October 4, 2015
グーグルCEO「成功する確率は10%しかないのに、資産をすべて投げ捨てて、火星に行くと本気で言っている男がいる。 」

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先日、次のスティーブ・ジョブズとも噂され、電気自動車のテスラ、そして本気で人類の火星移住を計画するスペースXの両方の指揮を取る、イローン・マスクの自伝が日本でも発売され、(過去の会社の売却で)億万長者になりながらも、自分の資金を食いつぶしながら、週に100時間以上働く、「本当のイノベーター」の姿が、本の中で赤裸々に語られました。

「イーロン・マスク 未来を創る男」の中では、電気自動車のテスラだけで、毎月約4億8000万円のお金を食いつぶし、ロケットの打ち上げが失敗したことで、一夜で約240億円の資産が水の泡、それに加えて、長時間労働、離婚、そしてマスコミからの圧力など、一時は死人のような表情を浮かべながらも、「休んだら死ぬ」と自分に言い聞かせ、依然としてすべてを失う覚悟で挑戦するイーロン・マスクの姿が描かれています。(1)


↑億万長者でありながら、人類を火星に送ると週100時間以上働き続けるイーロン・マスク。(OnInnovation)

ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授によれば、「起業家」と呼ばれる人たちは数多くいるが、本当の意味で世の中を独創的に、そして破壊的にする「イノベーティブな起業家」は全体の10~15%しかおらず、投資家の齋藤ウィリアムさんも、日本で出会ったアイデアの85%は、すでにアメリカにあるもののコピーだったと述べていますが、未来を創るイノベーターと、コピーを作って日銭を稼ぐ起業家とでは、具体的に何が違うのでしょうか。(2) (3)


↑本当の起業家は全体の15%ほど。残りの85%はただ日銭を稼ぎ続けるだけ。(droidcon Global)

世界的に有名なビジネスコンサルタント、ジム・コリンズは著書「ビジョナリー・カンパニー」の中で、設立年が平均で1897年の、様々な試練を乗り越えた企業の様子を、創業時から徹底的に調べたところ、企業理念などには共通点はありませんでしたが、「絶対に、絶対に、絶対にあきらめない。」という意思だけは共通しており、これは「アイデアの成功」をあきらめないという意味ではなく、会社を一つの作品として、絶対に妥協しない姿勢を示すものだと述べています。(4)


↑時代を超えて繁栄する企業の共通点は、「絶対にあきらめない。」ことぐらいしかなかった。(Scott Smith)

確かに同じように偉大な企業でも、アップルは「高価格、高利益」の戦略を取りますが、アマゾンは全く逆の「低価格、低利益」を徹底することで市場を獲得していますし、マーク・ザッカーバーグは良いモノは「プライドを持って盗む」ことを実践してサービスを良くしているのに対して、ロケットについて全く知識がなかったイーロン・マスクは、ロケット工学の専門書を何冊も読むことで、ロシア企業よりもはるかに安くロケットを作れるという結論を出すなど、会社の経営も戦略も企業によって全然違っています。(5) (6)


↑とにかく利益は後回しにして、市場の獲得を優先するアマゾン。(Steve Jurvetson)

しかし、スティーブ・ジョブズが、「真の粘り強さがあれば、起業家としての成否は半ば決まったも当然だと思う。」と述べている通り、イノベーティブな起業家に共通しているのは、社運を賭けた大胆な目標に関しては、「会社の資源をすべて注ぎ込んでも、必ず完成させる。」という固い決意で、スターバックスCEOのハワード・シュルツも数十年前を振り返って次のように述べています。 (7)

「私は一年かけて資金を集めた。242人に呼びかけて217人に断られたのだ。こんなに大勢に人からあなたのアイデアは投資する価値がないと言われたら、どれだけ心が落ち込むか想像してもらいたい。最も辛かったのはいつも明るく振舞わなければいけなかったことだ。週に3,4人にあって、なんの成果も上がらなかったときも自信に満ちた態度で振舞わなければいけない。地主と交渉するときも同じだ。」(8)


↑9割の投資家にけなされたら、どれだけ落ち込むか、想像してもらいたい。(Elliott Brown)

サイバーエージェントの藤田晋さんは、知り合いの社長が他の企業の代理店ばかりやって、営業成績の自慢をしているのを見て、寂しい気持ちになり、自分は起業したからには、絶対に自社サービスを持つという強い意思を持ち、アメーバ事業が上手くいかなかったら、自分は責任を取って会社を辞めると役員会で堂々と発言しました。(9)

イーロン・マスクも起業した当時を「ガラスを食べ、地獄の底を覗き込む毎日」と振り返りながらも、会社一筋の姿勢は20代の頃からで、まだサービスの準備もできていないころから、投資家に向かって、「私はサムライの心を持っています。失敗で終わるくらいなら切腹します」と言い放っていたと言います。(10)


↑アメーバ事業が上手くいかなかったら、責任を持って会社を辞める。(s.semba)

ハーバード大学のクリステンセン教授は、大企業になって、既存顧客を満足させるための持続的なイノベーションだけを意識し過ぎてしまうことが、ベンチャー企業の破壊的なイノベーションになすすべもなく打ち負かされてしまうことにつながるとして、これを「イノベーションのジレンマ」と呼びましたが、「俺はまだやりたいこと、やるべきことの100分の1も成し遂げていない。」とアメリカの大手携帯電話会社、スプリントを買収した孫正義氏は、イーロン・マスクと同じノベーティブな起業家であることは間違いありません。(11) (12)


↑「俺はまだやりたいこと、やるべきことの100分の1も成し遂げていない。」(Masayoshi Son)

しかし、日本でカリスマ的な存在でも、世界ではまだまだ知名度は低く、スプリント買収後、ツイッターを使う頻度がめっきり減ったり、ソフトバンク・アカデミアでの講義の回数が大幅に減ったところからも、ソフトバンクを世界的な企業にするために、孫さんの戦いの最前線はまだまだ苦痛であることは安易に想像できます。

ソフトバンクの社外取締役を務めるユニクロの柳井正さんは、規模を膨張する孫さんを見ながら、大企業は一度狂ったら潰れるとして、「ソフトバンクを潰してはいけない。孫さんには、虚業家になってほしくない。」と述べていますし、孫さんより先に一つの時代を作り上げた、ビル・ゲイツは36時間ぶっ続けで働いて、10時間寝るという生活を繰り返していた時のことを振り返って、「もしマイクロソフトが無敵であると本当に信じていたらなら、私はもっと休暇を取っていたと思う。」語っています。(13)(14)


↑日本一の経営者になっても、最前線はまだまだ苦痛。(Twitter)

辞書ではビジョナリーという言葉を、「未来がどのようになるべきか、あるいはなりうるかについての独自の考えを持った人」と定義していますが、あのビル・ゲイツでさえ未来を正確に予想できないのですから、何も”独自の考え”が業界の専門的な要素に基づいていなくても、もしくは、その業界の知識や経験が無くても、10%の「イノベーティブな起業家」になれる可能性は十分にあります。

例えば、学者の世界では、専門的な知識が身に付き過ぎると、新しいアイディアが生まれなくなるとして、「たとえ30歳までにノーベル賞級の発見ができなくても、余生をまっとうしなければならない。」という意地悪な言葉がありますが、銀行業の経験無しにペイパルを作ろうとしたイーロン・マスクは本を読んで業界のことを調べ、世界最大のB2Bサイトの一つ、アリババを作ったジャック・マーは、秘書がいないとワードファイルすら開けないIT音痴だと言います。(15) (16)


↑世界有数のオンライン・マーケットの創設者は、インターネットには詳しくない。(Philip McMaster)

ハーバード大学の調査によれば、イノベーティブな起業家は、そうでない起業家に比べて、発見に関わる行動(質問・観察・実験・ネットワーキング)に費やす時間が1,5倍も多く、イーロン・マスクも自分の知識のない業界に挑戦することに躊躇する必要はなく、「本を読んで、専門家と話せば、十分理解はできる。」として、特に読書はデータの転送速度が会話よりも圧倒的に速いと述べています。(17) (18)


↑ロケットの作り方も、車の作り方も全部本に書いてある。(John Liu)

ドラッカー亡き後、世界で最も影響力のあるビジネス思想家と言われるジム・コリンズは著書「ビジョナリー・カンパニー4」の中で、成功という次元を超えて活躍し続ける企業を、「10倍型企業」と呼び、ビル・ゲイツがイノベーションを起こせたのは「運」ではないという結論を出しました。(19)

確かにビル・ゲイツが生まれた時代背景、育った裕福な家庭、そして通っていた学校にコンピューターがあったことなど、運がよかったことは間違いありませんが、同じ時代に生まれ、裕福な家庭に育ち、そしてBASICでプログラムを書けた人は何千人もいたとして、ビル・ゲイツが成功した要因は、親の反対を押し切って、会社を起こすためにド田舎に引越し、食べる時間も惜しんで、仕事に没頭したからで、やろうと思えば、全く同じことができた人は数多くいたそうです。

マイクロソフトの共同創業者であるポール・アレンは、ビル・ゲイツが毎日、日の出まで働き、BASICのデバッグをしている姿が、今でも目に浮かぶと言います。(20)


↑今でもビル・ゲイツのデバッグしている姿が目に浮かぶ。(Esparta Palma)

すぐれたアイデアを思いついた時、すぐに行動に移せるかは起業家にとって絶対条件になるようで、ザッカーバーグやラリー・ページ、そしてイーロン・マスクもビジネスのために名門大学を中退し、ジェフ・ベソスもアマゾンのアイデアを思いついた数ヶ月後には、高額な給料を受け取っていた副社長の職を辞めています。

ただ、当たり前かもしれませんが、このような勇気ある行動は専門的な知識と違って、本を読んだり、起業家に会って話しを聞いたところで学べるわけはありませんし、以前、日本で、ビル・ゲイツとリチャー ド・ブランソンが共同で開催した「起業家精神」というテーマの講演会の控え室でも、当の本人たちは、次のような会話をして、ゲラゲラ笑っていたそうです。(21)

「今日、俺たちの講演会を聞きに来ている人たち、何人いるの?」 「三〇〇〇人だって」 「三〇〇〇人!? バカだなあ、今日ここに来てる奴らは、成功なんてできるわけないよな。」 「そうだよね、成功したいんだったら、俺たちの話を聞いている暇なんてないよね。俺だったら、会社に戻って今すぐ働くな。」


↑セミナーなんて行っている暇があったら、今すぐ会社に戻って働いたほうがいい。(TripNotice.com)

世の中に、新しいアイデアや技術が浸透する過程を説明した「イノベーション普及の法則」では、人口を4つのグループに分け、2.5%はイノベーター(最先端を行く人たちで、iPhoneなどの革命的なモノを導入するのが一番速い)、13.5%をアーリー・アダプター(早期に適合する人たち)、アーリー・マジョリティー(大多数の中でも、早めに適合する人たち)、残りをレイト・マジョリティー(ガラケーが使えなくなったから、仕方なくiPhoneを買う人たち)に分類した上で、市場浸透率が15~18%を超えると、状況は一変し、世の中にどんどん広まっていくと言われています。(22)


↑市場浸透率が15~18%を超えたら自然とイノベーションは起こる。(Alex Proimos)

つまり、本当の起業家にとって、それぞれの業界の市場浸透率が15~18%を超えるまでは、イーロン・マスクの言う「ガラスを食べ、地獄の底を覗き込む毎日」が続くわけですが、大半のスタートアップ企業が数年で無くなってしまうように、ほとんどの人が苦しくて途中で諦めてしまうのでしょう。

イーロン・マスクはテスラとスペースXが上手くいく確率は10%前後と述べていますが、それでも現在、優秀な人材がアップルなどから、イーロン・マスクのもとへ集まっていると言います。(23)(24)


↑成功する確率が10%でも、イーロン・マスクの周りには優秀な人たちがどんどん集まってくる。(NASA HQ PHOTO)

テスラが倒産寸前だった時、イーロン・マスクから「最悪の事態になったらテスラを買収してほしい。」と頼まれ、固く握手を交わしたグーグルCEOのラリー・ペイジは次のように語りました。(25)

「シリコンバレーに限らず、企業経営者ならふつうはお金に困ってはいません。察するに使い切れないほどあるんだと思いますが。(中略) イーロンは本当に刺激になる存在です。 以前、彼は、『何をしたらいいかな。自動車、地球温暖化の問題を解決して、人類を惑星間で活躍できるようにして……』なんて言っていました。注目せずにはいられないでしょう?実際、そのための会社を作って取り組んでいるんですから。火星に行くと言っている男がいるのなら、そういう男のために一肌脱ぎたくなりませんか。」


↑本気で火星に行くって言ってる男がいるなら、一肌脱ぐのは当然でしょう。(Scott Beale)

実際、イーロン・マスクが見積もる火星への移住コストは一人5500万円程度で、これは東京やカリフォルニアに住居を購入するのと大して変わりません。(26)

しかし、最終的には火星を温暖化させなければならないため、イーロン・マスクが生きている間に火星が地球のような気候になる可能性は最高の条件が揃ったとしても、0.001%もありませんが、彼は次のように語ります。 (27)

「火星で死にたいね。 できることなら、火星に行って戻ってきて、70歳くらいになったら再び火星に行って、あっちで暮らしたい。順調に行けば不可能じゃない。誰かと結婚し て、たくさんの子供が生まれていたら、たぶん奥さんは子供たちと地球に住むと思うけどね。」


↑できることなら、火星で死にたいね。(OnInnovation)

多くの経営学者が指摘するように、優れた企業や起業家に一貫して共通する特徴はほとんどなく、会社を起こした背景や理念も基本的にバラバラです。

しかし、唯一共通するところがあるとすれば、「絶対に、絶対に、絶対にあきらめない。」と強い意志を持って、いかなる逆風や困難をも乗り越えてきたことぐらいですが、イーロン・マスクにしても、孫さんにしても未知の領域に挑戦し続けるからには、失敗して惨めな姿で一生を終えることも十分あるでしょう。

そう考えたら、現在の自分の立場がどうであれ、懸命に働くしかないという結論に達するのではないでしょうか。結局、人生には限られた時間しかないのですから。

引用・参考書籍

1.(イーロン・マスク 未来を創る男/アシュリー・バンス) Kindle P2567, P2788 2. (イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル/クレイトン・クリステンセン・ジェフリー・ダイアー・ハル・グレガーセン) Kindle P163 3. (ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く/齋藤ウィリアム浩幸) P204 4. (ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則/ジム コリンズ・ジェリー ポラス) Kindle P747 5. (ジェフ・ベゾス ライバルを潰す仕事術/桑原 晃弥) P85 6.(イーロン・マスク 未来を創る男/アシュリー・バンス) Kindle P1671 7.(マーク・ザッカーバーグの思考法/エカテリーナ・ウォルター) 8. (スターバックス成功物語/ハワード シュルツ・ドリー・ジョーンズ ヤング) 9.(起業家/藤田 晋) Kindle P2071 10.(イーロン・マスク 未来を創る男/アシュリー・バンス) Kindle P981 11.(日本のイノベーションのジレンマ/玉田 俊平太) KindleP355、P819 12.(孫正義の焦燥 俺はまだ100分の1も成し遂げていない) Kindle P10 13.(孫正義の焦燥 俺はまだ100分の1も成し遂げていない) Kindle P82、P2803 14. (ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる/ジム・コリンズ)P64 15.(どうしてあの人はクリエイティブなのか?―創造性と革新性のある未来を手に入れるための本/デビット・バーカス) P110-111 16. (ジャック・マー アリババの経営哲学/張燕) P158 17.(イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル/クレイトン・クリステンセン・ジェフリー・ダイアー・ハル・グレガーセン) Kindle P485 18.(“私もジョブズも非常識だった”ビル・ゲイツ氏が語った新旧・起業家の違いとは)  19.(ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる/ジム・コリンズ) P285~P286 20.(ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト アイデア・マンの軌跡と夢/ポール・アレン) Kindle P2230 21.(勉強上手 好きなことだけが武器になる/成毛眞) Kindle P1349 22.(サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか) 23.(世界一のお金持ちになる方法は? ビル・ゲイツ氏とイーロン・マスク氏が対談) 24.(Want Elon Musk to Hire You at Tesla? Work for Apple) 25.(イーロン・マスク 未来を創る男/アシュリー・バンス) Kindle P4199 26. (天才イーロン・マスク銀河一の戦略/桑原 晃弥) P99 27.(イーロン・マスク 未来を創る男/アシュリー・バンス) Kindle P4279

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