AirbnbのCEO兼共同創業者のブライアン・チェスキーさんによれば、2014年のブラジル・ワールドカップで、ブラジルに訪れた人の5人に1人はホテルではなく、Airbnbを使って地元の人の家に泊まっていたそうです。チェスキーは次のように述べています。
「ブラジル政府が問い合わせてきたんだ。50年に1回のイベントで、巨額のお金をかけてホテルを建設するのは、明らかに馬鹿げているからね。ある調査によれば、アメリカ人はパワードリルを生涯で13分しか使わないらしいのですが、アメリカ国内には8000万個のパワードリルが存在しているそうです。これはどういうことでしょうか?近所の人のほとんどがパワードリルを持っているのですから、共有すればわざわざ購入しなくても済むはずです。」
↑ブラジルワールドカップでは5人に1人はAirbnbを使っていた。(Alexandre Breveglieri)
Airbnbの創業者であるチェスキーさんがAirbnbのコンセプトを祖父に話すと、それは至って普通のことだと言ってくれたそうですが、自分の両親は外国に行ってあかの他人の家に泊まることなど考えられないと、なかなか理解をしてくれなかったそうです。
実際、私たちの両親の世代は、旅行と言えばホテルに泊まるのが当たり前ですが、1950年代、旅行と言えば農場や小屋を泊まり歩くことは珍しいことではありませんでした。
↑キューバの革命家、ゲバラも南米の民家や小屋を渡り歩いて旅をした。(tardycritic)
そもそも、産業革命が起きるまでは、ほとんどの人々は小さな集落で生活していて、村人の全員が「小さな起業家」でした。
しかし、産業革命が起き、モノやサービスが大量生産される時代に突入すると、工場がどんどん増え、街が大きくなっていく過程で、人々はだんだん近所の人を信用しなくなっていき、世の中から「共有」という概念が消えてしまいました。
↑そもそも、産業革命以前は村の全員が「小さな起業家」であった。(wikipedia)
だが、ちょっと考えてみて下さい。大量生産によってモノが世の中に溢れ、その代償として「信用」が失われたことで、私たちは幸せになったでしょうか?
経済学者のチャレード・レイヤード氏の調査によれば、1950年以来、一人あたりの収入と個人消費は2倍以上になっているにも関わらず、「とても幸せだ」と答えるアメリカ人とイギリス人は、1957年をピークに頭打ちになっています。
↑収入と個人消費が増えると、幸せと感じる人が減るという事実。(Jenna Carver)
さらに20世紀の間に、アメリカ人の寿命は平均で30年以上延びましたが、冷蔵庫、トースター、洗濯機といった日常的な消費財の寿命は、過去50年で3年〜7年縮まっており、2004年にはアメリカとイギリスで、一人あたりの平均テレビ保有数が世帯人数を上回り、欧米の家庭では平均世帯人数が2.55人に対して、テレビが3台存在しています。
↑一人のひとが同時に2台のテレビを見ることはないのに、必要以上のテレビが家の中にあるのはなぜだろう。(Paul Stevenson)
アメリカ人は消費を加速させるクレジットカードを1人平均4枚持っており、香港科学技術大学でマーケティングを教えるディリップ・ソマン教授の調査によれば、大学の書店で本を購入した後、41名の学生にその正確な金額を尋ねたところ、クレジットカードで支払った回答者のなかで、金額を思い出せたのはわずか35%でした。
実際に、脳内画像を見てみると、依存性や否定的な感情に関係があるとされる脳皮質の活動が、カード支払いの時は現金払いに比べて低下するらしく、カーネギーメロン大学のジョージ・ローウェンスタイン氏は、「クレジットカードが、脳の支払いの苦痛に対して麻痺させる。」と述べています。
↑クレジットカードを使って、その後、支払い金額を思い出せたのはたった35%(John Lambert Pearson)
多くの人が本当の人生の価値は、その人の財布の中身でも着ている服でもないことに気づいているはずですが、広告やマーケティング、そして間違った価値観に踊らされて、いらないモノを買うために好きでもない仕事をし続ける人は後を経ちません。
しかし、その人間の勝手な消費活動によって、地球が悲鳴を上げ、人類が何万年も守り続けてきた資源を私たちはたった150年ほどで使い切ろうとしていることも事実です。
↑現在の消費が続けば、100年後地球はない。(michael_swan)
人類の消費に地球が耐えられなくなることを想定すれば、1日の22時間は駐車場に止まっている車、生涯13分しか使わないドリル、そして滅多に使わない寝室など、共有できるものはどんどん共有していく必要があります。
アメリカの心理学者マイケル・トマセロ氏によれば、人間は生まれつき協調性と思いやりを持った生き物で、生後14ヶ月の赤ちゃんは、大人(それが知らない大人でも)がドアを開けようとしても、両手がふさがっているのを見ると、すぐにそれを手伝おうとしますが、3歳ぐらいになると、文化によって作られた「社会規範」に従うようになり、同じ集団のメンバーにどう見られるかを気にして、協力したり、しなかったりするようになるそうです。
↑人間は生まれつき協調性のある生き物。思いやりや協調性は親から学ぶものではない。(Jeremy SALMON)
インターネットが普及する以前は、あげたい人と欲しい人を引き合わせたり、同じような興味を持っている人たちを繋げるには、高い取引コストがかかっため、モノを共有することは面倒で不便なことでした。
しかし、インターネットが広がり、ソーシャルメディアによって、Web上の人が特定されたことで、全員が「小さな起業家」になり、コミュニティーがどんどん小さくなることで、私たちは産業革命以前の生活に戻ろうとしているのかもしれません。
↑全員が「小さな起業家」になることで、生活は産業革命以前の「小さな村」に戻っていく。(Strelka Institute)
AirbnbのCEOブライアン・チェスキーさんは、次のように述べています。
「これから街は”コミュニティー”に戻っていく。本当の意味での”村”という意味だ。すべてが小さくなっていき、大きなチェーンレストランはなくなるだろう。その代わりににファーマーズ・マーケットや小さなレストランなどがどんどん増えていく。そして、レストランは人々のリビングルームになることでしょう。でも手術なんかはあかの他人に任せない方がいいと思うけどね。(笑)」
↑Airbnb CEO 「あらゆる仕事が個人の手に移っていき、”街”は”村”に戻っていく。」(Ken Yeung)
「フラット化する世界」などで知られるベストセラー作家トーマス・フリードマンは、「歴史的なことの最中にいる時には、その重大さに気づかないものだ。」と述べていましたが、すでに失業率30%を超えているスペインでは少しずつ時代が動き始めています。
スペインで暮らす高城剛さんはバルセロナの一番儲かっている観光産業は、路上で様々な芸をして、道行く人たちからお金をもらうストリート・パフォーマーだと述べており、大企業や組織という環境を抜け出して、もっと人間らしく「共存」を求めて、生活を送る人たちが増えてきているのではないでしょうか。
↑バルセロナの一番儲かっている観光産業はストリート・パフォーマー(Dominik Morbitzer)
社会が重大な危機に直面した時、みんなにとって良いことをしようとする人たちが出てきますが、最近の若者は高給やぜいたくを投げ捨てて、理想郷を作ろうという善人ではありません。
大量消費時代の反動なのかは分かりませんが、最近の若者はバブル世代の親が持つ代表的な価値観から離れて、祖父母の世代、つまり戦争世代の価値観に近づこうとしているのではないでしょうか。
もしかすると、消費を好まない今の若者を「草食系」と笑う大人たちは、新しい時代が見えていない時代遅れの人たちなのかもしれません。
(Eye Catch Pic)