January 24, 2020
シリコンバレーの経営陣は絶対に子供にスマホを使わせない「圏外で過ごす時間の長さが、人生を決める。」

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アマゾンの理念の一つは、買い物に関する意思決定を簡単にしてあげることだと言います。

ユーザーの個人データは21世紀の石油とも言われますが、アマゾンやグーグルなどのサービスを使えば使うほど、良くも悪くも、AIが意思決定を代行してくれるようになり、人間が自らの意志で意思決定をするという場面は、確実に少なくなっていくのでしょう。

例えば、スマホが存在していなかった15年前であれば、友達と食事を取ろうと街を歩いていたとしたら、何となくの直感で良さげなお店に入っていました。

しかし、現在では、必ずと言っていいほどグーグルでお店を検索し、そこでヒットしたRettyや食べログの星の数を見て、意思決定をしていきます。


↑もう直感ではなく、AIが教えてくれる★の数でお店を判断している。

それに加えて、購入履歴からアマゾンが商品をレコメンドしてくるのはもちろんのこと、週末の予定や旅行先もグーグルが教えてくれる行き先。

人間関係はフェイスブックのアルゴリズムによって構築され、エンターテイメントはネットフリックスやスポディファイのAIが決めます。

さらには、自分が進む方向ですらも、「500m先を右に曲がれ」などとグーグルマップに指示されると言ったように、既に多くの意思決定がAIに委ねられていることを多くの人が感じていることでしょう。

全世界で800万部を突破し、中田敦彦さんのYouTube大学でも取り上げられたサピエンス全史の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、最近新たに出版した「21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考」という本の中で、今後は外部のスマホだけではなく、人間の内部にまで、どんどんチップやセンサーが埋め込まれていって、人間の感情がハッキングされていくだろうと警告を鳴らしています。


↑「500m先を右に曲がれ」と歩く方向すらグーグルに指示されている。

例えば、アップルウォッチ1つ取ってみても、脈の速さや心拍数など、既に多くの身体の情報が収集されています。

また、よくカスタマーサービスに電話をかけると、「この電話は、品質改善、社員トレーニングのため録音しています。」というメッセージが流れるのが当たり前になってきましたが、もちろん、こういった会話からも、僕たちのデータが集められていることを忘れてはいけません。






↑確実に色々なところから情報が吸い上げられている。

よく、芸術家や音楽家の仕事は、人々の感情を動かすことだから、こういった仕事は、AIには代行されることはないと言われます。

僕たちがミスチルや米津玄師の歌を聞いたり、村上春樹の小説を読んだりして感情移入するのは、作品の中に自分を見出し、特定のシュチュエーションと重ね合わせるからなのでしょう。

しかし、これからは、人間の感情のデータを持った人工知能が、失恋した時は、その人の感情のデータを元に、その人に一番合った失恋ソングを作ってくれたり、その人が一番面白いと思う小説を村上春樹よりも鋭い視点で書いてくれるようになるかもしれません。

スティーブ・ジョブズでさえ、子供にテクノロジーは使わせない。



確かに、こういった形でAIがすべてを決めてくれれば、生活はどんどん便利になっていきます。

もし、その人が日用品や服に特にこだわりがなければ、自分にとってベストなもの、もしくは、世の中の鉄板でAIが決めてくれれば、無駄な判断に時間を使わなくてもよくなる。

ところが、AIに面倒なことを色々判断してもらう分、逆に「自分は人生を通して、こういったことをやりたい。」、「生活の中において、ここだけは絶対に譲れない。」という部分をしっかりと持っていないと、本当は自分の意志で決めなければいけないところまで、AIに決められるだけの人生になってしまうでしょう。




↑便利だけれど、気づけば人生の目的までAIに決められている。

例えば、ひと昔前であれば、子供が医者になるために高いモチベーションを維持しながら、勉強し続けることは、今よりも簡単でした。

現在では、子供が医者になりたいと思ったら、まずはそれをグーグルで検索する。

すると、医者になるためには、こういった学校に入って、これだけのテストに合格し、その後も、凄い競争を勝ち抜かないと医者にはなれないことが分かってしまうため、その場で医者になることを諦めてしまう子供も多いのでしょう。

これはもう、AIに「あなたはもう医者にはなれません」と人生の選択肢を奪われているのと変わりません。


↑ネットは知らなくて良いことまで分かってしまう。

また、アメリカで独身の男女のマッチングをしているイーハーモニーというサービスは、既に全米の2%の結婚、1日120組の結婚に関わっており、人生のビックイベントである就職や結婚までもが、どんどんAIに決められる時代がすぐそこまでやってきています。

恐らく、こういったアルゴリズムがすべてを判断する世界を、一回ぶっ壊して、外の世界に出ないと、人間としての次のステップには行けないのでしょう。

それを一番良く理解しているヤフー、グーグル、アップルなどのシリコンバレー企業の経営幹部、もしくはエンジニアは、自分の子供をテクノロジーとは無縁の古き良き伝統的な学校に通わせます。




↑テクノロジーの凄さ理解している親は、子供にテクノロジーは使わせない。

こういった学校では、木製のテーブルを囲んで、料理や編み物をさせ、中学1年生までは、テクノロジーとは一切無縁の生活を送るのだそうです。

あのiPhone、iPadを生み出したジョブズでさえ、子供にはテクノロジーを制限していると言いますから、便利さを一番理解している彼らだからこそ、テクノロジーは便利さと引き換えに、自分で何かを生み出す喜びや創造性を奪ってしまうことをよく知っているのでしょう。

電波の入らない圏外に行った時、人は本当の意味でクリエティブになる。



電波の入るエリアを「圏内」、電波の入らないエリアを「圏外」と言います。

現在の世の中の構造から考えれば、電波の繋がる圏内で過ごす時間が増えれば増えるほど、情報の奴隷になって、自分の未来をAIに決められてしまう可能性が高いのだと言える。

逆にこれからは、キャンプをしたり、ネットの検索ではたどり着けないところを旅したりするなど、電波の届かない圏内で過ごす時間から生み出させる付加価値は、どんどん上がってきます。

旅行に行くとしても、グーグルの検索でたどり着くような「バルセロナおすすめスポット21選!」を参考にしていては、所詮まだアルゴリズムの世界から抜け出せておらず、行く前から大体知っていたことを感情でタグ付して帰ってくるだけになってしまうでしょう。


↑有名スポットに行って感情をタグ付けするだけでは意味がない。

ほぼ無計画で出発する旅行ほど、効率が悪いものはありません。

でも、実際、10年、20年経っても忘れられない出来事というのは、非効率の中から生まれた偶然に導かれたものであって、決してアルゴリズムに「ここに行ったほうがいい!」と勧められたものではないのだろう。

村上春樹氏は、旅の体験をまとめたエッセイ集の中で、「ラオスにいったい何があるのですか?」と経由地のベトナムで尋ねられた時のことを次のように振り返っています。

「そう訊かれて、僕も一瞬返答に窮しました。言われてみれば、ラオスにいったい何があるというのだろう?でも実際に行ってみると、ラオスにはラオスにしかないものがあります。当たり前のことですね。旅行とはそういうものです。そこに何があるか前もってわかっていたら、誰もわざわざ手間暇かけて旅行になんて出ません。」


↑何があるか最初から分かっていたら、わざわざ手間をかけて行く必要はない。

また、メルカリの創業者である山田進太郎氏は、メルカリ創業前の2012年に5大陸23ヵ国の旅に出かけ、毎日新しいものに触れながら「インプット過多、アウトプット過少」の状態になったことが、新しいものを生み出したいというモチベーションを生み出す大きな要因になったと述べています。

ネットが繋がる圏内というのは、情報が溢れているようで、自分が見たいという思う情報しか見えるようになっていない。

そう言った意味では、村上春樹氏や山田進太郎氏がネットのつながらない圏外で見つけたような、本当に自分に必要なものというのは、ネット上では決して見えないようになっているのかもしれません。


↑圏外のインプットが入ってきた時、人は本当に創造的になる。

哲学者の東浩紀さんは、著書「弱いつながり 検索ワードを探す旅」の中で、旅先では新しい情報に出会うのではなく、新しい欲望に出会うことが大切だと述べています。

複製できる情報は圏内に消費できないほどありますが、村上春樹氏や山田進太郎氏が圏内で出会った新しい欲望こそが、ネット上では決して見つからない本当に自分に必要なものなのだろう。

「人間らしくない生活」をしている人が、どうやって、「人間にしかできない仕事」をするのか?



圏外へ行く時間を増やすことに加えて、圏内での過ごし方も変えていかなければなりません。

よくAIの話をする時に、人間にしかできない仕事という話が出てきますが、夜更かしをして、添加物塗れの食品を食べ、PCの前に1日中張り付きながら、「人間らしくない生活」をしている人が一体どうやって「人間にしかできない仕事」をすると言うのだろう。

そういった意味では、これからは、食事、睡眠、そして、運動など人間の活動の中で当たり前のことを、当たり前にやることが、想像以上に重要になってくるのではないでしょうか。


↑圏内ではとにかく人間らしい生活をする。

最初の方で、ご紹介した全世界で800万部を売る大作「サピエンス全史」を書き上げたユヴァル・ノア・ハラリ氏は、AIに囲まれた世界から抜け出すためには、瞑想をすることが大切だと述べています。

ハラリ氏も、2000年から毎日2時間の瞑想をしており、瞑想をしていなければ、サピエンス全史という大作は書けなかったのだそうです。

もう既にAIが創った音楽や小説は存在する。

実際に、AIが創った音楽や小説を聞いたり、読んだりしてみると、このレベルのものが人間の力を借りずに作られたのは凄いと思いますし、これからコンテンツのクオリティーはどんどん上がっていくのでしょう。


↑瞑想している間だけは、圏外に行ける。

しかし、AIがつくったコンテンツが良くできているなと思えば、思うほど、やはり芸術家にとって一番重要な心というか、魂みたいなものが抜け落ちているような気がしてなりません。

恐らく、僕たちがまだそういった感覚を持てるのは、まだ2020年の段階では、僕たちの感覚がアルゴリズム化された世界には完全に染まっていないからだろう。

このまま圏内で過ごす時間が増えれば、就職や結婚相手がアルゴリズムによって決められるのはもちろんですが、近い将来、AIがつくった音楽や芸術を見たり聞いたりした時でさえ、心が抜け落ちていることに気づかなくなってしまう。

圏外こそが21世紀の楽園であり、これからは圏外で過ごす時間の長さが、その人の人生の価値を決めていく。

テクノロジーを一番理解している、シリコンバレーの経営者がそれを一番理解しているのだろう。

参考書籍

■ハンス・ロスリング&ファニー・ヘルエスタム「私はこうして世界を理解できるようになった」青土社、2019年 ■ユヴァル・ノア・ハラリ「21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考」河出書房新社、2019年 ■佐々木俊尚「時間とテクノロジー」光文社、2019年 ■マヌーシュ・ゾモロディ「退屈すれば脳はひらめく―7つのステップでスマホを手放す」NHK出版、2017年 ■丸山 俊一「AI以後: 変貌するテクノロジーの危機と希望」NHK出版、2019年 ■ジョージ・ギルダー 「グーグルが消える日 Life after Google」SBクリエイティブ、2019年 ■クリストファー・スタイナー「アルゴリズムが世界を支配する」KADOKAWA、2013年 ■奥平 和行「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」日経BP、2018年 ■村上 春樹「ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集」文藝春秋、2018年

/KENGAI