なぜジョブズやキング牧師、そしてライト兄弟が歴史に残るような功績を上げることができたのか?多くのマーケティングの専門家はアップルのマーケティングが優れていると指摘し、アップルは「ライフスタイルを売っている」と述べるかもしれません。
ではなぜ、マーケティングの専門家たちはアップルの成功を他の企業で再現できないのでしょうか。専門家からアドバイスをもらった9割の企業は次のようにマーケティングします。
「(What)私たちは素晴らしいコンピューターを作ります。」
「(How)それは美しいデザインで、簡単に使えて、ユーザーフレンドリーです。」
「だから、あなたはこの製品を買うべきです。」
それに引き換えアップルは全く逆の伝え方をします。
(Picture by mobcompany)
「(Why)我々のすることすべてが世界を変えると信じており、異なった考え方に価値があると我々は信じています。」
「(How)我々が世界を変える手段は美しくデザインされ、簡単に使えてユーザーフレンドリーです。」
(Picture by iStock)
「(What)こうして素晴らしいコンピューターが出来上がりました。」
では、アップル信者になぜこれほどまでアップル製品に夢中になるかを聞いてみよう。
「まぁ、僕も自分のやることのすべてが世界を変えると信じているし、僕という人間を理解してもらえるような人々やブランドに囲まれ過ごすのが重要なんだよ」と答える人はまず居ません。しかし、生物学的には、あなたがアップル製品を購入する理由はこれが正しいのです。
「Whyからはじめよ!」の著者、サイモン氏は次のように述べています。
↑アップル製品を購入する理由は生物学的に十分証明できる。
「最初に自分がしているWhatの部分を説明しようとする。すると事実や特徴など、複雑で大量な情報を相手に理解してもらうことができるが、行動を起こすよう相手を駆り立てることはできない。」
「感情をつかさどる脳の部分に、言語能力はない。自分の感情を言葉で説明しようとすると、よく言葉に詰まるのは、脳の部位の能力がそれぞれ異なるからだ。」
ほとんどの人がなぜ彼/彼女と結婚したのですか?という質問に対して明確な答えを出すことができません。
「彼女は愉快だし、頭もいいから」と無理矢理、論理的な説明をしようとしますが、愉快な女性や頭のいい女性なら世界に限りないほどいます。
アップル製品を購入する時も同じことで、「このユーザーインターフェースだから。シンプルだから。デザインがいいから」と具体的な理由をつけますが、あなたがアップル製品を購入する本当の理由はアップルのwhyに感情移入しているからなのです。
↑なぜこの人を好きになったのかを明確に述べることはできない。
アメリカの人種差別の歴史を大きく変えたキング牧師は、全国民の心を動かした演説で、「I have a plan (私には提案がある)」とは言わず、「I have a dream (私には夢がある)」と言いました。
ビルゲイツの後任でCEOになったスティーブ・バルマー氏 は「マイクロソフトを愛している」と名言し、観衆の前に立って熱弁しながら、ステージを走り回ります。
その瞬間、従業員は熱狂するかもしれませんが、そのモチベーションを翌日、翌週まで保つことができるかは疑問です。
↑「私には事業計画は無いが、夢がある。」(Wikipedia) (CC)
ビルゲイツは内気でおどおどしていますが、彼が口をひらくと、人々は息を殺して耳を傾け、彼の言ったことを数週間、数ヶ月間、そして数年間、胸のうちにおさめておきます。
ビルゲイツがマイクロソフトを去るまで、彼はマイクロソフトの「Why」の分身でした。彼を見ると、社員は毎朝出社する理由を思い出したと言います。
↑ゲイツ、ジョブズは「Why」の分身だった。(Joi Ito) (CC)
差別化や戦略的なマーケティングを考えて、短期的に売上げを作ることはできるかもしれませんが、「why」の無い企業と顧客が長期的な関係を築くことは絶対にありえません。
だから今度、「あなたのライバルは?」と聞かれたら、「ライバルなんていない」と答えましょう。
↑「ライバルなんかいないよ。だって私はwhyのために働くからね。」(Gilberto Cardenas) (CC)
今度だれかに「どの点で、あなたはライバルより優れているのか?」と尋ねられたら、「あらゆる点で、彼らより優れているところはない」と応じましょう。「それなら、どうしてあなたと取引する必要があるのですか?」と聞かれた自信をもってこう答えましょう。
「私たちが今している仕事は、半年前に私たちがしていた仕事よりも良いからです。半年後には、今の私たちよりずっと良い仕事をしているでしょう。私たちは、出社するwhyを明確に持っているからこそ、毎朝目覚めます。私たちの目標は、私たちが信じていることを信じてくれる顧客を見つけることです。」
↑whyが明確になれば一万時間なんてあっという間だよ。
値段を下げたり、給料を上げたりすることは一瞬でできますが、「Why= なぜそれをするのか」を理解してもらうことはそんな簡単なことではありません。
ただ一つ言えることは、「why」を顧客と社員の両方に明確に伝えた企業だけが歴史を動かしてきたことは、紛れもない事実なのです。
※こちらの記事の内容は、サイモン・シネックさんの「WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う」という本を参考にしました。マーケターの方にとっても非常に参考になる本ですので、是非読んでみて下さい。
(1)サイモン・シネック「WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う」日本経済新聞出版社、2012年 P251