ジョブズともにピクサーを創業したエド・キャットムルさんが、「クリエティビティー株式会社」という本を出版し、欧米で話題になっています。キャットムルさんは、「ピクサーの成功をズバリ一言で言うと何ですか?」と聞かれ次のように答えています。
「ピクサーの成功を一言で語るなら、自分たちが良いと思わないものは、決して世の中に出さないことだ。失敗は社内にしっかりと取っておく。」
ピクサーで働く世界トップレベルのクリエイターになると、2時間半の映画にほんの数秒間しか映るだけの宇宙船をデザインするために何週間もの時間をかけ、専門の数学者が数式を利用してアニメキャラクターに生命を吹き込んでいます。ピクサーには「創造」の遺伝子が根づいているのです。
↑自分たちが良いと思わないものは、絶対に外に出さない。
キャットムルさんはクリエティビティーの高い作品を創るためには、第三者からアドバイスが重要だと述べていますが、世界トップレベルのクリエイターは個人間の信頼がしっかりと存在しない限り、助言されたアドバイスを親身に受け止めようとしません。
「他人にアドバイスをする前に、まず個人間の信用を作らなければなりません。ピクサーはディズニーに買収されましたが、いくら私たちがディズニーの人たちにアドバイスをしたくても、ピクサーとディズニーの間には信用がありませんでした。まずその信用を築くために2年ほどの時間が必要だったのです。」
↑トップレベルのクリエイターは信用が無い人からのアドバイスは受け入れない。
ピクサーが「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」で夢を創る続けるなか、かつて世界の夢を創り続けた日本企業がどんどん衰退していっています。
ウォークマンの産みの親であり、2006年にソニーを退職した、辻野晃一郎さんは当時のことを次のように振り返っています。
「私はソニーをやめる直前まで、アップルに対抗するためのビジネスを構築しようと必死になっていました。ところがある役員から、「そんなことはやめてアップルに頭を下げてこい」と言われたんです。 そのとき思わず、「あなたにはプライドはないのですか」と聞き返しました。戻ってきた言葉は「プライドで会社が儲かるのか」。当時からすでにアップルの軍門に下るシナリオが進行していたということです。」
↑かつてジョブズが憧れたソニーは、アップルの「下請け」になり下がった。
昔はジョブズやビル・ゲイツも、特に用事がなくても、よくソニーに遊びに来ていたそうです。それぐらいソニーの創業者である盛田昭夫さんや井深大さんに憧れていて、それ以上にソニーはまだ世界にないものを創っていました。
「昔のソニーはとにかくワクワクするところでした。ドラえもんの道具みたいな技術がずらりと並んでいて、個々のチームが研究に取り組む。キャッシュアウトのことなんて考えていないし、他のチームとの垣根もなかった。」(あぁ、「僕らのソニー」が死んでいく)
↑当時のソニーは世界一ではなく、「世界初」だった。
実際、プライドで会社が儲かるのかは分かりません。ただピクサーの中には「創造」の遺伝子が組み込まれており、自分たちが納得しないものは絶対に世の中に出さないと、「トイ・ストーリー2」を上映9ヶ月前にまた一から作り直したそうです。
ジョブズもiPhone発売直前になってスクリーンをプラスチックからガラスに変更したそうですが、プライドで会社が儲かるかはまた別の問題として、イノベーションを起こし続ける企業は「絶対に譲れない何か」をしっかりと持っているように思います。多分、それを「プライド」と呼ぶのでしょう。
↑ピクサー:絶対に譲れない何かを持つクリエイターが集まる。
ジョブズはしっかりとした仕事をしてくれた人が請求したきた金額が安すぎたため、「この金額では安すぎる」と、自ら正当な金額を払うことを申し出ることがよくあったと聞いたことがありますが、僕はもっと安く、もっと早くと迫る人たちよりも、もっと値段が高く、もっと時間もかかっても構わないので、「絶対に譲れない何か」を持った人たちと仕事をしたいと思います。
本当に人を驚かすモノはそこから生まれるのですから。