述べています。

「通常、よく運動すれば痩せられると考える。しかし、これまでいくつもの研究が示しているように、運動を始めても大半の人は体重がほとんど減らないか、まったく減らない。中には増えた人もいる。」

実際、上記の結論などはどうでもよく、運動の目的は痩せることではなくて、脳の活性化や健康を維持することにあり、この分野に関しては100年以上も前から様々なリサーチが行われてきましたが、最近になってやっと「運動」が私たちの生活に与える本当の意味が少しずつ明らかになってきました。


↑「運動=ダイエットという概念をまず捨てなければならない。」(Noodles and Beef)

トロント大学の教授、リチャード・フロリダ氏によれば、クリエイティブな人や年収が高い人ほど、体を激しく動かす運動に熱心に取り組む傾向があり、18歳から34歳で高額所得者層(年収750万円以上)の人たちは、スキューバダイビング、スキー、テニス、そして旅行などをする回数が、低所得者層(年収300万円以下)に比べて2倍も多い傾向にあり、運動することで放出されるドーパミンが気持ちを前向きし、何かを成し遂げた際に、より強い満足度を得られるように脳がどんどん進化していくそうです。


↑年収750万円以上の人たちは年収300万以下の人に比べて激しい運動を好む割合が高い。 (Ed Yourdon)

さらに、10年以上前のリサーチですが、現在でも多くの人から支持されている、フランク・W・ブースの研究によれば、動かないでいることで、脳卒中、すい臓ガン、そして心筋梗塞など20種類以上の文明病にかかりやすくなるのはもちろんですが、フランクによれば、動かない生活は認知機能を著じるしく低下させるため、動かない生活を続けていると、ただ単に「バカ」になってしまうと言います。

座りっぱなしの仕事が体に悪いことは様々なリサーチが伝えていますが、1950年代に行われた調査によれば、心血管疾患による死亡率は、郵便配達員(頻繁に動く仕事)よりも役所の事務員(座りっぱなしの仕事)の方が高かったそうです。


↑動かないと、ただ単純にバカになる。(Paul Mayne)

逆に2007年にドイツで行われた調査によれば、運動前よりも運動後の方が、20%単語を早く覚えられ、運動が学習のメカニズムを細胞レベルで強化することが分かっています。

さらにある実験では、35分ランニング・マシーンで走るグループと映画を見るグループに分け、その後にあるテストをしたところ、走っていたグループは一度運動しただけで、答える速度や認識の柔軟性が向上し、人間は「認識の柔軟性」があるからこそ、考えを臨機応変に変えたり、型にはまらない独創的な思考を次々に生み出すことができます。(脳を鍛えるには運動しかない P69)


↑運動することで、型にはまらない独創的なアイディアを生み出すことができる。(Maciej Dakowicz)

ただハーバード大学医学部、ジョンJ.レイティ准教授の「GO WILD 野生の体を取り戻せ!」という本によれば、人間はより野生に近づくことが理想であり、室内のランニング・マシーンで走るよりも、外を走る方が運動としての効果が高く、室内のランニング・マシーンに乗り、現実世界の音を遮断して、前に備えつけられたテレビ画面のゾッとするようなニュースを見ながら走ることは、迷走神経に語りかけるようなもので、パニックになりそうな状況から「逃走」しているのに等しいとのことです。


↑ランニング・マシーンの上で走るのはパニックから「逃走」している状況に等しい。(Dr. Abdullah Naser)

日本のビジネスマンを対象に行われた調査によれば、森を歩いた後、体に悪影響を及ぼす物資を退治するナチュラルキラー細胞が40%増加し、1ヶ月後の追加調査でも、依然として基準値よりも15%高い数値を保っており、トロント大学のマーク・バーマン氏の研究で、森林浴をすると認知テストの成績が20%も上がったことを考慮すると、室内でランニング・マシーンに乗るよりも、外をランニングした方が体や脳に良さそうなのは何となくイメージできます。

実際、木の多い場所ではガンなどによる死亡率が低く、オランダで行われたある研究によれば、緑地から1キロメートル以内に住む人は様々な病気にかかりにくいことが分かっています。


↑自然の多い場所に行くだけで体調は良くなる傾向がある。(A. Strakey)

トレイルランとは里山や低山など自然が多く、いつもと違った場所を走る陸上競技の一種ですが、長い坂を登りきった末の喜びや頂上での体験など、その気持ちの高まりをもたらしているのは、筋肉活動の刺激によって活性化された生化物質ですが、それらは幸福感と脳にとっては、ものすごく大事なことであり、この「快感」を薬物や刺激物で代用しようとする人たちがいるのも事実です。

トレイルランをすれば、それがタダで手に入りますが、この背後には人間の進化的な論理が隠されており、この「幸福感」を私たちが手に入れるためには、動かなければならず、世の中がどんなに便利になっても「運動」という行為は人間の生活から消えることはないのかもしれません。


↑「幸福感」を手に入れるために、人間は動き続けれければならない。これが進化のプロセス。(sparrowood1)

最近、シリコンバレーでは歩きながらミーティングをする人たちが増えており、これは文字通り「Walk the Talk」と呼ばれていますが、シリコンバレーで活躍するニロファー・マーチャントは次のように述べています。

「一緒に歩けば、まさに一緒に問題や状況に直面できる。歩きながらのミーティングなら、メールやツイッターのチェックもできない。周囲で起きていることに気づき、五感が目覚め、オフィスでの会議では不可能に近いものが手に入る――喜びという感覚が」(サードメトリック)


↑一緒に歩けば、一緒に問題や状況に直面できる。(Ministry of Foreign Affairs)

他にもうつ病を治したり、認知症になるのを防いだり、運動がもたらす効果をあげればキリがありませんが、私たち人間の遺伝子には狩猟採集の行動様式がしっかり組み込まれており、脳がそれをつかさどるようにできています。

もちろん、現在、私たちは採集や狩りをする必要はありませんが、頻繁に「動く」ことを止めてしまうと、10万年以上にわたって調整されてきたデリケートな生命のバランスを壊してしまうことになります。

つまり、体と脳のバランスを上手く保ちたいのであれば、この長い年月をかけて作られたシステムをせっせと使う必要があり、毎日ある程度の距離を歩き、週に2、3回はジョギングをし、時には全力疾走で獲物を追う、これがどんな健康法よりも効果的な人類の進化論なのかもしれません。

Eye Catch Pic by Ed Yourdon

/MOVE