November 17, 2014
もう「問題解決」に優れた営業マンは必要ない。営業マンは技術者ではなく、芸術家であるべきだ。

イラスト by リーディング&カンパニー

アメリカの労働統計局が発表したデータによれば、労働者の9人に1人は「営業」の仕事についており、日々誰かに何かを買うように説得して生活費を稼いでいるそうです。

しかし、同僚から関心をひこうとしたり、投資家から資金を調達しようとしたりと、実際に「営業」という仕事についていなくても、日常社会では常に「説得」を繰り返しており、人間は皆生まれつき、「営業」という仕事をしているのではないでしょうか。

従来、企業の営業マンは業界内の情報を独占し、それを顧客に提供することで商品やサービスを売っていましたが、現在一部の業界を除いて、ほとんどの商品情報、値段、そしてレビューはインターネット上で誰でも閲覧することができ、営業マンが情報を持っているだけで優位性を保てる時代は終わりを告げました。


↑従来は営業マンが業界の情報を独占していた。

例えば、車の中古車販売でも旅行代理店でも同じことですが、企業が情報を独占していた時代はその独占情報を武器に高い値段で商品を販売することができましたが、今では普通の主婦でもパソコンで航空運賃、ホテルの宿泊料、そして中古車の値段などを入手でき、レビューも専門家と同じように見ることができます。

もし会社や家に営業の電話がかかってくれば、電話を切った後で会社名と担当者の名前をグーグルで調べ、この気味の悪い営業電話についてフェイスブックに投稿する可能性だって考えられます。


↑営業マンと顧客が持つ情報レベルが同じになった。

例えば、10年前に掃除機がほしいと思ったら、家電量販店に行って、自分よりもはるかに豊富な知識と情報を持っているセールスマンと話し、値段に納得すれば、勧められた商品をそのまま買っていました。

しかし、今ではネットでいろいろなモデルの構造やデザイン、評価を調べることができ、フェイスブックで何かおすすめの商品はあるか友人に尋ねることもできます。

実際、セールスマンの出る幕はほとんどなく、パソコンの画面を眺めているだけで、商品の仕組みの中で私たちは生きているのです。


↑もう従来の営業マンは必要ない。(image_tokyoform_flickr)

情報の優位性が失われたことで、営業マンもそれに合わせて変わっていかなければなりません。

従来、どの業界でも「問題解決力」に長けた人が必要とされ、見込み客のニーズを見積もり、問題点を分析して、最善の解決策を打ち出す人が優秀な営業マンとされてきました。

もちろん、このような「問題解決力」は今でも重要ですが、特定の人だけではなく、誰もが豊富な情報にアクセスできる時代では、その能力の重要性は以前よりも低いことは明らかです。

アル・ゴア元副大統領のスピーチライターを勤め、数々のベストセラー作家でもあるダニエル・ピンク氏は、これからの時代、営業マンに必要なスキルは問題を「解決」するスキルよりも、まだお客さんが気づいていない問題を「発見」することだと述べています。


↑問題を「解決」するスキルよりも、問題を「発見」するスキルの方が大事。(image_lea kolling_flickr)

先ほども述べたように、掃除機を購入しようと思ったら営業マンの力なんか借りなくても、一番安くて一番性能の良いものをネット上で見つけることができます。

営業マンは1人も必要ありませんが、それは本人が問題を取り間違えていなければの話です。つまり最終的な目的は掃除機を購入することではなく、床をキレイにすることで、もしかすると本当の問題は窓の網戸にあり、性能のいい網戸に交換したら窓を開けていても家の中が以前ほど汚れなくなるのかもしれません。

もしかすると問題はカーペットにあって、カーペットに泥が付着しやすいせいで、カーペットを換えたらしょっちゅう掃除機をかける必要がなくなるかもしれません。

もしかすると掃除は自分でやるよりもハウスクリーニングの業者に任せた方が効率がよく、掃除機なんて買う必要がないのかもしれません。


↑そもそもの問題は掃除機を買うことではなくて、床をキレイにすること。(image_Timber Floors_flickr)

掃除機と同じように、「自分の問題を正確に把握していれば」、あるタイプのカメラを買いたいとか、三日間の休暇をビーチで過ごしたいとか、たいていの問題は誰の手もほとんど借りずに、自分で必要な情報を探して解決できます。

営業マンは、直ちに解決策を提示し、契約書に署名を確保する「クローザー」である必要はなく、お客さんとともに意見を出し合い、新しい機会を発見して、その時点で契約を結ぶかは重要でないと考えていると認識している人物である必要があります。


↑もう営業マンは「クローザー」である必要はない。(image_Stephen D_flickr)

リクルートで創業以、来歴史に残る営業成績を残した高城幸司さんもキャリアをスタートさせた当初は、情報にアクセスしてその情報を使いこなすことがセールスの成功を定めると考えていましたが、いたるところに情報があふれている現在、重視すべてきポイントは「仮説を立てられる能力」、つまり次に何が起こるのかを明確にする能力が必要だと述べています。

かつて優秀な営業マンは情報を「入手する」ことに長けていましたが、現在、優秀な営業マンは情報を「監督する」ことに長けていなければならず、膨大なデータを選別し、最適かつ明確な情報をお客さんに提示できるスキルを持たなければなりません。


↑次世代の営業マンは情報を「監督する」ことに長けていなければならない。(image_timetrax23_flickr)

さらに新しいセールスの世界では、適切な「質問」をする能力は、適切な答えを生み出す能力よりも価値があり、質問をすることで隠れた論点をあぶり出し、表面上には見えない問題点を認識する必要があります。

しかし、残念ながら企業でも学校でも、全く逆の方向に力を入れており問題の答え方は教えるが、質問の仕方は教えていません。

子供たちが「なぜ?」と連発するのにはしっかりとわけがあり、この騒がしい世の中で物事がどのように機能しているのかを突き止めようとしています。


↑子供が「なんで?」と連発するのはしっかりとした理由がある。(image_Thomas Hawk_flickr)

イノベーションを生み出すことで有名な会社、IDEOは5歳未満の子供からデザインの問題発見のメソッドを習得したとして次のように述べています。

「相手がどんな問題を抱えているか見つけ出そうとするとき、まず”なぜ?”と訊ねる。次に、返ってきた答えに対して、もう一度”なぜ?”と訊ねる。さらに繰り返し訊ね、全部で5回”なぜ?”と訊ねる。この訓練は、その人のふるまいと姿勢の根底にある理由を検証し、それを表現することを余儀なくさせる。」

そして、「なぜ?」を問い続けることによって導き出された問題に対しての答えは、もの凄くシンプルでかつ付加価値の高いものでなければなりません。

ハーバード大学のハロルド教授によれば、どんな事柄でも何かを理解する時に重要な事は、焦点を「1%」に絞ることで、その「1%」が残りの99%に命を与えるのだそうです。

これは「一言の資産価値(One Word Equity)」と呼ばれ、その1%を理解し、他人に説明できる力が精神的に優秀な営業マンの証になります。

従って、大企業にコンピューターを販売する時も、末っ子に新しい本を読み聞かせる時も、「この1%は?」と自問することが本当に大切で、その答えを探し出し、それを他人に伝えられるスキルを身につけたのなら、心を動かすことができるだろうと、ダニエル・ピンク氏は「人を動かす新たな3原則」という本の中で述べています。

「検索」という言葉を聞いて思い浮かべる企業は「グーグル」、「プライスレス」と聞いて頭に思い浮かぶのは「マスターカード」と言うように、もっとも関連づけたい一つの特徴を定義し回答するスキルが21世紀の営業では求められるのではないでしょうか。

「二語では唯一神にならない。二人の神が存在することになり、それでは多すぎる。」(ダニエル・ピンク:人を動かす新たな3原則 P176)


↑徹底的にシンプルな言葉しか伝わらない。(image_Håkan Dahlström_flickr)

スタンフォード大学とコロンビア大学が行った調査で、ある高級スーパーにブースを出し、買い物客にジャムの試食をしてもらいました。

最初に24種類のジャムを並べ、翌週にはジャムの種類は6種類に減らして顧客の購買心理を調べたところ、24種類のジャムが並んでいる時には3%の顧客しか購入しませんでしたが、種類を6種類にすると30%の顧客がジャムを購入しました。

選択枠を24個から6個に減らした結果、売上げが10倍になったことになります。


↑提案は少ない方が顧客に受け入れられやすい。(image_Alan Levine_flickr)

テクノロジーが発達し、ほとんど情報がインターネット上にオープンになった現在、顧客は営業マンと一言も話さず、問題を「解決」することができるため、もう顧客の問題を解決するだけでは優秀な営業マンとは言えません。

世の中でモノをより速く、数多く作る、生産性のある仕事よりも、まだ世の中にないモノやサービスを作る創造性を重視した仕事が求められているように、営業マンにも従来のようなアルゴリズム的問題解決スキルではなく、芸術家目線の「問題発見」スキルが求められるようになりました。

見えない所で世の中の需要も少しずつ変わってきているのかもしれません。

今回はダニエル・ピンク氏の「人を動かす新たな3原則」という本を参考にしました。素晴らしい本なので是非読んでみて下さい。

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