現代では、忙しいことを自慢し、暇人は周りから馬鹿にされる傾向があります。
しかし、いまや清潔感よりも何よりも大切だと言われるクリエイティビティは、暇を持て余し、徹底的に退屈した時に、生まれてくる可能性が高い。
「最近、めちゃくちゃ暇なんだよ!」の次に出てくる言葉こそが、「何か面白いことはないか?」であり、多忙な生活の中では「何か面白いことはないか?」という言葉はまず出てこないのだろう。
いまやスマホやSNSは、他人や世界と繋がるためのツールではなく、退屈から逃げるためのツールになってしまいました。(1)
↑暇を持て余した時に、新しいものが生まれてくる。(Pic by LC)
人間はこれまで、自由な時間を求めて必死に戦ってきたはずなのに、今では、暇を持て余すことや退屈することを物凄く恐れている。(2)
フランス文学者の内田樹さんは、ヨーロッパに17世紀から20世紀の初めまでいた「金利生活者(ランティエ)」たちが、近代ヨーロッパの学術のイノベーションを支えたのだと述べています。(3)
ランティエは先祖が残してくれた資産のおかげで、それほど働かなくても、暮らしていくことができ、暇を持て余していました。
時間だけはたっぷりあったため、新しい音楽があると聞けば演奏会に行き、面白い本が出たと聞けば読書会に行くといった感じで、こういった人たちが科学や芸術のアーリーアダプターとして新しいものをどんどん広めていったのだと言います。
心が病んでいたり、大きな不安を抱えていると退屈は感じられませんから、退屈することは健康な証拠であるとも言えるのでしょう。
↑退屈することは、健康である証拠。(Pic by LC)
ただ、人間は、退屈がずっと続くと自身の破壊に繋がることを理解しているから、退屈すると「何か面白いことはないか?」という言葉が自然と出てくる。
退屈すると、身近なものに刺激を求めるようになるため、むしろ、本当の意味でのクリエイティビティとは、退屈を乗り越えてはじめて生まれてくるのかもしれない。
創造性とは亀のような動きをしながら人間の元に姿を表す。
つまり、甲羅から不安そうに常に顔だけを見せて、周りの安全を確認してからではないと、創造性は完全な姿を現さないため、現代の忙しい日々の中に亀が安心して出てこれるオアシスをつくってあげなければならないのだろう。
「仕事は忙しい人に頼め」とよく言いますが、何か新しいものを生み出したいのであれば、退屈や暇を恐れてはいけない。
Note
1.マヌーシュ・ゾモロディ『退屈すれば脳はひらめく 7つのステップでスマホを手放す』2.百田 尚樹『百田尚樹の新・相対性理論: 人生を変える時間論』新潮社、2021年 3.内田樹, 想田和弘『下り坂のニッポンの幸福論』青幻舎、2022年
関連書籍
■齋藤 孝『20歳の自分に伝えたい 知的生活のすゝめ』SBクリエイティブ、2022年 ■神谷 美恵子『生きがいについて』みすず書房、2004年