August 3, 2015
アイデアがひらめいた時の達成感は、セックスした時の興奮度と同じ「アイシュタインの脳を調べても、創造性に関する答えはない。」

ソーシャルメディア・サイト、リンクトインの調査によれば、2011年末までに利用者が自分自身を表現するために、最もよく使った言葉は、「クリエイティブ」だったそうですが、IT系の情報サイト、TechCrunchの調査でも、現在世の中に存在している多くの仕事は、オートメーションやアウトソーシングが可能なのに対し、クリエイティブな技能はそれが難しく、失業率が高くなると予想される次の時代でも、高いニーズと価値が認められるとされています。

多くの人たちは、クリエイティブなスキルは生まれつきだとか、「クリエイティブ・タイプ」と「スーツ・タイプ」をきっぱり分けて、新しいアイディアを求められるたびに、「私はクリエイティブではないので」と言い訳をしたりしますが、創造性が遺伝や生まれつきによって構成されているという調査結果はほとんどなく、むしろ創造的な仕事とそうでない仕事を区別せず、イノベーションを全従業員の職務としている企業も最近では多く存在します。


↑自分自身を表現するために、最も頻繁に使う言葉は「クリエイティブ」(Daniela Vladimirova)

多くの研究者たちがアインシュタインの脳を調べれば、天才的思考の秘密がわかると思い、本人は火葬を希望していたのにも関わらず、彼の脳は摘出され、今だに研究されていますが、どの研究からもアインシュタインの脳と一般人の脳との間に、これと言った違いを見つけ出すことができず、むしろアインシュタインの脳は普通の人の脳よりも小さかったと言われています。


↑私の脳を調べても、創造性の関する答えは一切ない (pbs.org)

ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルは、その分野のどんなに素人でも、集中して10,000時間練習すれば、誰でも世界に通用するプロフェッショナルになれると、著書「天才! 成功する人々の法則」の中で述べていますが、リチャード・ブランソンは航空会社を経営した経験はゼロだったにも関わらず、ヴァージン・アトランティックを立ち上げて大成功させていますし、ネットフリックの創業者であるリード・ヘイスティングスも、映像やメディア関係で働いた経験は全くありませんでしたが、DVDレンタルショップを破産に追い込んでしまうほどのイノベーションを起こしたことを考えると、すべての分野や業界に「10,000時間の法則」が当てはまるわけではないようです。


↑なぜ10,000時間よりもはるかに短い期間で、リードはネットフリックスをさせることができたのか (Helge Thomas)

さらに、任天堂の役員である宮本茂氏は、ゲーム・デザイナー兼プロデューサーとして10,000時間の経験を得る前に、ドンキーコングやゼルダの伝説、そしてマリオブラザーズなどを生み出しましたが、ゲーム・デザイナーとして10,000時間を記録した「後」に制作した、「スティール ダイバー」というゲームが全く売れなかったことを考えると、10,000時間に達しなくても、成功することは可能ですが、場合によっては10,000時間努力しても、成功は保証されないことがあるのかもしれません。

「成功は“ランダム”にやってくる!」の著者、フランス・ ヨハンソンは10,000時間以下で成功する定義は、偶然性と確率論だとした上で、社会的規制が緩い分野や業界ほど、10,000時間以下でランダムに成功する確率が高いと述べています。


↑ドンキーコングも10,000時間以下で生み出された (SobControllers)

例えば、ボクシングは決められたグローブをはめ、ルールに従った体重階級によって選手が分けられるなど、厳格な規定が定められており、選手は腕以外で攻撃や防御をする以外の創造的な選択肢は禁止されているため、いきなりどこからともなく現れた人がチャンピオンになることはまずありえません。

しかし、総合格闘技はボクシング、レスリング、柔術、キックボクシング、空手、そして柔道などのテクニックをフルに使い、根性や強さだけではなく、創造的な知恵を用いて、良いコンビネーションを見つけて戦うため、初めてリングに立つような新人が一流選手を倒すことは、十分にあり得るのではないでしょうか。


↑選択肢が多く、創造性を生かせるスポーツでは、業界弱者にも十分勝ち目がある (Eric Langley)

これは音楽も同じことであり、クラシック音楽は、伝統的なファンやアーティスト、そして専門家が期待するような要素を満たしているかどうかが、成功の命運を分けることになるため、たとえ創造性が豊かな人であっても、長年厳しい練習を積まなければプロにはなれませんが、ヒップホップのような音楽には明確なルールがなく、流動性が強いため、長年の鍛錬を積まなくても、クリエイティブなやり方次第では、ヒップホップ界のトップに立つことは可能であり、むしろこれは、ヒップホップ界では普通のことなのかもしれません。

実際、現在ヒップホップ界のトップに立っている、ドクター・ドレーやエミネム、そしてカニエ・ウエストなどの共通点はほとんどありませんが、皆な同じ業界で成功しており、それぞれのスタイルや成功へのプロセスもすべて異なっています。


↑1999年にデビューしたエミネム。独自の歌詞とマシンガンのように早いラップで、即座に世界的スターに (Nicole Doherty)

特にビジネスの世界においては、ルールは常に変化しており、選択肢の組み合わせ方によっては、数年で業界のトップに立つことは可能なのかもしれませんが、グーグルのように、人間、アイデア、ビジネスモデル、そして戦略がどのように組み合わさり、成功するかは、まさに暗闇で銃を撃つようなものであり、1998年、当時はまだ学生であったグーグルの創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが開発した検索アルゴリズムを、ヤフーに一億円で売却しようとしたにも関わらず、ヤフーが断ったところから考えると、時代の最先端をいっている企業でさえ、未来を予測することが極めて困難なことがわかります。


↑その4年後、今度はヤフーの方からグーグルを3000億円で買収したいともちかける (Carlos Luna)

逆に2005年、世界のメディア王として知られるルパート・マードックは、当時世界最大のSNSサイトであった「マイスペース」を約580億円で買収し、契約時の費用対効果(ROI)から考えれば、ルパート・マードックはバーゲンセールでマイスペースを買収したように思われましたが、あっという間にフェイスブックに抜かれ、その後、約35億円で他の企業に売却しています。

グーグルとマイスペースの例からわかるのは、ルールの変化が速く、様々な要因が交わる現代においては、何事においても将来の費用対効果を予測することが極めて難しく、アイデアやクリエイティビティを論理的に判断するのは簡単なことではありません。


↑マイスペースは580億円で買収され、35億円で売却。業界のリーダーでも将来を予測するは極めて難しい(Spencer E Holtaway)

創造性を開花させるには、何度も何度もサイコロを振る必要があり、成功は偶然の組み合わせによって生まれることから、大切なのは「解決策」を見つけることではなく、自分が正しいと思う方向に、ひたすら動き続けることだと言えます。

ピカソは生涯に5万点以上の作品を書いたと言われ(一日二点ペース)、アイシュタインは何百本もの論文を書き、リチャード・ブランソンは400個以上の会社を立ち上げ、エジソンは1092個の特許をとって数え切れないほどの実験を行いましたが、アップルの新しいアイデアも、90%は失敗に終わるというのは有名な話です。


↑ピカソは一日二点ペースで絵を描き続けた。創造性の秘訣はとにかく動き続けること  (AK Rockefeller)

クリエイティブな能力とは、何も関係ない二つのものを組み合わせることで成り立っており、ひらめきが関連づけられて、結びついた時の達成感はセックスした時の興奮度に似ており、かつてミュージシャンのDanger Mouseはビートルズの「ホワイト・アルバム」、J-Zayの「ブラック・アルバム」をリミックスして、「グレー・アルバム」というものを作って大ヒットさせています。

スティーブ・ジョブズは以前、創造性について次のように述べていました。

「ピカソが言っていたよ。そこそこのアーティストはコピーするけど、偉大なアーティストは盗むものだってね。私たちも何一つ躊躇することなく、偉大なアイデアを盗んで来たから。」

「クリエティブな人々に、“どうやって、そんなことができたのか?”と尋ねたときに、彼らがちょっと後ろめたい気分になるのは、実は彼らは何もしていなくて、ただ何かを見ていただけだからなんだ。」


↑グレーアルバム「古いものと新しいものを混ぜれば、最新のものになる」 (TED)

自動車業界に革命を起こしたヘンリー・フォードも、「私は何も発明していません。私は何世紀もの間に、ほかの人々が発見したものを組み合わせ、自動車を作ったのです。これが50年、いや10年、あるいは5年前だったとしても、私は成功していなかったでしょう。」と述べていますが、では一体どのような時にクリエイティビティの原素である「組み合わせ」が生まれやすくなるのでしょうか。

アイデアが生まれやすい場所として、よく3つのB、バス(Bus)、お風呂(Bath)、そして、ベット(Bed)と言われますが、クリエイティビティとは、何時間もパソコンにしがみついて作業することではなく、アイシュタインがヒゲを剃っている時に偉大な理論にたどりついたり、ピカソがお風呂に浸かっている時に、キュビスム(分析的観測により対象を分解するという手法)を思いついたように、頭を思いっきり集中させている時よりも、むしろおもいっきりリラックスしている時の方がアイデアは降ってきやすいと言います。


↑自分の体を洗うという行為は、ぼんやりと考えられる時間を生み出す (susan)

もちろん、ただリラックスしていれば、アイデアが突然、神のように降りてくるということはありませんが、そのことに関して徹底的に考えた後で、少しリラックスし、頭の中に「余白」を作ってあげることが大切で、6歳からひたすら物語を書き続け、生活保護を受けながらハリー・ポッターを書き上げたJ・K・ローリングは、1990年の夏、マンチェスターからロンドンに向かう列車の中で、ハリー・ポッターのアイデアを思いついた時のことを次のように述べています。

「そのアイディアは、どこからやって来たのか見当もつきません。でも、とにかくやって来たのです……完璧な姿で。列車の中で、突然、基本的な構想が頭に浮かびました。本当の自分をまだ知らない男の子が、魔法使いの学校に通う……ハリーにはじまり、次にはすべての登場人物と場面が、一気に頭の中に流れ込んできたのです。」


↑ハリー・ポッターのアイデアは突然やってきた。それも完璧な姿で (Christopher Octa)

どれだけ凄い歴史上の偉人でも、全くゼロの状態から何か新しいものを生み出せる人はほとんどおらず、すでにあるものをマネしたり、二つ以上のものを組み合わせることでクリエイティビティを発揮し、世の中にイノベーションを起こしていきます。

クリエイティブなものは、アメリカやヨーロッパから生まれるというイメージが強いですが、米国Adobeシステムによる「クリエイティビティ」に関する調査によれば、世界で最もクリエイティブな国は日本、さらに最もクリエイティブな都市は東京という結果が出ており、欧米の国々を抑えて、日本は堂々の1位に選ばれています。

ただ同じ調査で明らかになったのは、自らを「クリエイティブだ!」と考えている日本人は19%にとどまり、世界ダントツの最下位で、米国の52%と比べても大きく差がついています。


↑世界で最もクリエイティブな国は日本、クリエイティブな都市は東京 (~Beekeeper~)

様々なリサーチでも明らかになっているように、創造性とは金銭的な欲求で上がるものでもなければ、ドラックやアルコールで作られるものでもなく、創造性の研究の第一人者、テリーザ・アマビルが述べているように、情熱と創造性には相関関数が存在し、自分が最も情熱を持って取り組める分野が、一番創造性を発揮しやすい場所になります。

だから、もう「私はクリエイティブではないから」と、言い訳をするのはやめましょう。スーツを着ていようが、着ていなかろうが、情熱が導く方向にサイコロを振り続けることで、必然と何かが組み合わさり、自分なりのクリエイティビティが必ず降ってくるものなのですから。

主な参考書籍:
「成功は“ランダム”にやってくる! チャンスの瞬間”クリック・モーメント”のつかみ方/フランス・ ヨハンソン」

「アイデアは交差点から生まれる イノベーションを量産する”メディチ・エフェクト”の起こし方/フランス・ヨハンソン」

「どうしてあの人はクリエイティブなのか?―創造性と革新性のある未来を手に入れるための本/デビット・バーカス」

「ひらめきはカオスから生まれる/オリ・ブラフマン」、「新 クリエイティブ資本論—才能が経済と都市の主役となる/リチャード・フロリダ」

Eye Catch Pic by Zoe

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