July 12, 2016
4つの肩書を同時進行する福山雅治 「もう、ひとつの仕事にこだわり続ける人に未来はない。」

(illustration by L&C)

普通、メディアに出る著名人というのはその人が俳優であれ、歌手であれ、もしくは経営者などの複数の肩書を持っていたとしても、「この人は◯◯の業界で活躍する人だ」という何となくイメージがついているのが普通です。

ビジネスの世界でも金融のプロや飲食のプロなど、国境が無くなり、世界の50億人がインターネットで繋がる世の中では、労働市場で高く評価され続けるために、それぞれの専門的な知識を身に付け、「私は◯◯のプロフェッショナルです」と胸を張れるようになることが、大切だという声がよく聞こえてきます。


↑高く評価されたければ、「専門知識を身に付けろ!」という声があとをたたない。

しかし、著名人の代表格とも言える福山雅治のプロフィールを見てみると、シンガー・ソングライター、俳優、ラジオパーソナリティ、そしてカメラマンなど書かれており、専門化するどころか、逆にジャンルをどんどん広げながら、それぞれの分野の知識や経験が相互に上手く影響を与え合うことで進化していき、ソロミュージシャンとしては、アルバムとシングルの総合売上枚数は歴代1位、出演するドラマは常に話題になり、ラジオでは「とってもエッチで、軽薄なところもあるけど、リスナーの悩みには真剣に答えてくれる」と言われるなど、福山雅治という世界観はとどまるところを知りません。(1)


↑俳優から始まり、人間として成長していく過程で、どんどんジャンルを広げていく。

ビジネススクールとしては最も有名なペンシルベニア大学ウォートン校の教授であり、弱冠34歳ながら、ビジネス界で高い評価を得ているアダム・グラント氏は、偉大なクリエイターには専門的ノウハウが必ずしも必要というわけではなく、むしろ、幅広い知識の方が重要だと指摘しており、「自分は◯◯のプロだ」と信じきってしまうと、時代の変化を直視できず、今後は突然仕事を失ってしまうことが十分考えられると指摘します。


↑もう専門家やプロフェッショナルでは生き残れない。

福山雅治も自分の演技や歌がその業界のプロだと胸を張れるほど、すごくクオリティが高いものではなく、自分なりに試行錯誤していくなかで、何となくできるようになっていったと述べており、ビートルズがエルビス・プレスリーみたいにロックンロールをやりたくて真似をしたら、真似が下手すぎてオリジナルになってしまったのは有名な話ですが、福山雅治も自分のやっていることはすべて周りの人から盗んで真似していることを認めています。(2)

「ネタばらしするのもなんですけど、全部身近なところから盗んでいますね。(中略) 最初は真似したり、盗んだりすることには、抵抗があったんですけど、音楽のときとかも。でも真似して同じにならないんですよ。要するに真似が下手なんです。」


↑福山雅治「作品はそれほどクオリティが高いものではなく、全部誰かのまね」

近年、「こだわり」という言葉は企業のマーケティングなどにより、非常に好意的な言葉に受け止められがちですが、もともとの言葉の由来は「ひとつの物事に拘泥(こうでい)する」というネガティブな意味で、文芸評論家である亀井勝一郎さんは、専門性などの「割り切り」とは魂の弱さであり、自分の専門外のことを考えることから逃げている精神的な弱さだと指摘しています。(3)

実際、クリエイターを対象とした研究で知識や経験が、ある一定のレベルに達すると、専門知識が想像力の妨げになって、創造性が低下することが分かっており、かのアインシュタインがノーベル賞を受賞したのは46歳の時でしたが、これは彼が20代の時に発表した光電効果の法則などの一連の功績に対するもので、世界で最も有名な相対性理論やE=mc2の法則も、アインシュタインの物理学の知識がまだ浅かった20代の頃に生まれたものでした。(4)


↑専門知識が増えれば増えるほど創造性を失っていく。

そういった意味で、今までのように生産性が最も重要視され、経済の成長がある程度予測できた時代には、目標を定めてルートマップを描き、徹底的に専門知識や経験を深めながら、全力疾走で目的地を目指す「山登り思考」で働き方を考えることが大切でした。

しかし、生産性よりも創造性や、まだ世の中に存在しないものを生み出すイノベーションがしきりに叫ばれる時代には、福山雅治のように、「ミュージシャン+俳優+写真家+ラジオDJ」、または、元マイクロソフトCTOのネイサン・ミアボルドのように「エンジニア+料理人」など2つ以上の仕事を同時並行して進めながら、時代の変化に合わせてサーフィンのように波に乗るような「波乗り思考」で働き方を考えていかなければなりません。 


↑GReeeeNは「歯医者+ミュージシャン」、「農家+金融」、「作家+建築家」など様々な組み合わせで価値を生み出す。

元サッカー日本代表の中田英寿選手も、サッカーしか知らない人になりたくないと現役時代から簿記や様々な語学の勉強をし続け、現在は酒や工芸など日本文化を世界に伝える実業家として活躍していますが、長年ヨーロッパで多くのサッカー選手を見てきているジョバニン・ブランキーニ氏は、中田選手が他の優秀な選手と決定的に違うところは、「誰よりも自分の人生に向き合い、自分の手でプロデュースする気持ちを持っている」ことだと絶賛しています。(5)


↑中田英寿「サッカーだけの人生で終わりたくない」(Flickr/brentolson)

また、同じくサッカー日本代表の長友佑都選手は体をメンテナンスするための「体幹トレーニング」の会社を設立し、彼は会社設立の理由について、「変化の激しい中で日々進化していかないと、すぐ切り捨てられてしまう」と、一つの仕事だけに囚われている自分に対して、激を飛ばしました。

2つ以上のことを同時平行して行っていくことの理由や動機は人によって様々ですが、このような時代背景についてクリエイターの高城剛さんは次のように説明します。 (6)

「思い起こせば簡単な話で、小学生から中学生へと成長するときに、生活や考え方は、抜本的に変わったと思います。行動範囲も大きく変わったはずです。それは変化であり、成長に間違いありません。それを大人になっても続けられることが、クリエイターであることの第一義なのです。その変化に抵抗し続けると、どこかで感性が鈍り、崩壊するでしょう。」


↑小学生から中学生へのレベルアップを大人になっても続けられるかどうか。

福山雅治も一つの分野に囚われず、レベルアップしていく生き方を次のように語ります。(7)

「ただデビューした21歳のころは、40歳になったら、ミュージシャンにしろ、俳優にしろ、完成された固まったものになっているとは思ってましたよね。でも、いざなってみると、固まっていたくはないなって。」

「男子というものは“こだわり”なるものに美学を感じたりする時期があるわけですよ。ひとつのことをひたすら続けている姿勢こそが、人生において美学を持って生きている男の生き様だ、と。」

「でもじつは物事を前に進めていくためには、柔軟で吸収力がある状態でないと、進化しないと思ったんです。“ライク・ア・ローリングストーンズ(転がる石ころのように)”といいますか、まさに変化していっている人ほどチャーミング。ぼくもそうありたいと思います。」


↑福山雅治「まるで、転がる石ころのような柔軟性を持っているほうがチャーミング」

何か新しいことを始めたり、新たに起業したりする場合、今の本業の仕事を辞め、リスクを取って新しいことに挑戦することが美化される傾向がありますが、経営管理学研究者のジョセフ・ラフィーとジー・フェンが10年以上に渡って、5,000人以上を対象に行った調査によれば、リスクを取らず、本業を続けながら起業した人の方が、本業を辞めて起業した人よりも失敗する確率が33%も低いということが分かりました。(8)

前述のアダム・グラント氏はある分野で危険な行動を取ろうとするなら、別の分野では慎重な行動をとって、全体的なリスクを弱める必要があると言います。

つまり、起業した新しい分野で創造性を発揮するのであれば、現在の仕事を辞めるのではなく、それを続けながら新しい分野に挑戦し、感情や社会性の安定のバランスを取った方が、成功する確率が圧倒的に高いというわけです。


↑アップルの創業者はHPを、グーグルの創業者は大学生を、ナイキの創業者は会計士の本業を続けながら起業している。(Flickr/Robert Scoble)

福山雅治も18歳の時にミュージシャンとしての成功を夢見て、長崎から上京しましたが、最初はミュージシャンとしてはなかなか上手くいかず、国民的人気ドラマ「ひとつ屋根の下」で俳優として注目を浴び、ある程度の安定を築いた後で音楽活動に精を出し、ミュージシャンとしても注目されていきました。

「火花」で芥川龍之介賞を受賞したピースの又吉直樹さんは、自分が有名な作家になったことで、誰かに「文化人」と呼ばれる時、そこには自分が日常的に行っている芸人としてのライブ活動などを無効化したいという思惑が潜んでいるような感じがし、違和感を覚えるとして、次のように持論を展開しています。(9)

「文章を書くこと、小説を書くこと、ジャンルを飛び越えてやりたいことをやるのは、すべて芸人の時間以外でやるようにしています。芸人のコップにいつも水が満タンに入った上で、もうひとつのコップで他のことをやるようにしています。ひとつのコップで芸人をやり小説を書いたわけではありません。1日に15時間お笑いをやったとして、4時間睡眠にあてたとしても、5時間も自由時間があります。その時間でやるんです。寝なければもっとできますね。」


↑しっかりと安定を築いているクリエイターの方が成功率は圧倒的に高い 。

ビートたけしもタレントとしての地位があるから、好き勝手な映画が作れると述べていますし、「HANA-BI」でヴェネツィア国際映画祭のグランプリを獲った時も「アーティストとして祭り上げられたらまずい」と、帰国して第一発目の仕事として「真冬の夜をブリーフ一丁でうろつく」という笑福亭笑瓶さんとのバラエティ番組に出演しました。

現代美術家の村上隆さんは、ビートたけしの行動に偉く感銘を受けたとして次のように述べています。(10)

「あれには感動しましたねぇ。おそらく、ヴェネツィア国際映画祭のグランプリによって、権威付けなどされてたまるかという意志、人間が作品に組み込まれないぞ、という本能的な完全拒否願望精神を感じました。」


↑映画は本業じゃない「黒澤さんと同じランクになりましたね、なんて言われてもうれしくねぇーよ。」(flickr/eLENA tUBARO)

最近のある調査で、1901年から2005年までにノーベル賞を受賞したすべての科学者と同時期の一般的な科学者を比較したところ、両グループの科学者はその分野において、深い専門的な知識と経験を持っていましたが、ノーベル賞受賞者は一般的な科学者よりも芸術にたずさわる割合が並外れて高く、会社を起こした人や特許の申請に貢献した人に関しても、スケッチ、文学、建築、そして彫刻などを趣味にしている人の割合が一般の人よりも高い傾向にありました。(11)


↑ 孫正義「私も実業家にならなければ、画家になっていたと思う」(illustration by L&C)

つまり、2つ以上の仕事を同時に進めていくことで、「幅広い経験」と「深い経験」が上手くブレンドされていきます。

例えば、地球温暖化に関する専門家は世界中に数多く存在し、分野にしても、環境科学、環境工学、環境経済学、環境政治学など様々なものがあります。けれども、高度な専門技術を持った人たちがいながら、肝心な問題解決の糸口が見えていないのは、深い専門性だけに頼ってしまっているからであり、本田圭佑選手はピアノを、NBAスターであるレブロンジェームもヴァイオリンを弾くなどして、最近では本業以外のところから答えを見つけだす人たちも増えてきました。(12)


↑ピアノを弾く本田圭佑も本業以外のところから答えを見つけ出す。(flickr/Tsutomu Takasu)

福山雅治のファンは、まだ福山の曲を聴いたことがない人に「どのアルバムがオススメ?」と聞かれると、「最新のアルバムを聴いてみて」と答えることが多いようです。

つまり、彼は俳優、ミュージシャン、ラジオ、そして写真家など様々な役割を同時平行して進めながら日々成長しており、もう業種の境界線がわからなくなってきているからこそ、「人間として成長している最新の作品が間違いなく一番最高に良い作品であるべきだ」という思いが、彼のインビューからも伝わってきます。

「作者に勝る作品はないんです。作品は常に変化している作者の抜け殻 ですから。」(13)

「もう自分の中に龍馬はいない。またどこかへ行ってしまった。旅が一つ終わった。だけどひょうんなところできっと顔を出すだろう。自分の演じた役たちはすべて、何らの形でその後現在の福山雅治を形成している。湯川先生然り。ちい兄ちゃん然り。」(14)

「ある時気付いたら、友達、家族といる時間がドンドン少なくなってたんです。プライベートであるはずの家に帰っても、ものづくりのことを考え、生み出すための何かを感じようとしている自分がいる。でもそれは、私生活を捨てているって感覚じゃない。楽しいです。」(15)


↑作者に勝る作品はないんです。(illustration by L&C)

歴史上のほとんどの時期、未来は過去の延長戦上にあり、自分が将来どんな仕事や生き方をするかは、父親や母親の姿を見れば、ある程度想像することができましたが、18世紀半ばから19世紀にかけてイギリスで起きた産業革命がそれを一変させました。

それから200年間に起きた変化は、人類が歴史というものを記録し始めて5000年という期間の中でも、最も大規模で急激な変化だったと言われていますが、書籍「ワーク・シフト」などで有名なロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏によれば、次の20年〜30年で起こる劇的な変化は、200年前に起きた産業革命の変化に匹敵するものになると断言しています。(16)


↑ 次の20年〜30年で起こる変化は人類最大の変化に匹敵、もしくはそれを超えるものになる。

産業革命と資本主義は、大量生産と大量消費のモデルを中心に、富やモノに対する強い欲求を作り出しましたが、これから加速するテクノロジーの進化とグローバルの発展は、働き方やライフスタイルの意識を大きく変え、お金、仕事、時間、そして遊びなどの価値観を以前とは全く違ったものに変えてしまうことが予想されます。

20世紀の問題は専門の知識さえあれば、ある程度は解決することができたかもしれません。しかし、恐らく21世紀に出てくるであろう数多くの問題は、20世紀よりももっと複雑化し、福山雅治のようにプロフェッショナルを連鎖させ、専門性を統括して、新しい価値を生み出すことができる「スーパージェネラリスト」のような人たちの出番が、今後は益々増えてくることは確実でしょう。


↑21世紀最大の戦略とは“アート”になっていく。そういった意味で、次の時代は作品や見かけだけにクリエイティビティを求めるのではなく、“生き方そのもの”に創造性を見出していかなければなりません。

芸術家の岡本太郎は、もう何十年も前に分業化された狭いシステムの中で、自分の職能だけに精進すれば尊敬される世の中に疑問を持ち、与えたれた枠からはみ出して、もっと無目的に自分を広げていく人生はもの凄く危険で辛い道かもしれないが、自分という人間の全存在を完全燃焼できる素晴らしい道だと説きました。(17)

岡本太郎が1940年にパリから帰国した際に、絶望的な気持ちの中、分業化された安全な道を取るか、与えたれた枠からはみ出し、無目的に自分を表現する道を取るか真剣に悩んだそうですが、その時、いのちを投げ出すつもりの覚悟で危険な道を取ることを決意したそうです。


↑次の時代は、作品や見かけだけではなく、“生き方そのもの”に創造性が求められる。(Flickr/Naoya Fujii)

しかし、別に今の時代は、80年前の岡本太郎のように悩む必要はありません。80年以上という時を経てやっと、時代が岡本太郎に追いついてきました。

これからの時代は、岡本太郎が悩んだような「2つの道からどちらかを選択する」といったような危険な賭けをするのではなく、リスクを最小限にして、自分の好きなことを思いっきり楽しみながら、生きていける時代になっていくことでしょう。

福山雅治の多彩な活躍を見ていると、なぜかそんな感じがしてしまうのですが、むしろある分野の専門化やプロフェッショナルになってしまう方がとても「危険な道」に見えてなりません。

福山雅治の歌のように「もっと自由に、Let’s dance, dance, dance」、たぶんこれが次の時代のキーワードなのではないでしょうか。

参考・引用書籍
1.吹上 流一郎「福山雅治―素顔の軌跡」(コアハウス,2001年) P19 2.三浦 憲治「二〇一〇年 福山雅治と坂本龍馬の旅」(講談社,2010年) 3.田坂 広志「知性を磨く~「スーパージェネラリスト」の時代~」(光文社、2014年) Kindle 4.デビット・バーカス「どうしてあの人はクリエイティブなのか?―創造性と革新性のある未来を手に入れるための本」(ビー・エヌ・エヌ新社、2014年) P110-P111 5.小松 成美「中田英寿 誇り」(幻冬舎、2009年) P425 6.高城 剛「私の名前は、高城剛。住所不定、職業不明」(マガジンハウス、2011年) Kindle 7.富坂 剛「福山雅治の肖像 -エンドレスファイト-」(アールズ出版、2014年) P160 8.アダム・グラント「ORIGINALS 誰もが”人と違うこと”ができる時代」(三笠書房、2016年) Kindle 9.又吉 直樹「夜を乗り越える」(小学館、2016年) P81 10.ビートたけし・村上 隆「ツーアート」(光文社、2008年) P90 11.アダム・グラント「ORIGINALS 誰もが”人と違うこと”ができる時代」(三笠書房、2016年) Kindle 12.田坂 広志「知性を磨く~「スーパージェネラリスト」の時代~」(光文社、2014年) Kindle 13.さくら 真「福山雅治という生き方」(青弓社、2010年) Kindle 14.三浦 憲治「二〇一〇年 福山雅治と坂本龍馬の旅」(講談社,2010年) 15.大村 克巳「福山雅治写真集+インタビュー集”伝言”」(集英社、2005年) P97 16.リンダ・グラットン「ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図」(プレジデント社、2012年) Kindle 17.岡本 太郎「自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか」(青春出版社、1993年) Kindle

/FUKUYAMA