March 28, 2022
レッドブルが、創業当初全く売れなくても安売りをしなかった理由。安売りは顧客に変化を約束しないこと。

米国で最も優秀な人は、国務省や医療業界で働くのではなく、マーケティングの仕事をしているのだと言います。(1)

また、米国の億万長者1000人を対象に「最初のフルタイムの仕事は何か?」に尋ねたところ、一番割合が高かったのは、営業もしくはマーケティングの仕事だったと言う。

時代に合わせて、企業が提供する価値が「量」→「質」→「想」へと変化していく中で、マーケティングの世界ではロジックやサイエンスよりも、心理学やデザイン思考的な要素の方が何倍も重要になってくる。(2)


↑米国で最も優秀な人たちはマーケティングの仕事に就く。(Photo by LC)

クロネコ以外のサービスを使っても、郵便は配達されるし、セブンイレブンのコンビニとしての機能は、他のコンビニと大きくは変わらない。

ナイキよりも性能が良い靴はいくらでもあるし、レッドブルやスターバックスよりも美味しいものは限りなくあるのでしょうが、多くの人はなぜかナイキやレッドブルを選んでしまう。

そう言った意味では、商品やサービスの質が一定のレベルに達した後の世界で生き残ることができるのは、「想」のマーケティングに徹底的にこだわる企業か、徹底的に「質」のプロダクト磨きにこだわる企業のどちらかだけなのでしょう。

レッドブルはオーストリアの実業家とタイの実業家が、1987年に両者約5000万円ずつ出資して創業されました。

創業当初のレッドブルは「こんな小便みたいなもの、金をもらっても飲まないよ」と、どれだけ批判されても、マーケティングには徹底的にこだわっていたため、安売りだけは絶対にしないように気を配っていたのです。


↑レッドブルはどれだけ批判されても、安売りしないように注意した。(Photo by LC)

マーケティングは商品やサービスを消費することを通じて、消費者に変化を約束する。

ナイキであれば、戦うアスリートの精神を伝えることによって、商業的な匂いをかき消しながら年間約4兆円の市場を作り出します。

レッドブルであれば、アマチュアの選手たちが苦しみながらも這い上がっていく「プロセス」をマーケティングに最大限に活用し、年間100億本近い新しいビジネス市場を作り出しているのです。

消費者はナイキやレッドブルの商品から「精神的付加価値」を間接的に受け取ることによって、自らを少しずつ変化させていく。

マーケティングをせず安売りをするということは、消費者の変化に投資しないということであり、商品を通じて、消費者に変化を約束しないことの現れでもあります。(3)


↑安売りをするということは、消費者に変化を約束しないということ。(Photo by LC)

婚約指輪は実用的な役割は何もありませんが、値段が高ければ高いほど、結婚生活が長く続くという願望の現れなのだろう。

携帯電話の所持率は100%近くになっているのに、腕時計の広告が街やメディアに溢れています。

有名女優などを時計の広告塔に起用することで、「○○さんのようになりたい」という欲求を作り出し、現在でも腕時計の需要は減るどころか、むしろ増えている。

営業は顧客の欲しいものを提供して、商品を現金に変えることなのに対して、マーケティングとは、顧客が満足する「精神的付加価値」をつくりだし、それを少しずつ伝達して、最終的に商品を消費してもらうことを指します。

結局、消費者は何に対してお金を払うのか。自分のお金を使った履歴を見てみると、必要なものを買うことよりも、「精神的付加価値」に対して、お金を払っていることが想像以上に多いことに気づくのかもしれません。

Note

1.トーマス・J・スタンリー、サラ・スタンリー・ファラー『その後のとなりの億万長者 ──全米調査からわかった日本人にもできるミリオネアへの道』パンローリング株式会社、2020年 2.野崎 亙『自分が欲しいものだけ創る! スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング』日経BP、2019年
3.セス・ゴーディン『THIS IS MARKETING ディスイズマーケティング 市場を動かす』あさ出版、2020年

参考書籍

■ヴィッキー・ロビン、ジョー・ドミンゲス『お金か人生か――給料がなくても豊かになれる9ステップ』ダイヤモンド社、2021年 ■ローリー・サザーランド『欲望の錬金術―伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング』東洋経済新報社、2021年 ■永井孝尚『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』SBクリエイティブ、2016年

Eye Catch Photo by LC

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