September 4, 2019
宮崎駿「東京をさっさと抜けろ!」東京に居続けるクリエイターに未来はない。

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最近、キャンプしたり、大自然の中でコーヒーを入れたりする動画をアップするYouTuberが増えています。

僕の周りにも、ただ自然の中で、普通にご飯を食べているだけの動画なのに「なぜか、ずっと見てしまうんだよね。」とか、「キャンプ動画を見ると、自分もキャンプに行ったつもりになれる」などと言う人達が結構いたりします。

元々、日本人の9割は農民の子孫であることを考えれば、農民のDNAを持っている僕たちが、都会のビルの中にずっと押し込まれて生活していること自体、どこかおかしいことなのかもしれません。








↑ただ、キャンプしているだけの動画をなぜかずっと見てしまう。

1965年、ロンドン南部のある健康機関が10万人の住民を対象に精神分裂病やうつ病などを含む、人間の精神状態を調べたところ、精神分裂病だと特定された人は11%でした。

しかし、その割合は、人類がどんどん都市化していくことに比例して増えていき、30年後の1997年には、その数字は倍以上の23%に増加していたのだと言います。

実際、都会の生活というには変化があるようであまり変化がありません。

エアコンの温度はいつも同じ、明るさも常に一定であるため、これでは従来人間に備わっている身体の機能がどんどん弱くなっていってしまうことでしょう。

また、都会の24時間消えずに街中を照らしている光は、人間の体内時計を混乱させ、自動車などの交通の雑音に囲まれた日常が脳や身体を緊張させることで、不眠症、炎症性疾患、糖尿病、そして、癌になる可能性をどんどん上げていきます。






↑温度も明るさも常に一定では、本来人間が持っている機能がどんどん壊れていってしまう。

さらに、都会では通勤電車が想像以上に身体にダメージを与えています。

バル=イラン大学で心理学を教えるメニ教授によれば、通勤ラッシュに巻き込まれる人が受けるストレスは、臨戦態勢の戦闘機のパイロットや機動隊員よりも大きいのだそうです。

考えてもみれば、都会で暮らす人達は、別にきつい肉体労働をしているわけでもなければ、売れっ子の芸能人のように分刻みでスケジュールが入っているわけでもないのに、なぜか毎日忙しく感じていて、心にゆとりがなく、毎日の暮らし自体が雑になってしまっています。

近年、日本や世界中の人達の死や悲しみの原因になっているうつ病、自殺、癌などの様々な病気は、都市にどんどん集まり、めんどくさい自然を生活の中から排除し続けたための代償なのでしょう。








↑自然から離れれば、離れるほど、人間はどんどん不幸になっていく。

でも、自然の中でキャンプをするYouTubeの動画の再生回数が異常に多いところを見ると、恐らく、多くの人達は本質的に自身が持つDNAの「問いかけ」に気づいているのだろう。

パソコンを叩いていれば、収入を稼げて、必要なものがあればアマゾンで購入する。

頭ではすごく効率が良いように思えても、実際、その効率性に身体がついてきていないため、都会での生活はどこか虚しさを感じてしまいます。

経営でも人間関係でもそうですが、テクノロジーで効率を上げたら、原始的な部分を生活に取り入れるといった感じで、「効率」と「非効率」のバランスを過剰と言えるほど意識しておかないと生活環境を良い状態に保っていくことができません。






↑「効率」と「非効率」のバランスを過剰なぐらい意識しないと良い生活環境を保てない。

ご飯は何分で炊けるか。

電子レンジがない生活とはどんな感じなのか。

エアコンがなかったらどう感じるのか。数日間、キャンプに行って原始的な生活をするだけでも、人間本来持っている感覚が少しずつ戻ってくるのです。

宮崎駿、米津玄師、宇多田ヒカル、村上春樹「普遍的なコンテンツを創る人達は、必ず一番変化の遅い自然からインスピレーションを得ている。」



2泊ほどキャンプをすると自分の都会での生活リズムが、どれほど自然のリズムからズレれているかが嫌でも分かります。

ほんの数日間、自然の中で過ごしただけで、創造性が50%も上がったという調査が科学誌「プロスワン」に掲載されました。

確かにキャンプなどで原始的な時間を過ごすことで、都会での時間の流れとは違うリズムが生まれ、人間が本来持つ感覚を取り戻すことが創造性に繋がっていくのでしょう。

2016年に「Current Biology」に掲載された調査では、ちょっと週末にキャンプに行って、人工的な光ではなく、自然の光の中で生活しただけで、睡眠のサイクルが69%も自然のリズムに近づいたのだと言います。






↑週末ちょっとキャンプに行くだけで、自然な生活のリズムが戻ってくる。

シカゴ大学心理学部のシアン・バイロック教授によると、ジョギングなどをして自然を身体に取り入れば、翌日の面接が上手く行くといったように、「首から下」でしっかり物事を感じ取るようにすることが、最終的に脳を強くする大きな要因になっていくのだそうです。(1)

「ホール・アース・カタログ」の創刊者で、ジョブズのメンターでもあった思想家のスチュアート・ブランドは、最も変化が遅いものは自然であり、そこから文化、制度、インフラ、ビジネスモデル、ファッション、テクノロジーの順に変化のスピードは速くなっていくと言いました。(2)

世界で長期にわたって評価されているジブリの宮崎駿と小説家の村上春樹の世界観は全然違います。

しかし、宮崎駿は今も都心から離れ自然が多く残っている所沢で暮らし、村上春樹も神奈川の田舎で毎日ジョギングをしながら生活をするなど、常に一番変化の遅い自然を首から下の身体で吸い上げ、そこから新しいアイディアを生み出しているという部分は共通しているものだと言えるでしょう。






↑長期的にしっかりと評価されるためには、一番変化の遅い自然を生活に取り入れて「首から下」で考える。

宮崎駿さんは、もう20年以上前のインタビューで東京の状況について次のように述べていました。(3)

「ナチスの軍隊の中にいてね、どんなに人間的になろうと努力するったって ─ ─ そのナチスの軍隊に入らなくてもいいんだったら、さっさと抜けろっていうことがいくらでもあるわけでしょう!僕は、今東京の状況っていうのは、そういう状況だと思うんですよ。」

「さっさと抜けろっていう状況であってね。そこに留まるなら、自分の愚かさを耐え忍べっていうね! (中略) だから、例えば、現代を切り口にした映画を作れっていう人の発言を聞いてるとね、なんかそれを観に行ったら励まされて、“俺は東京で生きていくぞ!” って思うようなものを言いますけどね、こんな東京の中で生きてると、そんな映画なんか作れっこないじゃないですか! 」

「いや、作りたくもないですよ! うんと嘘を重ねてね、 作ることはできるかもしれませんけども。僕はそんな映画を作りたいとは全然思わないですね!」




↑東京に留まるのなら、自分の愚かさを耐え忍べ。さっさと東京なんか抜け出せ。

ピカソも都会での生活に嫌気がさしてパリを後にしましたし、村上春樹も自然の大切さについて次のように述べています。(4)

「僕は思うのだけれど、たくさんの水を日常的に目にするというのは、 人間にとってあるいは大事な意味を持つ行為なのではないだろうか。」 

「まあ“人間にとって”というのは、いささかオーヴァーかもしれないが、 でも少なくとも僕にとってはかなり大事なことであるような気がする。 僕はしばらくのあいだ水を見ないでいると、自分が何かをちょっとずつ失い続けているような気持ちになってくる。」

チベットには、「創造性」という言葉はなく、「創造性」を翻訳するのに一番近い言葉は「自然」なのだそうです。




↑創造性に一番近い言葉は自然。

米津玄師、宇多田ヒカル、そして、宮崎駿などが宮沢賢治から大きな影響を受けているのは、よく知られています。

宮沢賢治が物語をつくる時は、机の上で難しい顔をして原稿を書くのではなく、鉛筆とノートを首からぶら下げて岩手県花巻の自然に飛び込み、そこで何かを感じとってそれを文字に落としていきました。

宮沢賢治の「風を食べる」、「日光を飲む」といった自然界特有の表現は、色が聞こえたり、匂いの味がすると言ったように、一つの刺激に対して、ふたつ以上の感覚が反応してしまう状態のことで、芸術家はこういった感性を上手く利用して、創作活動をすることも多いのだと言います。




↑人々に普遍的に愛される歌には、日本人にはどこか懐かしい自然の要素が含まれている。

宇多田ヒカルは母親が宮沢賢治と同じ岩手県出身なため、彼女自身も岩手を何度か訪れ、創作のインスピレーションを受けており、米津玄師も自然溢れる徳島の田舎で得た感性が創作の基礎になっていることは間違いないでしょう。

キャンプしているYouTube動画がよく見られるのと同じように、米津玄師や宇多田ヒカルの歌がなぜか印象強く感じるのは、こういった歌が、どこか奥底に埋もれてしまった古き良き自然を大事にする日本人のDNAに何を訴えかけているからなのだろう。

一番寂しいのは、一人でキャンプをすることではなく、都会で感じる大人数の中での孤独。



毎日、普通に口に入れているカレーやコーヒーを電気の力を借りずに作り、自然の中で食べるとなぜかもの凄く美味しく感じるから不思議です。

都会の生活から数日離れて、キャンプに行き、いつもは炊飯器を使って炊いているご飯を全部手動で炊いてみたり、スイッチ一つで付く火を一から起こしたりしていると、徐々に失われた人間の感性のようなものが蘇ってくるような気がします。

きっと、お風呂や炊飯器から聞こえる「お風呂が湧きました」、「ご飯が炊けました」という寂しい声は効率性と引き換えに驚きや楽しみを奪ってしまっているのでしょう。










↑数日間でも、生活を原始的なものに戻すことで、人間性が徐々に回復していく。

さらに、都会にいる時と、豊かな自然がある環境(とくに海岸沿い)にいる時との幸福度の違いは、一人でいる時と友人と一緒にいる時の差よりもはるかに大きく、何もしていない時と、歌やスポーツなど好きなことをしている時の差と同等のものなのだと言います。(5)

そう言った意味では、少し前に一人キャンプが話題に芸人のヒロシが言うように、一番寂しいのは一人でキャンプすることではなく、都会で感じる大人数の中での孤独なのだろう。




↑寂しいのは一人でキャンプすることではなく、都会の大多数の中で感じる孤独。

そして、現在、私たちが1日に触れる情報の量は、江戸時代の1年分に相当するとも言われ、「どう脳を働かせるか」よりも「どう脳を休ませるか」という概念の方が重要になってきます。

実際、前例のない革新的なアイデアというのは、多くのイノベーターが言うような「急に頭の中にフワッと浮かんでくるもの」ではなく、もの凄い時間をかけて努力した後に、のんびり自然の中でリラックしたり、ゆっくりと料理をするなどして、積極的に脳の中に「余白」を作ることで、無意識に頭の中に湧いてくるものです。

ハリーポッターの著者、J・K・ローリングは電車からぼっーと外を眺めている時に、ハリーポッターの原案を思いつき、アインシュタインは学生の頃、忙しく研究に熱中する友人を尻目に、ただ呆然と、アルプスのアッペンツェル地方の美しい山道を歩き回っていました。




↑「どう脳を働かせるか」よりも「どう脳を休ませるか」の方が大切。

スノーピークCEOの山井太さんは、数年に1回レベルの重要な決断をする際には、2、3日キャンプして五感を磨き、人間が本来持つ感覚を取り戻した後で、決断を行うと言います。(6)

自然の中で食べる食事は、いつもよりも美味しく感じたり、自然の中でキャンプファイヤーの火を見ると、なぜか今まで秘密にしていた悩み事などを急に話したくなった経験は誰にでもあることでしょう。

これは、バイオフォリアと呼ばれる生物や自然への愛情が人間のDNAに組み込まれているからであり、エクセター大学の調査では、室内に簡単な植物を置くだけで、幸福度や創造性が47%も上がったと報告されています。




数年に1回レベルの重要な決断をする時は、五感の感覚が戻ってきた時に行う。

また、24歳になった女性が14歳のときにイジメにあって自殺しようとした時のことを書いた「14歳の私が書いた遺書」という本の中には、桜が咲いたとか台風が来たというような自然に関する記述は一つもありませんでした。

書かれていたのは、「先生がこう言った」とか「友達がああ言った」などと言う人間関係に関することばかりで、やはり人間は周りから自然が失われれば、失われるほど、世界がどんどん窮屈になっていってしまいます。




↑周りから自然が消えると自然がどんどん窮屈になっていく。

もし、普段の生活や職場で人間関係がギクシャクしていると感じたら、高度な文明社会に浸り過ぎてしまって、自身の生活のリズムが地球のリズムとシンクロしていないのでしょう。

自然の中でテントを張って、みんなでご飯を食べて寝る、これだけで、人間が本来持つリズムを取り戻すことができるのです。

まとめ「日本はいい加減に『効率』と『幸福』を別けて考える必要がある。」



人工知能の世紀とも言われる21世紀、自然を通じた人間性の回復は、先進国で大きなテーマになっていくことでしょう。

Uber Eatsを使って数回クリックするだけで届くカレーと、わざわざ道具を山奥まで道具を持って行って作るカレーの違いをしっかりと理解していなかければなりません。

人工知能は僕たちの生活をどんどん便利に快適にしてくれますが、若者の自殺が事故死より多いのは先進国で日本だけであり、そろそろ日本もいい加減に「効率」と「幸福」を別けて考える必要があります。












↑そろそろ、いい加減に「効率」と「幸福」を別けて考える必要がある。

デジタル上の文字が温度や時間を表示してくれるのではなく、感覚的に直感的に分かるようになってくる。

これ以上の効率性はないのかもしれない。

きっと、原始的な生活を通じて、戻ってきた人間本来の感覚は、長期的にビジネスや生活など様々なところで役に立つはずです。

テクノロジーによって生活の効率が上がれば、上がるほど、その分、定期的にキャンプなどの非効率なことをして、失った驚きや楽しみをリカバリーすることで、バランスの取れた人間性が保てるようになっていくことでしょう。




↑物事が感覚的に分かるようになることほど、効率的なことはない。

アーティストにしても、ビジネスマンにしても、仕事ができるから幸せになるというわけではなく、きっと、幸せだからこそ、いい仕事ができて生産性を上げていくことができます。

効率性に重点を置かれた社会によって、日々、驚きや楽しみを失い続けている人たちがどうやって、驚きや楽しみを届ける仕事をすると言うのでしょうか?

大自然の中で、原始的で非効率なことをしながら、失われた驚きや楽しみを取り戻す、なんて贅沢な時間なのだろう。

参考・引用

◆1.シアン・バイロック「『首から下』で考えなさい」サンマーク出版、2005年◆2.兼松 雄一郎「イーロン・マスクの世紀」日本経済新聞出版社、2018年◆3.宮崎 駿「風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡」文藝春秋、2013年◆4.村上 春樹「ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集」文藝春秋、2018年◆5.フローレンス・ウィリアムズ「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方」NHK出版、2017年 ◆6.山井 太「スノーピーク『好きなことだけ! 』を仕事にする経営」日経BP、2014年

その他参考にした書籍

◆ジョンJ.レイティ リチャード・マニング「科学GO WILD が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス」NHK出版、2014年 ◆レジー「夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わる」blueprint、2017年 ◆堀江 貴文「健康の結論」KADOKAWA、2018年 ◆長谷川 英祐「働かないアリに意義がある」KADOKAWA、2016年 ◆伊藤 裕「幸福寿命 ホルモンと腸内細菌が導く100年人生」朝日新聞出版、2018年 ◆高橋 博之「都市と地方をかきまぜる 『食べる通信』の奇跡」光文社、2016年 ◆養老孟司, 岸由二「環境を知るとはどういうことか 流域思考のすすめ」PHP研究所、2009年 ◆鈴木敏夫「禅とジブリ」淡交社、2018年 ◆デイヴィッド・ケリー トム・ケリー「クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法」日経BP、2014年 ◆増田宗昭「知的資本論 すべての企業がデザイナー集団になる未来」CCCメディアハウス、2014年

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