消費者が何かモノを買う時の意思決定は、約95%が無意識の中で行われる潜在意識によって行われていると言いますが、レッドブルほど、この消費者の潜在意識を上手くハックした企業はいない。
マーケティングとは、そもそも「人の心はわからない」という前提にたった戦略。
レッドブルは、まだあまり成功していないアマチュアのスポーツ選手やアーティストとパートナーシップを組み、アマチュアの選手たちが苦しみながらも這い上がっていく「プロセス」をマーケティングに活用することで、若者の遺伝子の奥に眠る潜在意識を刺激することに成功しました。
↑レッドブルほど、潜在意識を上手くハックした企業はない。(Pic by LC)
人間の脳は賢く、僕たちができるだけ楽に生きられるように、大抵のことを考えずに無意識で判断するように指令を出し、潜在意識で物事をどんどん決断できるようにと、自分自身を最適化していきます。
車の運転も最初はずっと緊張していても、慣れれば口笛を吹きながらでも運転することができる。
潜在意識が判断する基準は、過去の経験とそこに紐付けられた感情であり、誰もが持っているもがきながらも、なかなか成功できなかった経験と、毎回レッドブルのマーケティングによって刺激される感情の変化によって、レッドブルのロゴを見ただけで、なぜかモチベーションが上がるようになる。(1)
全く効かない偽薬を「これは病気に効く」と言われて飲むと、本当に病気が治ってしまうことを「プラシーボ効果」と言いますが、レッドブルにも同じ効果があることが分かっています。
若いパリの男性154人を対象にした調査で、同じ味の3つのカクテルを用意して、「ウォッカ」、「フルーツジュース」、「ウォッカ・レッドブル」と、それぞれ別のラベルを貼って飲んでもらいました。
すると、「ウォッカ・レッドブル」のラベルのカクテルを飲んだ人が一番エネルギーに溢れ、より自信を持って女性を口説けるようになり、最終的に女性を口説くことにも成功したのだと言う。
↑レッドブルのロゴを見るだけで、なぜか遺伝子が刺激される。(Pic by LC)
2008年の調査では、アップルのロゴを見るだけで、創造的な思考をするようになるという調査もありますが、アップル、パタゴニア、ヴァージン、そして、スターバックスなどと言ったブランドは、商品以上に、ブランドイメージがユーザーの潜在意識をハックしている。
シュワルツェネッガーが、まだただのボディビルダーだった頃、ハリウッドのトップスターになるための具体的な計画をたずねられて次のように答えました。
「ボディビルディングの世界と同じですよ。まずは自分がなりたいビジョンを描き、その次は、それがあたかも実現したかのようにふるまえばいいだけです。」
ただ、実際は、大抵の人はビジョンは描けても、「それがあたかも実現した」ようには振る舞えない。
ユーザーは自分の気分が良くなることに、たくさんのお金を払うのだとすれば、レッドブルやスターバックスの商品に接した時に、少しだけ自分の理想に近づけたような気がして居心地よく感じるのだろう。
↑大抵の人は、あたかも成功したようには振る舞えない。(Pic by Flickr_CC_Miljøstiftelsen ZERO)
経済状況や様々な国際情勢の影響で、物価が高騰しているにも関わらず、多くの企業がなかなか値段を上げられずにいます。
そういった意味では、今後は、マーケティングを通じて精神的付加価値を提供し、潜在意識をハックすることで、顧客に居心地の良さを提供することも大切になってくるのかもしれない。
Note
1.ヴェックス・キング『望む現実は最良の思考から生まれる グッド・バイブス・ルール』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年
参考書籍
■スティーヴ・チャンドラー『自分を変える89の方法』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2013年 ■井上 大輔『マーケターのように生きろ―「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』東洋経済新報社、2021年