May 24, 2015
広告代理店、マーケターの皆さん、あなたのお母さんの費用対効果は一体どれくらいでしょうか。

21世紀に入ろうとする直前の西暦2000年、カリフォルニア大学バークレー校のピーター・ライマンとハル・R・バリアンは、世界中に存在する情報の量を計算しようと考え、有史以来1999年までに世界でストックされた情報をすべてデジタル化すると、その量は2〜3EB強(エクサバイト)になるということを突き止めました。

これは紙やCDなどはもちろんのこと、医療用のX線写真や各種サーバーの情報などを全て含めて、割り出した数字らしく、2〜3EBというデータ量は、1TB(テラバイト)のハードディスクにデータを移行すると、200万個〜300万個になるそうで、人類数千年の記録がハードディスク300万個分と考えて、多いと思うか少ないと思うかは、人それぞれなのではないでしょうか。


↑人類が数千年間に生み出したデータはハードディスク300万個分。

しかし、グーグル元CEOのエリック・シュミットによれば、人類が生まれてから2003年までに作られたデータ量と同じ量のコンテンツが、現在48時間で作られており、21世紀に入って十数年しか経っていないにも関わらず、十年前と比べて情報量は何百倍、何千倍にも増え、明らかに情報の供給量と消費量のバランスが取れていません。

2013年のグーグルの報告によれば、「グーグル・アドワーズ」のクリック率は15%落ちており、半額クーポンをどれだけ送りつけてもメールを開いてもらうことができず、フェイスブックにも広告が乱雑し始めている中で、9割以上の企業が、短期的な100メートル走を何度も繰り返し、本当に価値を生み出す「マラソン的思考」をどんどん忘れてしまっているように感じます。


↑グーグル・アドワーズのクリック率も少しずつ低下。(Photo:iStock)

実際、これはWebマーケティング業界の「秘密」なのかもしれませんが、どんなに新しい◯◯マーケティングが生まれようが、InstagramやPinterestなど新しいプラットフォームが登場しようが、5年以内に広告代理店とWebコンサルタントと呼ばれる人たちにメチャクチャにされてしまうため、同じやり方を何年も続けることはできません。

例えば、インターネットが一般の人に本格的に使われ始めた1995年当時、Emailマーケティングの開封率は90%以上ありましたが、現在ではどれだけ半額のクーポンを送ろうが、無料サンプルのオファーを出そうが、メールはスパム扱いされ、当時は10%、20%あったバナー広告のクリック率は、0.001%を切っていることも珍しくありません。


↑◯◯マーケティングも新しいプラットフォームも5年以内にメチャクチャにされる。

メールからバナー広告、SEO、そしてリスティング広告ときて、現在のトレンドは、何と言ってもソーシャル・メディアで、企業マーケターの人達は常に、「ソーシャル・メディアの費用対効果(ROI)」について考えていますが、分析の仕方や考え方が明らかに間違った方に進んでいるように思います。

僕も仕事柄、「ソーシャル・メディアの費用対効果をどのように測定するんですか?」と聞かれると、少し笑ってしまうのですが、アメリカのSNSマーケター、ゲイリー・ヴェイナチャックが、かつてこんなことを言っていました。

「あなたのお母さんの費用対効果(ROI)は何でしょう?私のお母さんの費用対効果は“すべて”です。私の母親が、私を完璧に私を育ててくれ、自信をつけてくれたおかげで、私は現在ここに立ってビジネスをすることができるのです。」


↑あなたは自分の母親の費用対効果(ROI)を出せるでしょうか。

母親が毎日ご飯を作ってくれたり、幼稚園の送り迎えをしてくれたことは、現在稼いでいる給料や仕事の質に必ず影響を与えていますが、それをパワーポイントにまとめて、「1998年3月24日、母親が”自信を持って頑張れ!”と言ってくれたおかげで、今月の給料が10万円増えました。」と説明することはできません。

つまりソーシャル・メディアも母親と同じで、プライスレス(値段をつけられない)という意味ですが、ファンが何万人、フォロワーが何万人いるから、何万人にリーチできて、おそらくその中の何百人が商品を買うだろうと、くだらないエクセルやパワーポイントを作る暇があったら、自分が母親になったつもりで、ユーザー(子供)に価値のあるものを提供していく必要があります。


↑母親=Priceless /SNSのファン=Priceless.

オンライン・ビジネスのインフラができる前にビジネスを始めた起業家は、ブランドを構築するまで莫大な資本がかかりましたが、現代ではものすごい速さで口コミが広がるため、ブランドを築くのにかかる時間は、ものすごく短くなり、ビジネスを始めるリスクも圧倒的に低くなりました。

今後、多くの企業がWeb上でビジネスを始めることによって、「ブランド競争」が始まることが予想されますが、多くの企業がやらなければいけないことは、ユーザーを「獲得する」ことではなく、ユーザーを「留めておく」ことで、別の表現で例えれば、「狩り」をするのではなく、「農業」をするための畑を耕さなければなりません。


↑Webビジネスは「狩り」ではなく、まず「耕す」ところから。

多くの人がFacebookはもう終わりだとか言いますが、FacebookやTwitter、そしてTumblrやPinterestなどの「プラットフォーム」の価値は別として、オンライン・ビジネスの文化的な大きなシフトはまだ始まったばかりで、現在、マーケターやWebコンサルタントと呼ばれる人たちが話している内容は、今から10年前の世界では存在すらしていませんでした。

ソーシャル・メディアが存在していなかった時代、長崎で食べたカステラが美味しかったからと言って、友達10人に電話して、「このカステラが超美味しいー!」と言った人はいませんでしたが、今では誰でも当たり前のようにSNSでシェアし、Twitterの共同創業者ビズ・ストーンがTwitterを初めて家族に見せた時、「誰が自分の食べた朝食をWeb上でアップするんだい?」と笑われたそうです。


↑10年前はまだ存在すらしていなかった。終わるどころか、まだ始まったばかり。

インターネットが広がり始めた頃、多くの人がクレジットカードや実名をWeb上に登録しないように警告していましたが、その状況はあっという間に変わりましたし、現在ではグーグルの検索エンジンで上位に表示されるよりも、Facebookのフィード・アルゴリズムで上位に表示される方が、マーケティングの価値は高くなるなど、インターネット界のスピードはとどまるところを知りません。

つまり今後は、ユーザーの口コミが「通貨の価値」のようになることを意味しますが、国民の誰もが知っている大企業でさえ、ソーシャル・メディアを高校生と同レベル知識でしか使っておらず、ブランドを構築するための「真の付加価値」を提供できている企業はほとんどありません。


↑ユーザーの口コミは「通貨の価値」と変わらない。

多くのマーケターの人たちが、ソーシャル・メディアはコンテンツを拡散するツールだと考えますが、本来の使い方は、ユーザーの声を「ヒアリング」するものであり、あなたが本物のマーケターなのであれば、毎日、Twitter.com/searchに行って、自分の会社が世の中でどのように言われているかをチェックする必要があります。

また、「より多くの情報を握りたければ、よく多くの情報を発信しなければならない」と言われますが、新聞社に多くの情報が集まってくるのは、毎日、新聞を発行し、情報を配信しているからで、日々情報を配信していかなければ、ユーザーがあなたの会社について、つぶやいてくれることはまずないと考えた方がよいのかもしれません。


↑Twitter.com/searchは現在インターネット上で一番セクシーな場所。

もちろん、「情報を発信する」というのは、「◯◯誌に掲載されました!」、「今日は東京ビックサイトでブースを出しています!」という、ただ事実を伝えるものや、大して価値のない情報に無理やり付加価値をつけたものではなく、長期的な「思考」をベースにしていかなければ、誰も共感を持ってくれません。

例えば、料理人がブログを開設し、人気が出てくるのは、レシピを公開したからでも、アクセス数を上げる努力をしたからでもなく、長い間、料理に関して「思考」を重ねてきた結果、多くの人に興味を持ってもらえるレシピを作ることができたからで、ソーシャル・メディアやブログはそれを伝えるための窓口にしか過ぎません。


↑ブログで人気が出るのは、長期的に「思考」を繰り返してきたから。

実際、アイディアも情報も大して価値のあるものではなく、この世で一番価値があることは、「Execution=実行すること」で、残念ながらほとんど企業が、不況になればなるほど、長期的に価値をもたらすことに興味を示さなくなります。

腹筋を割るためには、トレーナーにアドバイスをもらったり、他人がトレーニングをしているのを見ているだけでなく、自分で筋肉を動かして、「腹筋」をしなければなりません。

誰でも、低リスク、低コストで始められるWebメディアだからこそ、従来より何倍もの「腹筋」が必要なことは言うまでもありませんが。

/ROI_OF_MOTHER