May 6, 2015
結局、大事なものは全部タダ「本は買えるが、知識は買えない。家は買えるが、家庭は買えない」

「アベノミクス」という言葉が作られて数年になりますが、いよいよ日本解体に向けて安倍首相の動きが本格化し始めました。

バブル崩壊後の「失われた20年=自分たちの価値観を見失った20年」を経て、現在、「失われた50年」のちょうど入り口に立っており、戦後大きな成功を収めた「日本式システム」を新しい形にシフトさせなければ、どんどん疲労し、日本がかつてのように世界から尊敬を集めることは二度とありません。

世界的に有名な投資家、ジム・ロジャーズは安倍首相について、日本を破綻させた人物として歴史に名を残すことになると述べていますが、このまま行けば、20年〜30年後から現在を振り返った時、「あの頃(2015年)がすべての始まりだったんだな」と思う日が来てしまうのではないでしょうか。


↑安倍首相が日本解体に向けて、本格的に動き出した (CSIS)

実際、アベノミクスを経て株価などが上がってきているため、安倍政権は何か特別なことをやっているように見えますが、不景気時に金融を緩和して、公共事業などに財政投資することは、これまで日本政府や世界中の政府が当たり前にやってきていることであって、何ひとつ斬新で新鮮味のあることではありません。


↑株価が上がったところで、国民の生活は一切良くならない (Stéfan)

確かに日本はかつて、「土建国家」と呼ばれ、土木、建築関係の事業に多くの税金が使われてきたため、土木、建築関係の公共工事はある程度、景気を刺激するのかもしれませんが、21世紀に入って15年も経とうとしているのに、私たちの税金が投入される場所が「土木、建築」で本当に良いのか、税金を払っている国民として本気で考える時期に差し掛かっています。

短期的に見れば、土木、建築に投資しようが、医療、ITに投資しようが、その業種の人たちがすぐお金を使ってしまうため意味がありませんが、もし本当に土木工事が日本の成長の糧になるのであれば、安倍首相はその理由を国民に説明する義務があるのではないでしょうか。


↑日本の未来への投資が本当に「土木、建築」で良いのか (Michael Miller)

さらに、安倍総理はサラリーマンの働き方・生き方を根本的に変える、「高度プロフェッショナル制度」を導入しようとしており、この制度を簡単に説明すると、管理職を除く一定のホワイトカラー労働者を対象に、法律で定められている休憩時間、深夜労働、日曜・祝日労働などに関する労働規制の適用を外そうとするもので、そうなれば、「時間外」という概念がなくなるため、残業代がすべて消滅することになります。


↑2016年、残業代がゼロになる (Shinichi Higashi)

実際、「高度プロフェッショナル制度」は残業代がなくなるというだけではなく、今まで以上に長時間労働を強制されても、誰も文句が言えなくなるということであり、言い方を変えれば、経営者に労働時間の「支配権」を完全に委ねることを意味しています。

安倍首相がこのような制度を推し進める理由は、成果主義制度を基本とする、グローバル企業を含む企業経営を支援するためで、新たな外資系企業を呼び込むセールスポイントにもなりますが、日本社会の格差は、自分の食費すら自分で稼ぐことができない、格差大国アメリカ以上の格差になることが予想されます。


↑安倍首相が進めようとしている方針は、日本の格差社会を一気に推し進める (Kat N.L.M.)

バブル崩壊後、日本企業は新たな経済成長を見込んで、右肩上がりの賃金制度を見直し、成果主義や目標管理制度などを一気に導入しましたが、100年以上、アメリカで使われてきた制度をいきなり日本の文化に導入しても上手くいくはずがなく、感情を持つ人間をコストで管理することで、うつ病にかかる従業員が続出したり、いったい何が自社の軸になっているのかすら分からない企業が増えていきました。


↑安倍首相の法案はさらに、日本社会を混乱させる (Reuben Stanton)

ヨーロッパの人たちは、日本はアメリカに原爆を落とされたのに、なぜアメリカの言う事を聞くのかと不思議がるそうですが、日本の政治家は国民のほうを見ず、アメリカの方ばかり見ていますし、大企業は政府に圧力をかけることで税の負担を企業から一般庶民にシフトさせようとしています。

実際、日本経団連は法人税の引き下げ、消費税率の大幅引き上げを主張しています。


↑国民ではなく、アメリカの方ばかり見ている政治家 (Speaker John Boehner)

安部政権は円安で好景気を演出して、安倍首相と自民党のおかげで景気がよくなったと国民が浮かれている上に、日本をどんどん欧米化させようとしていますが、明確なビジョンがなく、外側だけきれいなメッキで固められたハリボテが、長期的に日本の経済を支えていくことは絶対にありません。

かつて、戦後の日本は通産省を発足して、貿易立国としてビジョンを明確に打ち出し、どの産業を支援し、どの産業を切り捨てるかを決めていましたが、これが良いか悪いかは別として、このように大きなビジョンを描いて、確実に実行していく、これが本当の政策というものではないでしょうか。


↑通産省を発足し、貿易立国として明確なビジョンを描いた白洲二郎 (wingmark)

シンガポール再建の父と呼ばれたリー・クアンユーは、「国民を食わせていくことが、政治家の究極の責任だ」と述べましたが、シンガポールの街に行くと、タクシーの運転手であろうと、飲食店の店員であろうと、「今のシンガポールの国家戦略はこれです」とはっきり答えることができるそうです。

しばしば、トップダウンの政策が批判されるシンガポールですが、「ITの次はこれだ!」とばかり、金融やバイオ、そして医療サービスなどの分野で国家戦略を立て、国民全員で実行しているところがシンガポールの成功要因のひとつなのではないでしょうか。


↑シンガポール「誰であろうと、国家の戦略をしっかりと理解している。」(Kevin Utting)

人間が赤ん坊から少年期、そして青年期を経て大人になるように、「成長」とはある程度までは時間をかけて、大きくなりますが、無限に成長し続けることはなく、ある一定の時点で成長は必ず止まります。

そういった意味では、日本経済はもう大人になったのかもしれません。これ以上経済を大きくしようとして、金融や株式市場を無理やり活性化させようとする行為自体が、実体経済を大きく痛めつけていることに、私たちは早く気づく必要があるのではないでしょうか。


↑無限に成長する生き物も、経済も存在しない (Pipat T.)

シンガポールの国家アドバイザーを務めた大前研一さんは、人口が減り続ける日本は、もはやボリューム国家になることはできず、スイスのような小規模ながら人材の付加価値と生産性が高く、世界の繁栄を取り込むのが非常に上手い「クオリティー国家」を目指すべきだと指摘しています。

日本の経済界では、「労働時間規制が厳しいため、日本人の自由な働き方が阻害されている。それがホワイトカラーの生産性低下につながっている」と言われていますが、スイスでは1日に残業できる時間は2時間まで、有給休暇はすべての労働者に年に最低4週間、そのうち2週間は連続して取得することが義務づけられるなど、日本よりもはるかに厳しい労働規制があるのにも関わらず、スイスは世界一高い給料水準をキープしていることを考えると、日本の労働時間規制が厳しいから生産性が低いという根拠はなく、むしろもっと厳しくしていく必要があるのではないでしょうか。


↑本物のクオリティー国家、スイス (Zürich Tourismus)

今の日本から到底想像できないかもしれませんが、かつての日本はそのチームワークの良さと勤勉さで、世界のモノづくり大国として、世界中から注目されていました。

そうした日本人の勤勉さが失われたのはバブル以降のことで、本業を忘れ、財テクや不動産投資に走る企業がもてはやされるなかで、ヨーロッパのブラントを買い漁る日本人がどんどん増えていきましたが、逆を言えば、バブル以前の日本人は無駄なお金など使わなくても、人生を楽しむ知恵、生活をやりくりする工夫をしっかりと身につけていたのです。


↑従来の日本は、お金なんてなくても人生を楽しむ知恵をしっかり身につけていた (A.Davey)

金子由紀子さんの「暮らしのさじ加減」という本の中に、次のような言葉があります。

「ベッドは買えるが、眠りは買えない。本は買えるが、知識は買えない。食べ物は買えるが、食欲は買えない。家は買えるが、家庭は買えない。」

結局、大事なものは全部タダ。確かにそうなのかもしれません。


↑結局大事なものは全部タダ (Ben Amstutz)

ジョン・F・ケネディの実弟、ロバート・ケネディも次のように述べています。

「GDPの数字には、子たちの健康や彼らが学ぶ教育の質はおろか、遊ぶ楽しさも、詩の美しさも、夫婦の固いきずなも含まれていません。またGDPでは、演説のセンスや議員の誠実さを測ることもできなければ、私たちの機知や勇気、知恵や知識を測ることもできません。確かにGDPで測れるものはたくさんあります。ただし、そこに人生を生きる価値を与えるものは含まれないのです。」


↑経済規模で本当に大切なものは測れない (San Francisco Public Library)

確かに、まともに働いていないのに残業代をもらっている人はいるのかもしれませんが、それは根本的な問題を知りながら、それを見逃している企業の人事制度の問題であり、生産性を上げようと国家全体で成果主義制度にシフトするのはあまりにも危険すぎますし、さらにもっと怖いのは、一度このような制度が広がってしまうと元に戻せなくなってしまいます。

人が企業という枠を超えてコラボレーションし、プロジェクト単位で仕事が行われていくことが、今後当たり前になっていくのかもしれませんが、人間にとって一番重要なのは雇用の安定であり、雇用が安定しなければ家族の幸せもありませんが、それを根こそぎ壊そうとしているのが現在の安倍政権なのです。


↑雇用の安定なくして、人生の幸せはあり得ない (Matt)

よく「世の中の空気」を支配するものが、日本を支配すると言われますが、日本停滞の原因はリーダーたちの対米従属や拝金主義だけでなく、マスメディアやテレビなどの空気づくりによって、思考が停止させられている私たち一人一人にあるのかもしれません。

キューバ革命を起こしたチェ・ゲバラは、もともとキューバ人でも何でもなく、アルゼンチンの医師でしたが、自分の強い意志で裕福な生活を捨て、キューバに乗り込み、革命を起こして、軍事政権を倒しました。


↑ゲバラ「他人の利益を優先しようとする強い意志」(biography)

ゲバラのように、自分とは全く関係のない民衆のために闘おうとした、純粋な利他主義が多くの民衆を動かしたと言われていますが、現在の日本も同じような状況にあり、損得勘定を一旦抜きで行動できる人が、この日本を動かしていくのでしょう。

残念ながら日本はもう「改革」では変わりません。「革命」でなければ。

参考:「2016年:残業がゼロになる」、「アベノミクスを超えて」、「30代はアニキ力」、「年収6割でも週休4日という生き方」、「クオリティ国家という戦略」

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/SOS_JAPAN