July 2, 2015
自分の分野で世界100番以内に入れば、自動的に仕事はやって来る。

アメリカやヨーロッパなどの西洋諸国が、200年以上かけて作り上げてきた伝統的な世の中の仕組みが、わずか数十年で消えてなくなろうとしており、日本を含む先進国での「成功のルール」が少しずつ変わろうとしています。

インターネットは働き口を増やすどころか、雇用を奪うとよく言われますが、それは21世紀の最先端の企業を見てみれば明らかで、アップルの売上は13兆円(2012年)もあるにも関わらず、従業員は全世界で7万人ほど、全世界13億人以上が利用しているフェイスブックの従業員は1万人、3億人以上の利用者がいるツイッターは3,600人、そして未来の自動メーカーと言われるテスラ社は、自動車メーカーなのにも関わらず、正社員は数百人しかおらず、優良企業がどんどん人を雇わなくなってきています。


↑21世紀の先端企業、“先進国”では多くの人を雇わない (NVIDIA Corporation)

20世紀の大量生産企業が子会社も含めて、数十万人も母国で雇用していたことを考えれば、アップルやフェイスブックの従業員は明らかに少なく、さらにベンチャー企業の雇用は減少しており、1990年代の終わりにインターネットブームがやって来たとき、アメリカのベンチャー企業の社員は平均7.7人でしたが、2011年には4.4人に減っています。(レイヤー化する世界/佐々木俊尚)


↑ベンチャー企業の雇用も年々減っている (Heisenberg Media) 

アインシュタインが複利(計算された利子)を、「歴史上最大の数学的発見」と呼んだように、雇用が無くなっても、金持ちは株や不動産などの投資で資産を増やしますが、ふつうの人々は賃金などで生計を立てており、経済成長がなければ収入が増えないため、雇われた人の多くが、平等に豊かで幸せになっていくという循環が途切れ、大前研一氏は、このまま行けば間違いなく日本は、「皆が等しく貧乏になる国」になっていくと述べています。


↑本当に「皆が等しく貧乏になる国」でいいのか?(Warren Antiola)

実際、東京株式市場で株価の上昇は続き、今年の3月には15年ぶりに日経平均株価が1万9700円まで回復し、現在では2万円を超えていますが、企業の業績は株価に見合うほど良くなっておらず、株価はこの1年間で30%以上も上がっていますが、円安が強い追い風になる自動車メーカーでさえ、トヨタの純利益は前期比の16.8%増、日産は前期比の8%増、そしてホンダは前期比の5.1%減になる見通しから考えると、日本企業全体の収益の現在価値が、30%上がっていると考えるのには無理があります。(低欲望社会/大前研一)


↑上がった株価は必ず下がる。しかも上げ幅が大きいほど下げ幅も大きい。(Rog b)

「オマハの賢人」と呼ばれ、世界最大の投資持会社を率いるウォーレン・バフェット氏でさえ、2015年2月の株主総会で公開された「株主に対する手紙」の中で、もはやアメリカ企業といえど、大きな成長は見込めず、従来のような高い利益率で運用できないことを明言しており、アメリカに大きな成長機会がないのであれば、移民を受け入れず、毎年100万人ずつ人口が減っていく日本の国内市場が、今後どんどん厳しくなることは安易に想像することができます。


↑今後は、過去に達成したような数字で運用することはできない。そのことを理解してほしい。(Javier) 

少し前まで、世界はものすごくシンプルで、先進国と発展途上国というように、豊かな国と貧しい国がはっきりと別れ、それ以外のものはありませんでしたが、現在ではどこが豊かな国なのか、貧しい国なのかを見極めるのがどんどん難しくなってきており、実際、ほとんどの国がこの両方の側面を持つようになってきています。

日本はかつて一億人中流階級とも言われ、世界でも稀に見る格差の少ない国の一つでしたが、すでに豊かさの底が抜け始めており、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、今後、子供や孫たちに囲まれて、おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれる生活を送ることができるのは、一部の恵まれた人にしか選べない老後だと述べています。(21世紀の自由論/佐々木俊尚)


↑当たり前だと思っていた価値観が壊れ始める (L’oeil étranger)

日本という国は、同じ言語や文化を共有したひとつのプラットフォームですが、アメリカが唯一の超大国として世界に君臨する時代が終わり、新興国の工業化が完了して、人口爆発も一段落すると、世界はもっと流動的になり、世界の主役は従来の「国」というプレイヤーから、グローバル企業やNGO、そして同じような考えを共有する大きなグループなど、ばらばらに権力が分散される時代にシフトすると言われています。


↑アメリカの一極化が終わり、ばらばらに権力が分散される多極化の時代へ (Beverly Pack)

2001年の同時多発テロを見ても分かるように、世界の敵はもはや「国」ではなく、母国を持たない国際テロ組織という任意団体がアメリカを攻撃し、リーマンショックでは、投資銀行という「企業」のマネーゲームによって、世界中の人々の生活が危機にさらされました。(ノマド化する時代/大石哲之)

「成功のルールが変わる!」の著者、リッデルストラレ氏とノードストレム氏は、今後、国境を越えて同じアイデンティティーを持つ人たちが集まり、力を持つようになるため、2042年のサッカーワールドカップの最終戦は従来のようなイタリア vs ブラジルというものではなく、ホモセクシャル・ユナイテッド vs ヘルズ・エンジェルFCのような対決になるのではないかと述べています。


↑未来のワールドカップは国 vs 国ではなく、グループ vs グループ (Ted McGrath)

“ヨーロッパ最高の知性”と称されるジャック・アタリは、グローバルの単一市場やテクノロジーの進化が、世界をどんどんフラットにしていき、その力が次第に国の力を弱めるため、2050年頃には、日本やアメリカのような国民国家は、ゆるやかに解体され、国としての役目を終えるだろうと述べています。

国という枠組みが役目を終えると、国に縛られない個人やグローバル企業が世界の主役になっていきますが、逆に今まで国という枠組みにしがみついてきた人たち、つまり日本人(1.2億人) vs 世界(約70億人)で戦っていた人たちが、裸で「世界」に放り出され、個人が直接、世界と1対1で戦わなければならない時代がすぐそこまで来ています。


↑国という枠組みがなくなると、個人は裸で世界に放り出れる (Nickeeth Lopez)

国に縛られないグローバル企業とは、ゴールドマン・サックスやアクセンチュア、そしてアップルなど、もうすでに数多く存在していますが、国という枠を超えて活躍する個人とは、「ハイパーノマド」と呼ばれ、その多くが厳しい競争を勝ち抜いてきた人たちで、雇われる方でも雇う側でもなく、世界に数千万人は存在するだろうアタリは述べています。

ハイパーノマドは複数の肩書きを持ち、クリエイティブ産業に従事する人、ソフトウェアの設計者、サーカス型の企業の所有者、そして金融業や企業の戦略家など様々ですが、彼らはライバルにまねできないという意味で自分の仕事に、「シグネチャー(署名)」を残す人たちであり、クリエイターの高城剛さんは、「その分野で世界の100番以内に入れば、自動的に仕事は来る」と述べています。


↑その分野で世界100番以内に入れば、ほっといても仕事は来る (Tokyo Times)

ハイパーノマドという上層ノマドは、世界中の様々なところから仕事のお呼びがかかりますが、それとは正反対の「下層ノマド」と呼ばれる人も今後増えていくことになります。

下層ノマドとはグローバル版出稼ぎ労働者で、従来、出稼ぎ労働者とは田舎の農村部から都会へ仕事を求めて移動しましたが、国の機能が弱まることによって、このようなことが世界規模で起こる可能性があり、すでにリーマンショック前、建設ラッシュが続いていたドバイには、インドやパキスタンから移動してきた労働者が、集団宿舎に泊まりながら、月収数万円程度で働く光景が見られ、日本でも40歳近くで仕事がなく、中国の大連などで時給340円程度でデータ入力の仕事をしている人もいると聞きます。


↑下層ノマドも仕事を求めて世界を彷徨う。(Paul Keller)

もちろん、上層ノマドと下層ノマドの両方に属さない人も存在し、彼らは「バーチャル・ノマド」と呼ばれ、移動をしない定住サラリーマンやホワイトカラー、教師、そして警察官などのことを指しますが、国が開かれて、移民が大量に押し寄せてくると、彼らの対価は信じられないほど安くなってしまい、このような人たちは、「国が閉ざされていた時のことを懐かしく思うだろう」 とジャック・アタリは述べています。

そして、バーチャル・ノマドは一つの場所に定住しながら、スマホやPCなどを経由して、ハイパーノマドたちが作り出す音楽や映画、そしてゲームなどをひたすら消費する立場にあり、インターネットという仮想空間に自己を没頭させ、ひたすら気晴らしをすることで欲求を満たしていくことになります。


↑バーチャル・ノマドは国が閉ざされていた時のことを懐かしく思うことになる (tokyoform)

最近では、会社に属さず、カフェやコーワキング・スペースなどで自由に仕事をする人を、「ノマド・ワーカー」と呼ぶ傾向がありますが、彼らは東京にクライアントがいるため、「東京」という場所の束縛を受けていますし、むしろ住宅などを「所有」してしまえば、自ら定住することを好むことになり、人生の選択肢を大きく狭めてしまうことになります。

「もはや国に継続的に住む人物とは、外に敵が多すぎる人物、脆弱な人物、年寄りと幼い者など、なんらかの理由で定住を余儀なくされた者たちだけである。」(ジャック・アタリ)


↑ジャック・アタリ「もはや国は一時的に滞在する場所に過ぎない」 (Fondapol)

ハイパーノマドの仲間入りをする一番シンプルな方法は、これまで以上に一生懸命働くことで、あるベルギーの心理療法医は、次の時代を、「人はインプットしなければ、アウトプットされる」という言葉で表現していますが、よく「1万時間コミットして世界トップレベルになれなかった人はいない」と言われるように、アベノミクスの麻薬が切れた後、世界からお呼びかかるように自分の仕事に「シグネチャー(署名)」を残していかなければなりません。


↑アベノミクスの麻薬が切れた後、本当に必要とされるのはシグネチャーがある仕事だけ (Joe Mohamed)

現在、テクノロジーの発達や時代の変化により、数十年前には限られた人しかできなかった仕事が誰にでもできるようになり、高性能なアプリケーションやソフトウェアが増えたことで、誰でも2年本気で取り組めば、立派なクリエイター、そして5年で世界を変えられる時代に生きていると言います。

2010年代の日本で、自分の親の世代の人たちが思い描いた将来像に合わせて生きることは、難しいのかもしれませんが、次の時代は、満員電車で通勤しながら、課長、部長と何十年かけて昇進していくプロセスは存在しないこと、そして5年で世界からお呼びがかかる時代であることを忘れてはいけません。

主な参考書籍:「低欲望社会 :大志なき時代の新・国富論/大前 研一」、「稼ぐ力:自分の仕事に「名札」と「値札」をつけられるか/大前 研一」、「レイヤー化する世界/佐々木俊尚」、「21世紀の自由論/佐々木俊尚」、「ノマド化する時代/大石哲之」、「成功ルールが変わる!/ヨーナス リッデルストラレ/シェル・A. ノードストレム」、「ワーク・シフト/リンダ・グラットン」

Eye Catch Pic by Leandro Godoi 

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