May 9, 2015
オフィスに行かない生活「はじめは無視され、次に笑われ、それから争いになる。そして最後に君は勝つ。」

イラスト:リーディング&カンパニー

シリコンバレーの革命児で、Yahoo CEOでもあるマリッサ・メイヤーさんが、オフィスを離れて、遠距離で働くことを禁止したことで、インターネット時代の新しい働き方とも言える「リモート・ワーク(在宅勤務)」の未来ついて大きな議論が交わされ始めていますが、これは生産性や経営、そして企業文化という観点から、まだまだ激しい言い合いが続いていきそうです。


↑日本、アメリカ問わず、まだまだ大きな議論が行われる「リモート・ワーク」(Jay)

実際、世の中には100%良いことも、100%悪いことも存在せず、いきなり明日からYahooのように企業文化を意識した経営を意識しても上手くいかないでしょうし、リモート・ワークの代表格であるシカゴのソフトウェア会社「37シグナル」のように会社を完全にリモートで経営し、社員が毎日顔を会わせないスタイルに急にシフトしても、仕事の効率を落とすだけですが、大切なのは良いところを楽しみつつ、悪いところのダメージを減らしていくことで、上手くバランスを取る方法は意外と多くあるのかもしれません。


↑リモート・ワーク 「良いところを楽しんで、悪いところのダメージを減らす 」

滅多に従業員が顔を合わさない、完全な在宅勤務で会社を経営している37シグナルのCEO、ジェイソン・フリード氏は、「仕事に一番集中したいとき、どこに行きますか?」という質問を10年以上、様々な人にヒアリングし続け、ベランダやカフェ、そして飛行機の中など、場所はその人によってそれぞれ違いましたが、「会社のオフィス」と答える人はほぼゼロだったと述べています。


↑会社のオフィスで生産性が上がると考える人はほぼゼロ (tokyoform)

在宅勤務を禁止する経営者やマネージャーは、「自分の目の届かないところにいたら、みんなネットサーフィンばかりして、仕事をしなくなるのではないか」と考えますが、残念ながら会社にいても仕事に関係ないネットサーフィンは十分にできて、大手百貨店のJCペニーが4800人の従業員のインターネット接続状況を調査した結果、トラフィックのおよそ30%がYoutubeから来ていることが分かりました。


↑別に在宅勤務でなくても、仕事は十分にサボれる (Daniel Zedda)

実際、多くの企業が従業員を「子供」として扱っており、中学や高校では大人になるための教育を何年も受けますが、会社に就職しても同じように「子供」として扱われ、その人の時間や仕事、そしてアイディアなどが全く尊重されないため、多くの人が数年でどんどん仕事を辞めていってしまいます。

さらにクリエイティブな仕事をしようと思ったら、ある程度まとまった時間を取らなければ脳は仕事に没頭できず、仕事はレム睡眠と同じで、すぐ集中できるわけではなく、仕事が中断されるごとにまた最初からやり直しになってしまいますが、現代の職場は電話や会議、そしてお喋りなど、多くの「邪魔」に囲まれており、クリエイティブな仕事をする人にとっては、生産性が高い場所とは言えないのかもしれません。


↑仕事が中断されれば、「集中」はまた最初からやり直し (Kompania Piwowarska)

さらに通勤は肥満やストレスだけではなく、不眠や心臓病などのリスクも高まり、さらに離婚率まで上がることが科学的にも明らかになっていますが、例えば通勤に毎日45分かけている人は、1年で300時間〜400時間を通勤に使っていることになり、圧倒的な利益率を誇る、タスク管理アプリ「Basecamp」がちょうど400時間の工数を経て完成したことを考えると、通勤を減らすだけで、一体どれくらいのことができるのか、再度考えてみる必要があります。


↑Basecamp「400時間あったら、アプリ一つ作ることなど十分可能」(Basecamp)

在宅勤務は毎日顔を合わせない分、オフィスで働く以上に人とのつながりを大事に、Web上のアプリなどを最大限に利用して、良質のコミュニケーションを頻繁に取る必要がありますが、このコミュニケーションの「質」を保つためには、例外なく少数チームでメンバーを編成していなかければなりません。

アマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスはチームを作る際に、「ピザ2枚ルール」を設け、ピザ2枚でお腹を満たせるぐらいの人数がチームの人数として適正だと述べていますが、チームの人数が増えれば増えるほど、メンバーの効率が落ちていくことは、サンディエゴ大学のJennifer Mueller教授の研究でも明らかになっており、在宅勤務のチームを組むとなれば、さらに少数でチームを組む必要があります。


↑ピザ2枚でお腹が満たせる人数が、チームの適正人数 (Dan Farber)

よく世間話として、「会社の規模はどのくらいですか?」と聞かれ、大きな数を言えば言うほど、プロフェッショナルでパワフルだと思われ、会社が小さかったりすると、「えーと……いいですね」と気を遣った言葉で返してくれますが、iPhoneやMac Book Airなど、アップルの主要製品をデザインしているジョナサン・アイブのチームは、もう長い間、同じ15人のメンバーで活動しており、うぬぼれや自己満足以外に「大きさ」や「規模」に引き寄せられる理由が見当たりません。


↑チームは小さければ小さいほど、コミュニケーションの価値が上がって良い (Marco Paköeningrat)

ビジネス界で競争相手を打ち負かすためには、相手よりも一つ上をいかなければならないという決まり文句があり、相手が4つの特徴を持っていたら、あなたは5つ、相手が広告費に100万円つぎ込んだら、あなたは200万円、もし相手の従業員が100人なら、あなたの会社は200人というように、この考え方は冷戦時代のアメリカとソ連の軍拡競争と変わらず、行き着く先は莫大な資金と意欲の消耗以外、何もありません。


↑規模の拡大は資金と意欲を消耗させるだけ (James Vaughan)

ベンチャー企業が競争相手を打ち負かすためにしなければならないことは、相手より「少なく」であり、最近流行りのマウンテンバイクはギアが一つしかなく、ものによってはブレーキもない種類のものありますが、必要最低限のモノだけを残すことで、より軽くコストがかからず、そしてメンテナンスがあまり必要ないという利点が生まれてきます。


↑必要なものだけを残し、「より少なく」(Greg Mazu)

世の中の大企業の中には、驚くほど非効率なやり方で働きながらも、生き残っているケースが数多くありますが、イノベーションとは今までのやり方をぶち壊すためにあり、彼らが今までのやり方にこだわってくれる方が小さい企業にとっては勝ち目があるため、ありがたいのかもしれません。

実際、弊社リーディング&カンパニーも従業員は東京、大阪、シドニーにおり、ライターやイラストレイター、そしてアドバイザーなどのパートナーはヨーロッパに多くいますが、もし東京だけに場所をこだわっていたら、これだけ才能のある人たちと仕事をすることはできなかったでしょう。


↑弊社のイラストはすべて、スペインのイラストレーターに書いてもらっている

世界で最もイノベイティブな企業であるヴァージングループの創業者、リチャード・ブラウソンは次のように述べています。

「30年後、テクノロジーがさらに進化したとき、人びとは過去を振り返り、なぜオフィスなんてものがあったのかと不思議に思うだろう。」


↑仕事に支障がないのであれば、誰もが好きなところで働けばいい (Jarle Naustvik)

新しい働き方が受け入れられやすいアメリカでさえ、まだまだ在宅勤務は主流になっておらず、年々、議論はヒートアップしてきていることを考えると、日本でも在宅勤務が受け入れられるには、まだまだ時間がかかることでしょう。

ガンジーは変化のプロセスについて、次のように述べています。

「はじめは無視され、次に笑われ、それから争いになる。そして最後に君は勝つ。」


↑はじめは無視され、次に笑われる。

もちろん、グーグルやヤフーで働く才能ある人たちを、オフィスに押し込める経営が間違っているわけではありませんし、彼らのやり方が時代に合ってなかったとしても、グーグルやヤフーが世界的にイノベイティブな企業であることには変わりありません。

しかし、あなたの会社がまだ小規模なのであれば、豪華なオフィスを作ることは不可能でしょうし、わざわざあなたの街に引越してきてくれる優秀な人も少ないのではないでしょうか。

まだ、リモート・ワーク(在宅勤務)は始まったばかりで、チャット・ルームをオフィスにすることは、不便なことも多いですが、やり方一つで弱者が強者に立ち向かう術はいくらでもあるようです。

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