March 14, 2015
ジョブズ「物語は王様。アップルの製品は10年で飽きられるが、素晴らしいストーリーは100年以上生き続ける。」

(イラスト by リーディング&カンパニー)

野球、バスケットボール、テニス、そして陸上など、どんなスポーツにも言えることですが、単純に身体能力の差だけで考えれば、多くのスポーツで日本人は圧倒的に不利であり、日本人が世界レベルでまともに戦えるスポーツはそれほど多くありません。

ソーシャル・メディアサイト、リンクトインの調査によれば、2011年末までにユーザーが自分自身を表現するのに最も頻繁に使用した言葉は、「クリエイティブ」という言葉だったそうですが、最近では企画から企業理念まで「クリエイティブ」という言葉が独り歩きしていて、それを生み出すまでのプロセスがあまり評価されていないような気がします。

スティーブ ・ジョブズが買収し、世界でも最もクリエイティブな企業の一つであるピクサー社は、「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ ニモ」などがヒットし、現在も巨額な利益を上げるモンスター企業ですが、創業当初はとにかく赤字で、5000万ドルという個人資金を投じていたジョブズも半分諦めている状態だったと言います。


↑ジョブズも半分諦めてかけていた。

ピクサーを買収したジョブズは、コンピューター・グラフィックの世界もPCと同じように、まずは少数の初期利用者の手にわたり、その後、巨大な主流市場に進出するはずだと考えていましたが、現実は全く予測通りには行かず、赤字は積もる一方で、あの大ヒット作「トイ・ストーリー」の制作中でさえも、ピクサーをオラクルやマイクロソフトに売却しようと計画していたそうです。

しかし、現在ピクサー・アニメーション・スタジオのCEOであるエド・キャットムル率いるピクサーの中心メンバーは、本当の創造性とはそんな簡単にお金に変わるものではなく、ジョブズの情熱が現実を追い越してしまったと察して、創造性を利益に変えるのは、とてつもなく長い道のりだと覚悟していました。

実際、現在最もクリエイティブなマーケティングをするレッドブル社も、最初の数年は赤字続きで、創業者であるマテシッツさんの個人資産、5000万円は底を突く寸前だったとも言われています。


↑クリエイティブなものを作るには絶対に時間がかかる。

20世紀の経済学者、ヨーゼフ・シュンペーター氏は成功するイノベーションは、「知性の偉業ではなく、意思の偉業」だと定義し、それまで誰もやらなかったことを成し遂げることにつきまとう抵抗と不確実性に立ち向かう覚悟ができる人はほとんどいないと述べていますが、ピクサーのような本当に創造性の高い企業は、売上など目標は柔らかく設定しますが、意思だけは絶対に曲げるべきではないと、現CEOのキャットムルさんは述べています。

ピクサーのコンピューター・アニメーションの技術は最高品質のものでしたが、ピクサー関連の書籍のタイトルが「早すぎた天才たち」となっているように、世の中のレベルがピクサーに追いついていませんでした。サンフランシスコのある記者は、1991年3月9日付の記事で次のように書いています。

「ピクサーの問題の一端は、同社のソフトウェアの技術が、市販されているハードウェアの性能を超えていることにある。技術は素晴らしいが、まだ誰も利用する用意ができていない。」


↑1991年当時、ピクサーの技術に世の中がまだ追いついていなかった。

業界にイノベーションを起こしたり、スタートアップを起業する時は、ワクワクしてモチベーションが上がりますが、シリコンバレーの起業家ショーン・パーカーが、「スタートアップの会社を経営するのはガラスを食べているようなものだ。自分の血の味が好きになっていくんだ」と述べたように、利益がすぐについてこないクリエイティブな事業を始める場合、本気でガラスを食べるぐらいの意思でやらないと、とても成功などできないのかもしれません。

また、アマゾンCEOジェフ・ベゾスは、創業資金を融資してくれた親に対して、70%の確率で失敗してお金が返ってこないことを伝え、両親に次のように述べました。

「どういうリスクがあるのか、ちゃんと知っておいてほしいんだ。事業に失敗しても感謝祭の祝日には帰省したいと思うから」


↑ショーン・パーカー「ガラスを食べる覚悟でやれ。」(OFFICIAL LEWEB PHOTOS/Flickr)

実際、ピクサーは全世界で357億円の興行収入を上げた「トイ・ストーリー」の制作に4年という時間を費やしましたが、その経験を得てジョブズは次のように述べています。(アップルではなく、ピクサーCEOの立場として)

「4年というのは大きな時間的投資だ。しかし、最終的に素晴らしいものに仕上がった。例えば、”白雪姫”は制作されて60年になるが、私は今まで白雪姫を見たことのない人に会ったことはない。名作が60年、100年もの間、人々に愛される力は本当に素晴らしい。」

「しかし、これは私が身を置いていたテクノロジーの世界とは全く違う。マッキントッシュやアップル2はすぐ時代遅れになる。10年、15年もつプロダクトなど滅多にない。どんどんゴミの山となって積み重なっていくわけだ。だけど、素晴らしいストーリーは100年生きる。私たちがしなければならないことは、マイクロソフトなどと競争することではなく、人々に愛されるものを作ることなんだ。」


↑アップル製品はすぐ時代遅れになるが、素晴らしいストーリーは100年生きる。

野球、バスケットボール、テニス、そして陸上など、どんなスポーツにも言えることですが、単純に身体能力の差だけで考えれば、多くのスポーツで日本人は圧倒的に不利であり、日本人が世界レベルでまともに戦えるスポーツはそれほど多くありません。

トイ・ストーリーの成功をきっかけに、ピクサーのクリエイティブを特徴づけるものが次第に分かりはじめ、社内では、「物語が一番偉い(Story is King)」という言葉が頻繁に使われるようになりました。

つまり、技術であれ物販販売のチャンスであれ、何であってもストーリーの妨げになることは許されず、映画を見た人が最新のコンピューター技術のことではなく、自分が直感的にどう感じたのかを周りに語っていたのが誇らしかったと、現CEOのキャットムルさんは述べています。


↑一番重要なことは人々がストーリーを通じて何を感じるか。

ピクサーが創業されたのは今から30年前ですが、当時コンピューター・グラフィックを用いたアニメーションで利益を上げるなど夢のまた夢でした。グーグルCEOのラリー・ペイジは、「夢が非現実的であればあるほど、競争者がいなくなる。」と述べていますが、 本当にクリエイティブな仕事というのは、すぐに利益が出ず、知性の偉業ではなく意思の偉業によって成し遂げられるものなのではないでしょうか。

ショーン・パーカーが述べているようにガラスを食べて、血まみれになりながら会社を経営する覚悟がある人だけが、「イノベーション」や「クリエイティブ」という言葉を堂々と口にすべきなのかもしれません。

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