June 29, 2016
トヨタが考える“利益”とは健康な体から出るウンチ「もうこれ以上、数字はウソをつかないとか言って、職場から人間味を奪うのはやめろ。」

(illustration by L&C)

不況になり、すぐに結果を求める人たちが増えるにつれて「マッキンゼー流の◯◯」、「ハーバード式の◯◯」など欧米式の問題解決や意志決定の大切さを説く本がやたと目につくようになってきました。

また「数字は嘘をつかない」と、過去20年で理論やビジネスモデルを重視した経営手法が一気に増え、「効率化」や「スキルの標準化」、そして「パフォーマンスの最大化」など目に見えるものだけを重視し、目標を急速に短期化させることで、日本人特有の「上手く説明できないけど、この先に何か臭います」といった直感や数値に表せない人間の感情、そして先人やご先祖さまのおかげで今の自分があるといった、目に見えないものを信じようとする力が低下し、「短期的に結果さえ出ればいい」、「事業部を大きくしたのはオレだ!」といった傲慢な人も増えてきています。


↑過去20年で、直感を信じるアホが減って、スマートで理屈ばかりを並べる人たちが急激に増えた。

日本ではバブル破壊後から欧米の経営が注目を集め、一時期、欧米の経営論を学ぶMBA(経営学修士)は、「医学博士号に次ぐ学位、いい暮らしをするためのパスポート」とまで言われ、ソニーも20年前に旧式の日本経営と決別し、当時、先進的と言われたグローバル・スタンダードの米国式経営を採用しましたが、それがどのような効果をもたらしたかは、今の現状を見れば明確です。

日本の経営界で大きな影響力を持つ、大前研一さんの書籍を読むと必ずと言って良いほど「マッキンゼー」という言葉が至るところに出きて、「マッキンゼーの仕組みさえあれれば、誰でも35歳で社長が務まる」、「優秀な人材を探して石を投げたらマッキンゼー出身者に当たる」とまで豪語しています。(1)

しかし、このようなマッキンゼーが得意とするアメリカ式の理論や数字、そしてケーススタディー(事例を挙げて、推測を確認すること)などをベースにする経営や、経営コンサルタントと言われる人たちが提案するやり方が、2016年の日本でどこまで役に立つのかは少し考えてみなければなりません。


↑果たして本当にマッキンゼーの仕組みさえあれば、誰でも35歳で社長になれるのか。

基本的に、約200年以上ものあいだ、企業は経済学の父と呼ばれた、アダム・スミスの言う市場は、「見えざる手(需要や供給のバランス・価格は見えない神の手によって自動的調整されるという意味)」によって動かされていると信じられてきましたが、アメリカの経営思想は異なった考え方で革命を起こし、単に外部の市場の力に任せるだけではなく、みずから物事を動かすことで経営を進めていく「経営の見える手」という概念を生み出しました。(2)

このような「仕事の経験」からではなく、理論や数値で経営を考えるアメリカ式の経営が上手く行き始めると、世の中にビジネススクールが大量生産され、1980年にハーバード大学のマイケル・ポーター氏が「競争の戦略」を出版するとともに、戦略コンサルタントの時代が幕を開け、1980年代、1990年代には全盛期を迎えることになります。(3)


↑経営コンサルタントが生み出した企業や市場を操作する「見える手」

しかし、誰でも経営者になってみれば分かることですが、経営というものは本来、経験、直感、そして分析が適度にブレンドされたものでなければなりません。

「経営のプロ」と呼ばれる経営コンサルタントやビジネススクールで理論や事例を大量に叩きこまれた学生が考える経営とは、分析(サイエンス)に偏りすぎており、不況だからと彼らが企業をコンサルティングし、従業員を管理させて効率化をはかったり、数値の目標をただひたすら追わせることによって、日本の職場から、日本人がずっと大切にしてきた人間味がどんどん奪われ始めています。


↑「経営のプロ」が職場から人間味をどんどん奪う。(Flickr/Mary Lock)

例えば、自身もビジネススクールで学位を習得し、現在は経営者でもあるグレッグ・ストッカー氏は数値にとらわれることが悪循環の始まりだとして、交通局と郵便局の例を紹介しています。

ある交通局は、バスの運転手が運行時間を正確に守ることで、インセンティブを与えることにしたところ、運転手は運行に遅れが出そうになると、たとえ乗客がバス停で待っていても、通過してしまうという事態が起こりましたし、郵便局で処理時間に関して目標を設定したところ、職員は時間内に処理できなかった郵便物をどこかに隠してしまうという事態が発生してしまいました。


↑数値で管理することが悪循環の始まり。

また、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ジェンセン教授は「給料ほしさにウソをつく」という論文の中で、目標を達成するために売上を実際よりも前の日付で計上したり、売らなければいけない商品とは別のもので売上を作ったりするなど、様々な事例を紹介していますが、所詮、数字を管理するのは感情を持った人間であり、簡単な小細工ひとつで数字は平気でウソをつくということを忘れてはいけません。(4)


↑数字は操作し放題、数字はウソをつかないなんて大嘘。

そして、経営の戦略に関しても、経営者は決断力が必要だからと、よくビジネススクールで行われる短い時間で、いくつかの資料に目を通し、「君が◯◯の社長だったらどうするか?」と生徒に経営の勉強をさせるのは、現場を無視したあまりにもナンセンスな方法だとカナダのマギル大学経営大学院のヘンリー・ミンツバーグ氏は怒りをあらわにしています。(5)

確かに、本当にその会社を理解しようとすれば、その会社の製品を実際使ってみなければなりませんし、消費者や社内の人にも話を聞き、工場を訪ね、もしその会社が海外にあれば、一度現地を訪れてみなければなりませんが、世界トップレベルのビジネススクールで資料と理論で経営を判断することに慣れてしまった人たちが大量生産され、様々な会社に就職し、マネジャーとして活躍していくという現状は、やはりちょっと違うのではないでしょうか。


↑最初は躊躇する学生も、いつの間にか少ない資料で判断することに慣れてしまう。

前述の大前研一さんは著書「稼ぐ力」の中で、学生に1週間ほどマッキンゼー流の問題解決法を教え込み、「オリンパスの経営が破綻した理由は何か」、「大赤字のソニーを再生するためにはどうすればよいか」というようなテーマを与え、自分の前でプレゼンテーションをしてもらうと誰が優秀なのかすぐに見極めがつくと断言していますが、仮にソニーの現状を分析できる人が500人いても、その中に本気でソニーを立て直す実行力がある人は一体何人いるのでしょうか。(6)


↑じゃあ、分析したその人がそれを実行し、成功させることができるのだろうか。

大前さんが世界的に見ても、ずば抜けて頭が良く、様々な結果を出してきており、日本で最も信頼される人であることは間違いありませんが、論理や理想と現実はやはり違うものだと、「マッキンゼー」の著者、ダフ・マクドナルド氏は大前さんについて、次のように述べています。(7)

「マッキンゼーを去ったあとの大前は、 コンサルテイングの高尚な雰囲気は必ずしも現実世界では受けないという、多くのマッキンゼー人におなじみの失望を感じることになった。 彼は1995年に東京都知事選に出馬し、芸能人の青島幸男に破れた。(同じ年、やはり芸能人の横山ノックが大阪府知事選に勝利した)」


↑ 大抵の場合、人々は理論よりも感情で動く。

大前さんと同じようにマッキンゼーなどの経営コンサルタントがずば抜けて頭が良いことは間違いありません。

しかし、経験、直感、そして感情が不足することから生じる経営の誤差の代償は大きく、マッキンゼーのコンサルタントは、ゼネラルモーターズが破産した時、Kマートが大混乱に陥った時、スイス航空の経営が悪化していった時も助言者であり、そして当時はアメリカ史上最大の破産と言われたエンロンに関しても、深く関わり、破産する直前まで巨額の報酬を貰い続けていました。(8)


↑彼は様々な企業が危機に陥った時、すぐそばにいた。

大手外資コンサルティング会社で働いていた経験を持つ中村和己さんは、経験が不足し、銀行に勤めたことがないくせに銀行のコンサルティングを行い、ネットビジネスをやったことがないくせに、ネットビジネスについて語る経営コンサルタントの存在は、もう明らかに時代遅れだとして次のように述べています。(9)

「もし1980年代以前に『 経営コンサルは役に立つか?』と訊かれれば、コンサル不要論者であるわたしでさえ、『それは良いと思う。おおいに役立つに違いない』と答えただろう。もし1990年代に訊かれれば、『少し高いけど、そう悪くもないと思う』と回答した。 2000年代に訊かれれば、『何か、騙されていないか?』と答える。今訊かれたら『要らない。他に手段がある』と答える。」


↑企業戦略をコンサルタントに任せるCEOはさっさとクビにすべき。

スティーブ・ジョブズはビジネススクールを卒業し、当時ペプシ・コーラの社長であったジョン・スカリーを引き抜くことに成功します。

ところが、スカリーが取締役会を味方につけて、ジョブズをアップルから追放すると、その直後、アップルは一気に経営の方向転換をし、もともとアップルの従業員が持っていたハートを切り取って、そのかわりに人工の心臓をアップルに埋め込みました。(10)

マッキンゼーはスカリーがジョブズを解雇すると、アップルと仕事をし始めますが、ジョブズが再びアップルに復帰した時には、あと90日分の運用資金しか残っていなかったと言われ、アマゾン、マイクロソフト、そしてグーグルが自宅のガレージから現在の姿になるまで、マッキンゼーが何かをしたという話はあまり聞いたことがありません。


↑スカリーはアップルのハートを切り取って、かわりに人工の心臓をぶち込んだ。 (Flickr/Fabrizio Furchì)

そもそも、欧米から持ってきたビジネス理論や経営学をそのまま日本に導入したところで本当に上手くいくのでしょうか。

株式資本主義型の欧米や韓国の経営は、株主価値の最大化なんて言い方をしますが、午前中に株を買って、夕方には売り払ってしまっているかもしれない株主のために、日本人が親身になって働くことができるかと問われれば、ほとんどの日本人は「ノー」と答えることでしょう。

医療業界にも、西洋医学と東洋医学があるように、日本企業の体質や文化をしっかりと理解せずに、欧米の経営をそのまま導入すれば、数値上の売上やパフォーマンスは一時的に上がっても、いつか必ず病気になり、現在メディアに数多く取り上げてられている、かつては日本を代表していた企業のように、最終的には取り返しのつかないところまで事態は悪化してしまいます。


↑すでに職場では燃え尽き症候群やうつ病など、様々なアレルギー反応が出始めている。

もともと日本人は論理や数値ではなく、「目に見えない何か」を信じることで、何千年も前から心身ともに人間として成長し続けてきました。

けれども、現在では頭の回転が速く、合理的かつ効率的で、決められた道を最短距離で行くことが得意な人たちばかりが増えてきてしまっており、失われた20年、30年と病気がこれ以上悪化していく前に、これまで自分たち日本人がどのようにして成功してきたのかを再度考え直し、まずは従来の日本経営を主軸に物事を考えていかなければなりません。(11)


↑自分たちは今までどうやって成功してきたのか。(flickr/jim212jim)

もちろん、日本企業が得意とする年功序列や終身雇用は時代に合わせて変化させていかなければなりませんが、欧米の経営の基本が利益を最大化することなのであれば、日本経営の基本は雇用や現場の力を意識することであり、トヨタ自動車の社長、豊田章男さんが「先生」と慕っている長野にある伊那食品の塚越寛さんは、「利益は健康な体から出るウンチ」だとして次のように述べています。(12)

「ウンチを出すことを目的に生きている人はいません。でも、健康な体なら、自然と毎日出ます。出そうと思わなくても、出てきます。 ここがポイントです。 『健康な会社』であれば、『利益』というウンチは 自然と出てくるはずです。 毎日、出そうと思わなくても、出てくるものです。 だから、『利益』を出そうと思えば、『健康な会社』をつくることを考えればいいわけです。」


↑利益は健康な体から出るウンチ。

また、豊田章男さんは、先生と慕う塚越寛さんの屋久島の杉のように、毎年毎年ひとつずつ年輪を重ね、永続的に企業が成長していく「年輪経営」という概念に大きな影響を受けており、過去最高益を更新した2014年3月期の決算会で、豊田社長は「年輪」という言葉を8回も繰り返した上で、リーマンショック前の急速な事業拡大を次のように反省しました。(13)

「ある時期に急激に年輪が拡大したことで、幹全体の力が弱まり折れやすくなっていた。」


↑「V字回復」や「過去最高」は一切意識しない。(iStock)

セブン・イレブンをアメリカから日本に持ってきた鈴木敏文さんが、「最初はアメリカから全部教わりました。でも2、3年したら、日本式のセブン・イレブンになってしまいました」と言ったことは有名ですが、海外の店舗でも日本のノウハウが入っている店舗では売上が高く、鈴木敏文さんも「売れるから発注するのではない。(自分が)売れると思うから注文するのだ」と数値よりも、自分の直感を大事にすべきだと述べています。(14) (15)


↑理論や数値に頼るのではなく、自分が売れると思うなら注文しろ。

船井総合研究所の創業者である船井幸雄さんは、これからの経営は数値や理論ではなく、目に見えない「サムシング・グレート」という力に委ねることが大切だと指摘しました。(16)

「サムシング・グレート」とはノーベル賞候補にもなった筑波大学の分子生物学者、村上和雄さんが科学というものを最後の最後まで突き止めていくと、必ず「科学では証明できないもの」にぶつかり、科学や論理では説明できない力を「サムシング・グレート(目に見えない偉大な力)」と呼んだことが始まりで、これは論理や数値で表わせないことは視野に入れる価値がないという経営コンサルタントには、鼻で笑われそうな概念ですが、科学や理論があまりにも進歩したために、現代の人たちは、何事も合理的に考えるのは得意である一方、合理を超えるもの、つまり「目に見えない力」を感じるのが極端に苦手になってしまっています。(17)


↑最後の最後には必ず科学では証明できないことにぶつかる。

そもそも、ダーウィンの進化論に対して「中立的進化論」を唱えた世界的な遺伝子学者、木村資生博士によれば、私たちが人間として生まれてくる確率は1億円の宝くじに100万回連続で当ったことぐらい凄いことだと述べているぐらいですから、私たちは自分たちの存在ですらしっかりとした数値や論理で説明することができません。(18)

例えば、公認会計士として様々な経営者を見てきた天明茂さんは先祖のお墓参りをしない経営者の会社は必ず倒産すると断言していますし、漁師さんが自分たちの恵みをもたらす海に感謝したり、子供が親に感謝したりする道徳の心は、自然と経済や企業の成長に直結していくものだと言います。


↑目に見えない力「お墓参りをしない経営者の会社は必ず潰れる。」

お互いが信頼し合って暮らせる共同体を、長い年月をかけて作り上げてきた日本は、すでに江戸時代後期には一人あたりのGDPが世界一にまで成長し、その道徳心の基礎があったからこそ、明治維新を経て一気に工業化の波に乗り、戦争には負けはしましたが、その後もその道徳心が軸となって、世界が驚くほどの経済成長を遂げるまでに至りました。(19)

よくグーロバルだの、会社に頼らずに生きてく力を身につけろだのいろいろと言われますが、独立したり、本当に海外で戦っていける人などほんの一握しかいませんし、日産のカルロス・ゴーンのようなスター経営者だって、そんな簡単にいるわけではありません。

むしろ、日本型の終身雇用、年功序列が若い人たちにあまり好意的に受け入れられていないのは、ただ単に日本企業が時代遅れなのではなく、職場では目に見える数値や論理だけが優先され、道徳心や信頼に目を傾けようとしない大人たちについて行こうという気持ちが著しく低下しているからではないでしょうか。


↑日本経営が時代遅れなのではなく、日本の道徳心や信頼を軸にした社会が崩れ始めている。

「海賊とよばれた男」という小説で話題になった出光興産の創業者、出光佐三さんは経験のある人を雇おうとはせず、新卒を育てることにこだわり、新入社員の母親には、「お母さんに代わってこの子を育てますよ」と伝えました。

こんなことを言う経営者は欧米にはほとんどいませんが、出光さんはアメリカに出張に行った際に、ある銀行の頭取に次のように述べたと言います。(20)(21)

「出光の資本は人であるから、資本金というものは、わずか110万ドルである。しかし、人が借りてくる資金というものは数億ドルに達している。出光は資本と資金とを判然と区別している。資本は人なりと言われるような尊い人はやめさせない、出勤簿も要らないし、労働組合も要らない、残業手当も辞退する、というような状態になっている。」


↑「お母さんに代わってこの子を育てますよ」なんて言う経営者は欧米にはいない。 (Flickr/tokyoform)

最近では自由な働き方が推奨され、社畜という言葉や「会社は学校じゃねぇんだよ」と即戦力を求める経営者も増えてきました。ある方のブログに「会社は学校じゃねぇんだよ」というタイトルで次のようにありましたが、このような内容に違和感を覚えたのは僕だけでしょうか。

「教えてもらってる時間だって、給料は発生してるし、能力のある先輩の仕事時間まで頂いてる事になる。1時間教えてもらったとしたら、自分と先輩の1時間分の給料すべてをもらってる事になる。そしたらその分死ぬ気で稼げ、と思います。」

「仕事なんて全部自分で見つけてこいよ。ここは学校じゃねぇんだよ。自分でギラついて先輩から仕事奪って、どんどん結果出してこいよ。」


↑ギラついて先輩から仕事奪って、どんどん結果を出す、こんな人ばかりが増えたら日本はどうなるのか。 (Flickr/austinvegas)

「会社は学校じゃない」、言いたいことは分からなくもないですが、現在は専門性などすぐ有用性を失う時代ですし、誰だって訓練しなければ仕事などできるわけがありませんから、逆に自分が即戦力などと言って自惚れている人など採用しない方が良いのかもしれません。

ある経営者の方は新入社員の勉強会で必ず次のように述べると言います。(22)

「授業料を払って、どうでもいいような初歩的なことを教わるのが学校である。会社に入ると、給料をくれて世の中で生きていく術を教えてくれる。会社は潰れるものである。潰れたときでも生きていく方法を会社は教えてくれる。だから最初の数ヶ月は授業料を払え。」


↑会社では、会社が潰れた時に生きていく術を教えてくれる。

恐らく、本当に優れている会社というのは、年功序列でも能力がある人は自然と上に行ける仕組みが出来ていると思いますし、それに加えて新しいものや、欧米の概念なども上手く取り入れた経営を確立しています。

それに、何千年と遥か昔から受け継がれ続けている日本の文化や価値観というものは、どれだけITやグローバル化が進もうとも、人が主体の世の中である限り、そんな簡単に変わっていくようなものではないように思います。


↑3000年の歴史を振り返って、日本人という民族を考え直せ。 (flickr/Toyota Material Handling)

アメリカやヨーロッパの状況を見てみても、政治・経済ともに明らかな行き詰まりを見せています。

しかし、今現在も書店に行けば、「マッキンゼーの◯◯」といった本がところ狭しと並び、人間味や目に見えない力よりも、理論や数値などが重要視されていることも多く、前述の「マッキンゼー」の著者であるダフ・マクドナルド氏は著書の中で、マッキンゼーが2000年の採用面接の最後で流したスライドのことについて取り上げています。

「そのスライドは一見すると簡単そうだ。単なる、年率20パーセントの成長曲線だ。その20パーセントは、過去10年間のマッキンゼーの収入と社員数の年間成長率で……はっきり言えば、そのスライドが示唆しているのはマッキンゼーが世界征服の途上にあるということだ……もし今回そこに就職できなくても、ずっと待っていればいい。2060年5月には年寄りになっているだろうが、そんなことは関係ない。彼らはあなたを雇うことになる。アメリカ中の男性も女性も子供も、2060年5月までに、全員がマッキンゼーのコンサルタントになるわけだ。2075年までには、地球上のすべての人がマッキンゼーのコンサルタントになる。」


↑論理と数値の世界征服「2075年には世界中の人がマッキンゼーのコンサルタントになる。」

また、ダフ・マクドナルド氏は、元マッキンゼー日本支社長の大前研一さんは、日本では「経営の神様」として知られ、日本で最も信頼できる人間の一人だと指摘しています。

しかし、もう一人、「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助さんの本を読んでいくと「運が良ければいい」「大事なことは、理屈ではない」など、大前さんとは正反対のことを言っているようにも思えますが、やはりどちらが良い悪いで判断するのではなく、どちらが日本人に合っているかという概念で物事を考えれば、松下幸之助さんの言う、目に見えないこと、理屈では語れない力の大切さの方が、日本人にとっては親しみやすいものなのでしょう。


↑目に見えないものを信じなはれ。(illustration by L&C)

目に見えない力、「サムシング・グレート」の概念を世界中に伝えている前述の村上和雄さんはダライ・ラマ法王に招かれた際に、ダライ・ラマ法王が村上さんの目を見つめ、手を握って、「日本は21世紀には非常に大切な国になります。これから日本人の出番がきますよ」と述べたそうです。(23)

ダライ・ラマ法王は日本が西洋の科学や技術を取り入れて経済大国になりながら、欧米のように自然を支配しようとしたりせず、昔ながらの人望や目に見えない信頼に重点を置いた考え方が、今の世界には必要だと日本の今後に深く関心を寄せています。


↑ダライ・ラマ法王「21世紀こそ、本当の日本の出番。」(flickr/Christopher Michel)

恐らく、これから100年、200年後に歴史家が「平成」という時代を振り返った時、なんて不思議な時代だったのだろうと首を傾げることでしょう。

モノが大量に溢れて、戦争も起きていないのに、みんなが不幸な顔をして、自殺する人は後を絶たず、企業はどんどん潰れていく。会社というものは雇用を生み出し、利益を作って、それを世の中に循環させ、人の幸福を生み出す「箱」に過ぎないのに、いつの間にか人々の幸福を搾取し、世の中の悪循環を生み出すものになってしまっている状況が、ここ数十数年続いています。


↑生活には困っていないのに不安や自殺「平成という時代は、なんて不思議な時代だったのだろうか。」

もちろん、ビジネススクールを卒業して経営者になり、大成功している人もいますが、恐らくこのような人たちはビジネススクールで学んだ経営の概念を上手く克服できた人なのではないでしょうか。

恐らくこれからは目に見える「結果」すら必要ありません。今必要とされているのは、人と人とが切磋琢磨して、何かを成し遂げる「ドラマ」であり、このようなドラマを作り出せる人たちが大きな付加価値と、次の時代へと受け継がれる価値観を作り出していくのでしょう。

経営は他人や数値に任せず、自分の直感と感情でやった方がいいに決まっている。

所詮、経営なんて人間同士のドラマに過ぎないのだから。

1.大前 研一「稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方」(小学館、2013年) Kindle 2.ダフ・マクドナルド「マッキンゼー」(ダイヤモンド社、2013年) P29 3.カレン・フェラン「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」(大和書房、2014年) Kindle 4.カレン・フェラン「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」(大和書房、2014年) Kindle 5.ヘンリー・ミンツバーグ「MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方」(日経BP社、2006年) P85 6.大前 研一「稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方」(小学館、2013年) Kindle 7.ダフ・マクドナルド「マッキンゼー」(ダイヤモンド社、2013年) P193 8.ダフ・マクドナルド「マッキンゼー」(ダイヤモンド社、2013年) P9 9.中村 和己「コンサルは会社の害毒である」(KADOKAWA/角川書店、2015年) Kindle 10.ヘンリー・ミンツバーグ「MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方」(日経BP社、2006年) P166 11.村上 和雄「アホは神の望み」(サンマーク出版、2011年) Kindle 12.塚越 寛「リストラなしの「年輪経営」: いい会社は「遠きをはかり」ゆっくり成長」(光文社、2014年) Kindle 13.週刊東洋経済 2016年4月9号 14.日下 公人・大塚 文雄・R・モース「見えない資産の大国・日本 中国、アメリカにはない強みとは」(祥伝社、2010年) P129 15.緒方 知行「鈴木敏文のセブン‐イレブン・ウェイ 日本から世界に広がるお客さま流経営」(朝日新聞出版、2013年) Kindle 16.舩井幸雄「未来への言霊: この世の答えはすでにある!」(徳間書店、2014年) P66 17.村上 和雄「人間 信仰 科学」(道友社、2016年) P243 18.天明茂「なぜ、うまくいっている会社の経営者はご先祖を大切にするのか」(致知出版社、2015年) P47 19.日下 公人・大塚 文雄・R・モース「見えない資産の大国・日本 中国、アメリカにはない強みとは」(祥伝社、2010年) P14 20.北尾 吉孝「出光佐三の日本人にかえれ」(あさ出版、2013年) P205 21.出光 佐三「人間尊重七十年」(春秋社、2016年) P40 22.日下 公人・大塚 文雄・R・モース「見えない資産の大国・日本 中国、アメリカにはない強みとは」(祥伝社、2010年) P44 23.こころを学ぶ ダライ・ラマ法王 仏教者と科学者の対話「ダライ・ラマ法王・村上 和雄・佐治 晴夫・横山 順一 ・米沢 富美子 ・柳沢 正史」(講談社、2013年) P2

その他の参考書籍

マイク・ローザー「トヨタのカタ 驚異の業績を支える思考と行動のルーティン」(日経BP社、2016年) エリザベス・イーダスハイム「マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー」(ダイヤモンド社、2007年) 山村 明義「GHQが洗脳できなかった日本人の「心」 アメリカの占領政策と必ず乗り越えられる日本」(ベストセラーズ、2016年) 村上 和雄「奇跡を呼ぶ100万回の祈り 」(ソフトバンククリエイティブ、2011年) 稲盛和夫「成功の要諦」(致知出版社、2014年) 酒井 崇男「『タレント』の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」(講談社、2015年)

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