November 30, 2014
アップルのデザイン責任者「世の中の物体のほとんどが適当にデザインされている。」

ジョナサン・アイブはスティーブ・ジョブズの最も近い友人であり、iPad、iPhone、iPod,そしてMacBook Airなどのデザインの責任者を務めました。

ジョナサンがデザインしたプロダクトは現在、食事をする時、仕事をする時、旅行に行く時など様々な場面で使われていますが、彼いわく、消費者の99%はアップル製品をデザインするのにかかった苦労を知らないとして、次のように述べています

「80%の仕事はすべて失敗に終わる。大切なのは良くないと感じたら、すぐに作業を辞める勇気を持つ事だ。ジョブズはいつも口癖のように言っていた。”これで十分か?”、”これが正しいことか?” ってね。」


↑ジョナサン「アップル製品のデザインにどれだけの想いが込められているか、99%の人は知らない。」(Simon D:Flickr)

デザインチームはたった18人の小さなチームで構成され、15年間チームメンバーは誰ひとり入れ替わっていません。

さらにアップルには常任委員会というものは存在せず、値段や納期そして差別化など、マーケティング目標は一切気にせず、その製品を使う人だけのことを考えます。ジョブズは2002年のインタビューで次のように答えています。

「多くの人がデザインと聞くと、どのように見えるかを重視して考えるが、私たちはどのように”機能”するかを一番に考える。」


↑どう見えるのかではなく、どう「機能」するかを常に考える。

ジョナサンはテクノロジー製品に限らず、世の中の物体はすべて雑にデザインされていると考えており、二流のデザイナーがそれに気づかないように、製品を使う消費者も特にそれを気にしていないと述べています。

「デザインとは、物体の前に座った時、デザイナーの “伝えたいこと” がひと目で分かるところまで落とし込まなければなりません。それを作り出すためにどれだけの時間を費やしたか、なぜ作ろうと思ったかなどを瞬時に伝えることが重要なのです。」

「デザイナーの定義とは、彼らの世界をどのように見ているかということだ。私がアップルの製品を初めて見た時、それがはっきりと分かりました。」(ジョナサン)


↑物体の前に座った時、何を伝えたいかが瞬時に分かる。それが本当のデザイン。

ジョブズとテクノロジーの未来に情熱を燃やし続けたジョナサンは、ジョブズの葬式のスピーチで次のように述べて、ジョブズとの別れを惜しみました。

「私たちはよく一緒に旅行をしました。ホテルにチェックインして、私は自分の部屋に行きましたが、荷物は入り口の近くに置いておくようにしていました。もちろん、荷物はかばんの中から取り出しません。そのままベットに座っていました。できるだけ電話に近い位置にです。そして、(ジョブズからの)”このホテルは最悪だ。別のところへ行こうぜ!” という電話を待つのです。」


↑ジョブズの葬式でのスピーチ「このホテルは最悪だ。別のところへ行こうぜ、なんて毎回のことでした。」

ジョナサンもスピーチの中で述べていますが、ジョブズは創造性を生み出す「プロセス」を大事にしていたそうです。

テクノロジーの世界では、何年もかけて考えに考え抜いたアイデアを数ヶ月でコピーさせてしまいます。映画の中でもマイクロソフトがアップルのソフトウェアをコピーした時、ジョブズは怒りをあらわにしています。

「ビル、ここですべてを明確にさせてもらおう。お前はオレのソフトウェアを盗んだ! これは法廷で証明できる。そして、お前が作るすべてのプロダクトに対して告訴する。オレはお前に金儲けをさせないことを人生のミッションにしたからな。」


↑「オレ達の苦痛を何だと思ってる。」(Pic by Youtube)

グーグルが独自のスマートフォンを作ると知った時も、エリック・シュミットを呼び出して激怒し、家が近所で仲の良かったラリー・ペイジとの関係も悪化し始めました。

ジョブズはビジネスと技術の歴史の中で、何かを発明して10円も儲けられなかった発明家が溢れていることを理解していたため、新しい発明やビジネスする苦労を簡単にコピーされてしまうことには、絶対に我慢できなかったのではないでしょうか。

これに関しては、ジョナサンも同じ考えで、他社がアップル製品をマネすることに関して次のように述べています。

「これはコピーではなく、泥棒です。彼らは私たちが家族と共に苦労した時間を平気で盗んでいるのです。このようなことに関してもっと真剣に考えていかなければなりません。」


↑アップルは時間を盗んだサムスンに対して、賠償金を勝ち取ることに成功している。

現在、アップルの物事を徹底的に考え抜く精神は、テクノロジーやビジネスの枠を超えて、様々な業界の人の指標になっています。米国バスケットボール界のスーパースター、コービー・ブライアントもその一人で、アップルの哲学を学ぼうと本社を訪ねました。

「彼らが何者なのか?なぜこのようなプロダクトを作ろうと思ったのか、知りたくなってアップル本社を訪ねたんだ。ジョナサンに話を聞いたんだけど、もの凄く興味深かった。彼は明確なゴールと情熱を持っていて、ものすごくハードに働くことで、そこにたどり着こうとしている。」

「私自身も同じことを考えてみたんだ。どのように試合の準備をして、どのようにゲームを作っていくか。それは彼らがプロダクトを作ることと同じなんだ。彼は完璧なプロダクトを作ろうともの凄く細かいことを気にしている。私も完璧な試合をするために、一瞬一瞬の動きに気を配らなければならない。」(コービー・ブライアント)


↑コービー・ブライアント「完璧なプロダクトを作るのも、完璧なゲームを作るのも同じこと。」(Keith Allison:Flickr)

アップルが作ったプロダクト、レッドブルが行っているマーケティング、不況になればなるほど成功事例をマネして何とか自分たちのものにしようとする企業が増えてきますが、彼らの情熱を考慮すると、誰でも簡単に足を踏み入れてよい領域ではないのかもしれません。

ジョブズはイノベーションを起こすためには、もの凄い苦痛を乗り越えなければならないことを自分の経験上から知っているため、「起業家にとって一番大事なことは何ですか?」という問いに対して次のように答えています。


↑ジョブズ「情熱がない限り、理性のある人は途中で諦めてしまう。」

「多くの人が自分たちがやっていることに対して、情熱を持っていると言いますが、それは間違いなく正解です。なぜならそれはもの凄く苦痛を要するもので、情熱がなければ、ほとんどの理性のある人は諦めてしまいます。さらに、その苦痛は持続的に続くため、情熱がなければ、絶対にどこかで諦めてしまうのです。」

やはり、企業が存続していくには、「情熱」があるかないかが一番大きく、資金源や技術力はそれに比例して拡大していくのではないでしょうか。

(Eye Catch illustration by Leading Company)

/INSANELY_GOOD