September 11, 2015
ビル・ゲイツなど、大富豪の読書量は、年収300万円の人の38倍「でも、有名になりたくて、仕方がないミーハー著者の本を読んでも何も変わらない。」

(イラスト by リーディング&カンパニー)

ある調査によれば、20代、30代のビジネスマンは1ヶ月平均0.26冊の本を読むのに対し、30代で年収3000万円の人は平均9.88冊の本を読むのだと言います。その差は約38倍ですが、アメリカの調査でもビル・ゲイツやウォーレン・バフェットのような大富豪が1日30分以上本を読むのに対して、年収300万前後の人たちの中で1日30分以上の読書をしていたのは、たったの2%しかいなかったそうです。日本マイクロソフトの代表を務め、ビル・ゲイツと共に働いた成毛眞さんは、周りの経営者やクリエティブな人の中で、本を読んでいない人はおらず、ビル・ゲイツのような優秀な人達に共通していることは、「良い本」を「大量」に読んでいることだと言います。(1)


↑優れている人は、本を読む量が一般人の38倍。(イラスト:リーディング&カンパニー)

読書とは、「自分はまだまだ知らないことがたくさんあるなぁ」ということに気づくための行為であり、その人と話せば、その人の読書量やどんな本を読んでいるかが分かるとよく言われます。確かに自分の苦労話を2時間も、3時間も話したり、スポーツの話や金儲けの話が中心の人たちは、ユーモアのセンスが一切感じられず、会話にはその人の考え方や頭の回転の速さがよく表れていると言えるでしょう。

本はただの活字かもしれませんが、そこから遠い異国の風景を思い浮かべたり、目に見えない理論や哲学を見極めるための「想像力」が必要になるため、本を読む・読まないという行為はその人の品格を表し、読書をする人が、電車の中で化粧をしていたら周りからどう思われるか、真夏に幼児を車の中に長期間放置していたらどうなるかなどを想像できないとは考えにくく、読書をするかしないかが、その人の品格を表すという表現はある意味的を射ていると言えます。


↑本を読む・読まないという行為は、その人の品格を表す。(image_flickr_Emilien ETIENNE)

ひと昔前まで、精神力とは肉体的にタフであるとか、気合が入っているなどの「根性」とほぼ同じ意味で使われていましたが、今の時代、このような精神力を求められることは少なく、知識をベースにして、自分の脳で物事を考え、価値観を決めていく力が、どの業界でも求められ始めています。

世の中には、地頭が良いと言われる人たちがいます。しかし、残念ながら、地頭は親や生まれた環境で決まってしまうため、鍛えることができず、遺伝子研究の権威である村上和雄さんによれば、人間の遺伝子は99.5%は同じで、人の能力に差が生まれるのは個々の遺伝子をどれだけ「スイッチ・オン」の状態にしているかだけだと述べており、現在持っている地頭をどこまで使いこなせるかは、読書などの訓練によって大きく変わってくるようです。(3)


↑個々の遺伝子がどれだけ「スイッチ・オン」の状態になっているかで、能力に大きな差が出る。

村上さんは遺伝子を「スイッチ・オン」にする方法として、一流の人物と触れ合うことが大事だと述べていますが、実際、一流の人に会ったり、一緒に仕事をする機会は滅多になくても、一流の人たちの本であれば、誰でも読むことができます。

例えば、スティーブ・ジョブズの伝記を読めば、ジョブズに自分の遺伝子をオンにしてもらうことができ、ある種このような先駆者の言葉が自分の遺伝子を一つずつオンにしていき、これが繰り返されて複数の遺伝子がオンになることで、本人の長期的な姿勢や考え方が変わってくるのではないでしょうか。


↑ジョブズの伝記を読めば、ジョブズにあなたの遺伝子を一つオンにしてもらえる。(Antti Kyllönen by Flickr)

最近では本が売れないとか、読書人口が減っているという問題があります。しかし、別の大きな問題として、本自体の質もどんどん下がってきており、出版科学研究所のデータによれば、出版市場全体の売り上げ減少には歯止めがかからず、1996年の2兆6564億円をピークに悪化の一途を辿って、2014年の規模は1兆6065億円と、約20年前と比べて4割も減少しています。

出版社は何とか売上の低下を食い止めようと発行部数の少なさをタイトル数を増やすことで補い始め、一冊の製作期間を短くして、コストを下げることで、今まで1ヶ月3タイトル程度の刊行ペースだったものを10タイトル、15タイトルと増やして、安く、早く、そして、大量にビジネス書や自己啓発本が作られては、書店の入り口に積まれていきました。(4)


↑本の質よりも、大量に安く、そして早く作られていく本。

「ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない」の著者、漆原 直行さんは2003年を機にビジネス書や自己啓発本が一気に増え始めたとして、2002年までは、ビジネス書と言えば、大前研一や落合信彦など、経験豊富なおじ様たちの本が一般的だったのに対して、2003年から、本田健、神田昌典、勝間和代、本田直之、そして、小山龍介など個性的なビジネス作家が次々と登場し、「キャリア・アップ」、「ライフ・ハック」、そして「脱社畜・ノマド」などのブームを作っていったと述べています。

例えば、勝間和代氏や本田直之氏は文芸の世界では考えられないスピードで本を出版しており、中には良書もありますが、内容が同じような本も数多くみられ、彼らの一冊、一冊がアメリカの作家、ダニエル・ピンク、マルコム・グラッドウェル、そしてトーマス・フリードマンなどの本のように、内容と主張が濃い本にはどうしても思えません。


↑同じような主張の焼き回しではなく、本、一冊、一冊、明確な主張があるべき。

さらに、不況になれば、なるほど、ビジネス書は売れるとも言われおり、「あなたを変える」、「絶対にうまくいく」、「効率10倍」、「20代のうちに」、そして「課長になったら」などのタイトルや帯が次々と作られています。このような本は、読んだ直後はエナジードリンクを飲んだようにやる気満々になりますが、翌日になると普段と同じ生活に戻ってしまい、読者は麻薬のように次からはもっと強い刺激がほしいという欲求が出てくるため、ビジネス的には非常に美味しい市場なのでしょう。(5)

本来、本を出す目的は世の中に対してどうしても言いたいことがあったり、すごい実績があってそのノウハウの価値が認められて出すものなのですが、最近のビジネス作家は自分のセルフ・ブランディングのために出すことが多く、先ほどの漆原直行さんはこのような本を「有名になりたくて、仕方がないミーハー著者のオナニー本」だと批判しています。(6)


↑自己啓発本など麻薬やエナジードリンクと変わらない。

すぐに役に立つ本は、当然のことながらすぐに役に立たなくなると言えるでしょう。本当に頭の良い人は、仮に「金持ち父さん貧乏父さん」を読んでいても、その手の本を知っていることが自体が自分のレベルを下げるため、「はぁ?何それ?」という感じで、知らないふりをしますし、今後も薄利多売のビジネス書が書店に積まれるようにであれば、日本人の物を考える思考力はどんどん低下していってしまいます。

「本を読む時間がない」というには、自分が貧乏人だと言うのが一番分かりやすい言い訳ですが、日本マイクロソフトの代表を務めた成毛眞さんは、本を読むためにすべての移動にタクシーを使っているそうで、1日5000円で2時間、年間100万円で400時間を買えるのであれば、安いものではないかと言います。


↑「2時間」を5000円で購入する。時間なんて作ろうと思えば、いくらでも作れる。

最近では、本なんか読まなくても、ネットで十分情報を手に入れられるという人達も多くいます。だけど、普段から自分がフォローしている人たちは皆同じ情報を手に入れており、そんな情報を知ったところで大した価値はありませんし、最近のWebニュースは「ざっくり言うと」など短い文章で歯切れよく読ませてくれるため、このような形式に慣れてしまうと、長文を読む体力がどんどん無くなっていってしまうでしょう。(7)


読み手の体力が下がっているから、作り手もユーザーに合わせてコンテンツを作成し続けるため、簡単に笑わせる、簡単に感動させるコンテンツを量産し、4000字、5000字の記事でも、「文章が長い!」と文句を言うことがWebの世界では当たり前になってしまいました。


↑ユーザーも長文を読む体力が、どんどん無くってきている。

1940年にアメリカで書かれた「本を読む本」という本はもう何十年も読み継がれている名書ですが、この本の著者は本から知識を得るためには、自ら本に対して問いかけをし、その答えを本の中から見つけ出す、積極的読書の姿勢が不可欠だとして、次のように述べています。

「むずかしいくらいの本でなくては、読者にとって良い本だとは言えない。そうゆう本に向かって読者は背伸びをし、自分をそこまで引き上げなくてはならない。(中略) ちょっと見ただけでは、とても歯がたたないと思われるものに手をのばし、自分を引き上げることのできる技術を身につけることが要求されるのである。」(8) 


↑難しいぐらいの本でなければ、読者にとて良い本だとは言えない。

例えば、レストランに行って長時間待たされれば、誰でも「もっと従業員を増やすべきではないか」、「何か新しいシステムを導入すべきではないか」という”問い”が生まれ、それに対して自分なりの回答を導きだそうとしますが、お店で実際に働いている人たちは、「自分は仕事をしている」と意識に囚われ、なかなか仕事の中で”問い”を見つけ出すことができません。

これは本を読む時も同じことで常に著者の言っていることに対して、自問自答していかなければ、自ら答えを導きだそうとする積極的読書は行えず、どんな優秀な頭脳を持っていても、著者に対して常に「ツッコミ」を入れながら読まなければ思考力は鍛えるのは難しいと言えます。(9)


↑本に書いてあることをすべて信じるのではなく、「これはただの自慢だろ!」という感じで、ツッコミを入れながら読む。

本を読むことに関して、非常に面白いデータがあります。

1974年、フランスのブルターニュ半島のテレビ塔が過激派によって破壊され、その後、約一年間にわたって、この地方ではテレビが見られなくなってしまいました。すると、人々は本を読むようになり、それによって村の人々のコミュニケーションが増え、人々のつながりが親密になったそうですが、現在の日本ではこれと全く逆のことが起きてしまっています。

本を読む・読まないが人間関係を築く上で重要なのは、会話の質が違うからであり、もし恋人や親しい人との距離を縮めたいのであれば自分が本を読む、もしくは相手に本を読ませ、「会話の質を上げる」という方法が一番の近道なのかもしれません。(10)

サイバーエージェントの藤田晋さんも、若い頃、先輩の社長と話を合わせたくて、「ビジョナリー・カンパニー」を必死に読んだと何かの本に書いていました。


↑人との距離を縮めるためには、自分が本を読むか、相手に本を読ませる。

読書とは所詮、ただの活字に過ぎませんが、頭の中でどんどん映像化されて自分の声になっていくため、実際は、自分の読みたいものを、読みたいだけ読んでいれば良いのかもしれません。

ただ、勝間和代さんの本を読んで効率良くビジネススキルを身につけることで、リーマンショック前に必要とされた優秀なビジネスマンになれたとしても、新しい時代に必要とされるクリエーターや起業家にはなれないのではないでしょう。

漫画家には読書家が多く、手塚治虫さんやワンピースの著者である尾田栄一郎さんも大の読書家で、漫画を読む側は想像力を必要としないのに対して、描く側は人の表情や背景など、相当な想像力がなければキャラクターなどを描けないため、本の活字から新しいことを想像する力はこれからの時代一番必要なスキルになっていくのかもしれません。


↑想像力が必要な人たちは、「今すぐ役に立たない本」を大量に読む。

フランスの美食家 ブリア・サヴァランは「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か言い当ててあげよう。」と言いましたが、これは恐らく本も同じことで、成毛眞さんは、35歳でマイクロソフトの社長になれた理由を、「徹底して他の人が送るような生活をせず、他の人と同じような場所には行かず、他の人と同じような本を読まなかったからだ。」と述べています。(11)


↑どんな本を読んでいるか言ってみたまえ。君がどんな人か言い当ててあげよう。

不況になれば、なるほど、自己啓発本の麻薬にハマり、すぐに役に立つとささやくビジネス本が量産されていきます。

今すぐ役に立たないことを命がけやっている人が、本当の日本の宝」と言われるように、歴史、文化、料理、そして経営学の論文など全く年収アップなどに関係ない本をバラバラに読んでいくことで、様々なものが混ざり合い、その知識が金銭的にも、生活的にも人生のクオリティーを上げていくのではないかと思います。

ビル・ゲイツや尾田栄一郎さんが、本田健氏の自己啓発本や「金持ち父さん貧乏父さん」を読んでいる姿はちょっと想像できませんが、みんなが読みそうもない本を読むことが、「庶民」から抜け出す一番の近道なのかもしれません。

参考書籍

1. (本棚にもルールがある—ズバ抜けて頭がいい人はなぜ本棚にこだわるのか/成毛眞) P144 2.(本は10冊同時に読め!/成毛 眞) Kindle P393 3. (読書のチカラ/齋藤孝)Kindle P318 4.(ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない/漆原 直行) Kindle P115 5.(ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない/漆原 直行) Kindle 968 6.(読書で賢く生きる/中川 淳一郎、漆原 直行、山本 一郎) P126 7.(読書で賢く生きる/中川 淳一郎、漆原 直行、山本 一郎) P254 8.(本を読む本/J・モーティマー・アドラー、V・チャールズ・ドーレン) P56 9. (読書のチカラ/齋藤孝)Kindle 1221 10.(本は10冊同時に読め!/成毛 眞) Kindle P748 11.(本は10冊同時に読め!/成毛 眞) Kindle P32

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