October 21, 2018
お金は、後からはついてこない「稼ぐ力が低下すれば、娯楽コンテンツの質は一気に下がる。」

よくスポーツは子供に夢を与えることが大切なので、プロの選手になったらどれくらい稼げるかという話はあまり話題にすべきではないと言われます。

また、プロスポーツを運営するリーグも、そのスポーツをする競技人口が増えれば、自然と競技レベルも上がり、収益性は後からついてくると考えがちですが、プロバスケットプレーヤーの月収は20万円と聞いて、バスケットを始める子供が将来に夢を持てるかと言われれば、それはきっと難しいことでしょう。

2015年にNBL(実業団)とbjリーグ(プロ)が統合されてスタートしたプロ・バスケットボールの「bリーグ」は、まず最初に徹底的に稼ぐことを重視しました。

選手の年収を上げて、バスケに集中できる環境を用意することが、競技人口を増やし、競技のレベルを上げる一番の近道になるだろうと言う、きれいごと抜きの考えで物事を進めていったのです。





実際、世界のサッカーの競技人口が2億5000万人に対して、競技人口が世界一のバスケは4億5000万人と圧倒的に多く、日本のバスケの競技人口もサッカーに次いで、第2位となっており、しっかりと稼ぐビジネスモデルが作られれば、今後大きな伸びが期待できることでしょう。

野球は将棋や囲碁に似た、ピッチャーがどういった球を投げてくるのかを、じっくりと予想しながらゆっくりと楽しむ日本的なスポーツなため、最近の若い人にはあまり人気がありません。

ところが、テレビゲームと共に育ち、スピーディーな動きで「自分が選手を操作しているような感覚」でスポーツを観戦することに慣れている若者たちにとっては、バスケのように守りと攻撃がすぐに入れ代わり、2時間という短時間でスピーディーに試合が進んでいくぐらいのスポーツがきっとちょうどいいのでしょう。





2015年にバスケ協会とリーグが同時に変わり、過去の事例に囚われることなくスタートを切ったBリーグが稼ぎを伸ばすために、とにかくこだわったのが、ホームチームが勝っても、負けても観客が楽しめるエンターテイメント性だったのだそうで、Bリーグの運営に関わった葦原一正さんは次のように述べています。

「まずは徹底的に『収益化』に特化すべきと私は考えていた。なぜなら、稼ぐことは、ビジョンとリーダーシップと人材確保で達成することができるから。いわゆる普通のビジネステクニックで変えることができる。」

「普及していなくても、代表が強くなくても稼げる。そして稼いではじめて、普及や強化に投資できる。『鶏が先か? 卵が先か?』どちらを先に増やすかを考えるよりも、逆転の発想で、仕組み自体にイノベーションを起こすことが、この世界で必要だと考えていた」(1)





「おいしいメインディッシュのみを出しているレストランよりも、添えものや室内外の雰囲気にもこだわっているレストランこそ、高評価を集めていますよね。スポーツビジネスにも同様の理論が当てはまります。選手や試合がメインディッシュであり、ショーなどの演出が添え物、そしてアリーナがレストランの雰囲気なのです。」

日本のバスケを観戦する上で、野球とサッカーと大きく違うのは、本当に近くで身体のぶつかり合う音が聞こえたり、キレのある動きが見れたりする迫力で、試合のチケットは「近く」て、「迫力」の度合いが大きく感じられるコートに近い席から順に売れていくのだそうです。









お金の稼ぎ方とセックスの仕方だけは学校で教えてくれず、お金を稼ぐことを優先させるなんて言うとそれだけで否定的になってしまう人も多いことでしょう。

しかし、お金を稼ぐことを目的から外してしまい、リーグにお金が回らなくなると選手も運営会社も常にギクシャクし始め、子供たちに夢を与えることや良い人材を確保して、選手の育成に投資することもできなくなってしまいます。

ここ十数年で、お笑い芸人とミュージシャンの地位が逆転し、芸人として成功すればしっかりと食べていける職業としての可能性が出てくると、多くの若者がお笑い芸人を目指すようになり、業界のレベルもどんどん上がっていきました。







人間が生きる目的は血液をつくることではないけれど、血液がなければ人間が死んでしまうのと同じように、短期間で日本のバスケットを野球やサッカーと同じ地位に持っていくためには、従来の考えである「バスケをする人を増やす」→「日本のバスケが強くなっていく」→「バスケが収益化されていく」というプロセスを真逆にする必要があるのでしょう。

世界で最も競技人数が多く、スラムダンクがキッカケで多くの人がバスケを始めたのにも関わらず、今までバスケがイマイチ盛り上がりに欠けていたのには、変に儒教の概念などが邪魔をして、「稼ぐ」という部分を疎かにしてきてしまった結果なのかもしれません。



バスケットの本場、アメリカのNBAリーグでは、自分たちのことをただNBAという組織を運営する機関ではなく、自らアリーナを持ち、そこで行われている出来事をビジネスとして売る「メディアカンパニー」だと考え、スポーツを大きな産業としてしっかりと稼ぎを生み出すことで、試合や選手のクオリティを保っているのだそうです。

フランスの思想家、ジャック・アタリは、すべての問題がITやAIで解決された時、世の中の需要として残り、さらに大きな売上が期待できるのは、娯楽(エンターテイメント)と保険だけなのだと断言しています。











そういった意味で、よりエンターテイメントのクオリティーを上げていくためにも、今後は今まで以上に「稼ぐ力」が求められてくることでしょう。

稼ぐ力が停滞するということは、エンターテイメントのクオリティーが低下することに直結するのですから。

※1. 葦原 一正「稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである」あさ出版、2018年 P7

参考書籍

◼︎葦原 一正「稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである」あさ出版、2018年 ◼︎島田慎二「千葉ジェッツの奇跡 Bリーグ集客ナンバー1クラブの秘密」KADOKAWA、2017年 Kindle

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