脳の仕組み上、じっくり考えたり、集中したりすることは多くのエネルギーを消費するため、脳は常にサボる理由を作り出して、エネルギーの消費を抑えようとする。
忙しい時ほど、なぜか急に部屋の掃除をしたくなるのは、脳が「部屋がきれいになれば、スッキリして仕事が捗る」という論理をつくりだして、それを実行させることで、エネルギーの消費を抑えようとするのです。(1)
1971年にノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンは「情報の豊かさは注意の貧困をつくる」と言いました。
SNSやメールが気になるのも、脳が「何か重要なことを見逃しているかも」とSNSのチェックを促し、サボる理由を作り出して、エネルギーの消費を抑えようとしているのだろう。
↑脳は常にサボる理由を作り出す。(Pic by LC)
多くの人は、毎朝普通に起きて、コーヒーやレッドブルを飲むだけで、一日中集中できると思っているかもしれませんが、なかなかそうはいきません。
1960年代にスティーブ・ヤングというアメリカ人が日本のお寺で冷水に打たれて修行した際に、人間が肉体的な苦痛に直面した時は、何か別のことを考えて意識をそらそうとするよりも、むしろ、苦痛に意識を集中させた方が明らかに苦痛が軽減されるということに気づきました。(2)
例えば、注射が苦手な人なら、別のことを考えて注射から意識をそらそうとするのではなく、今自分が感じていることに意識を全集中させる方が、苦痛は軽減される。
ランニングをする時でも、音楽などを聴いて、苦痛をごまかそうとするよりも、肉体的苦痛に意識を集中させた方が、負荷が減って、長い距離を走ることができるのだろう。
集中力を上げる方法は、活動そのものよりも、自分の中の心の抵抗と、どう向き合うかにかかっています。
ランニングや瞑想を日々行っている人の集中力が明らかに高いのは、心の抵抗との向き合い方を理解しているからなのでしょう。
↑むしろ、苦痛に意識を集中させた方が、負荷が減る。(Pic by LC)
「忙しい」とは、漢字の通り「心が亡くなっている」状態のことを指す。
慣れきった仕事をひたすらこなして、常に「忙しい、忙しい」と言っている人は、脳が「目の前の仕事をまず終わらせることが重要」という論理を作り出して、何か新しいことを実行に移させないようにしているのだろう。
自分の心の抵抗と向き合うクセをつけないと、人生はどんどんラクな方に流れていき、結局、何も成し遂げられないまま人生が終わってしまう。
Note
1.苫米地英人『全速脳〜脳は鍛えると100倍加速する』、2016年 2.オリバー・バークマン『限りある時間の使い方』かんき出版、2022年
参考書籍
■荻野 淳也『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門』日本能率協会マネジメントセンター、2015年 ■エドワード・M・ハロウェル『ハーバード集中力革命』サンマーク出版、2016年