November 13, 2016
スターバックスCEO「私たちはコーヒービジネスをしているのではない。人間ビジネスをしているのだ。」

(イラスト by リーディング&カンパニー)

不況が長く続いたり、テクノロジーが人間の仕事をどんどん奪っていくなかで、即戦力の人材や成果報酬を導入する企業が増え続けています。

人を採用して育てるよりも、サプライチェーンやITシステムに投資する方が効率が良いと考える経営者が増えているように思いますが、「人間ビジネス」を軸に考えるスターバックスの方針は明らかに違っています。

「私たちの企業はコーヒーを人間が提供しているのではない。”人間が” コーヒーというものを提供しているのだ。」
(スターバックスCEO)


↑スターバックスCEO「コーヒービジネスではなく、人間ビジネス。」(Flickr/Claire Gribbin)

2007年頃、スターバックスがウォール・ストリートの利益優先主義に飲み込まれそうになっていた時、スターバックスのCEOに復帰したハワード・シュルツさんは全米のスターバックス店舗をすべて閉めて、従業員をすべてニューオリンズに呼び集め、再度ビジョンの共有と教育を行いました。

店舗を全て閉じたことで失った利益は8億円とも言わていますが、このカンファレンスでハワードさんは社員と家族の期待を裏切って申し訳ないと述べ、涙を流したそうです。


↑店舗を閉めてことで失った利益は8億円とも言われている。

「リーダーになる人は精神的に弱い部分を持つことも大切だと思います。カンファレンスで謝罪した時、思わず涙が出てしまいました。リーダーにとって傷つきやすいことは透明性を表します。リーダーシップにおいて、透明性とは通貨と同じように信用を表すのではないでしょうか。もちろん毎日、自分の弱い部分を見せる必要はありませんが、時々、自分の心をありのままにオープンして、感情を共有することが本当に大切なのです。」(スターバックスCEO)

このカンファレンスを機にスターバックスは全社を挙げて危機に立ち向かい、わずか三年後には過去最高の業績を達成します。


↑リーダーでも時には感情をむき出しにすることが大切。

人を採用する際にも、多くの企業はその業界での経験や学歴などで人材を判断しますが、プロダクトやサービスではなく、「人」を中心に考えるスターバックスやザッポス、そしてサウスウエスト航空などは「人間味」を中心に人を採用することで、業績を圧倒的に伸ばしています。

サウスウエスト航空はスチュワーデスを採用する際も、業界のベテランよりも学校の先生や警察官などから採用することが多く、アマゾンに1000億円で買収されたザッポスは莫大な利益を上げることのできる人材を企業文化に合わないという理由で次々に不採用にしてきました。


↑仕事は教えられても、情熱は教えられない。(Flickr/Thomas Hawk)

最近、スターバックスは正社員であるないにかかわらず、週20時間以上働いている従業員に対して大学の学費をすべてサポートすると発表しました。

アメリカでは50%以上の大学生が金銭的な理由で大学を中退しており、スターバックス内のアンケートでも70%の従業員が大学の学位を習得したいと考えていることが分かりました。
CEOのハワードさんは次のように述べています。

「このプログラムは私たちのブランドや信用をより強くし、才能ある人がスターバックスに魅力を感じてくれたり、長く働いてくれるようになると思います。」

「ここ数年、アメリカン・ドリームの哲学が危機的な状態で、多くの人達が希望を失っている。これは上場企業としての責任なんだよ。」

スターバックスはこれ以外にもストックオプションや健康保険を従業員に提供しており、「見返りを求めない貢献」がスターバックス・ブランドを本当の意味で強くすると信じているようです。


↑企業としての責任は利益を出し続けることだけではない。
(Flickr/Peter Kaminski)

シリコンバレーの革命児としてYahooのCEOに就任したマリッサ・メイヤーさんは、「まず人、それからプロダクト、それからトラフィック、そして売上げへ。この連鎖反応が一番大切。」
と述べていますし、ビル・ゲイツ氏は今後20年という時間軸で考えた場合、人間力のみが競争力を持つ時代になると名言しています。

最近、スターバックスのロゴが「Starbucks Coffee」から「Starbucks」というテキストだけになり、本格的な人間ビジネスとして動き出しました。


↑ロゴから「Coffee」が消えて、本格的な人間ビジネスへ。

「まず最初に、私たちと顧客の間にある物理的な壁をすべて取り除きたいと考えています。そうすればお客さんのすべてが見えますから。」(スターバックスCEO)

恐らくスターバックスは大学の授業料や健康保険をサポートし従業員の不安を取り除くことで、顧客と同じ立場に立てる環境作りを意識しているのではないでしょうか。

スターバックスは「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」ということはよく知られていますが、都内家電量販店などに行くと商品を売ったり、ポイントカードを作らせたりするのに必死で、とても人間ビジネスをしているようには思えません。


↑スターバックスでは「いらしゃいませ」という言葉は使わない。(Flickr/wintersoul1)

コーヒーではなく、人間を中心に企業を創っていくと様々なところでビジネスが生まれます。

スターバックスはある時、音楽を流すことで顧客の感情が変化し、新たなる付加価値が加わることに気づきました。そこで社内で部署を立ち上げ、CDを発売したところ、なんとグラミー賞を受賞するほどの大ヒットになりました。

「コーヒーショップが8つのグラミー賞をとったんだ。しかもその中には年間を通し て一番売れたアルバムも含まれていた。コーヒーショップがだよ?信じられないだろ。」(スターバックスCEO)


↑コーヒーショップがグラミー賞を受賞したなんて聞いたことがない。(Flickr/Cyril Attias)

よくスターバックスはマーケティングが上手いと言われますが、実はマーケティングの予算はほとんどとっておらず、その分、従業員にかなりの金額を投資しています。

これだけコーヒーや音楽が売れても、スターバックスの広告は一切見たことがないのは、毎日世界中で何百万杯のコーヒーを提供する人たちの人間性がカップのロゴを通じて伝わり、勝手に宣伝していってくれているからではないでしょうか。


↑人に投資することで、ロゴが勝手に宣伝してくれる。

従来、「従業員への投資」と言えば、会社のお金でセミナーに行かせたり、MBA留学させたりすることで、投資した分の見返りを従業員から求めていました。

スターバックスはほぼ全社員の大学の授業料を負担していますが、もちろんその後スターバックスに残る必要もありませんし、スターバックスで働きながら好きなことを学んでくれれば、それが一番嬉しいと述べています。

機械が人間の仕事を奪っていくなかで、企業が「人間力」に投資しなければ次の時代の競争力を生み出すことはできません。でも見返りを求めるのはやめましょう。

恐らくそれが一番高いパフォーマンスを生み出すのですから。

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