中国人はコーヒーではなくお茶を飲みますが、スターバックス元CEOであるハワード・シュルツは、近い将来、スターバックスの中国の売上は間違いなくアメリカを超えるだろうと断言しています。
何でも、かのアリババの創業者であるジャック・マーは、コーヒーは嫌いだけど、スターバックスは大好きなのだそうです。
ハワード・シュルツの有名な言葉に、「私たちはコーヒービジネスをしていると言った覚えはない。人間ビジネス(People Business)をしているのだ。」と言ったものがあり、確かに世界中で多くの人がコーヒーを飲みますが、コーヒー一杯が世界中に2万3000店舗を持つグローバルビジネスになるとは誰一人として想像できませんでした。
↑私たちはコーヒービジネスではなく、人間ビジネスをしている。
スターバックスはアメリカ企業では初めて健康保険をすべての社員に提供し、当時、健康保険を提供するのにかかった費用は、コーヒーの豆の費用よりも高かったのだと言います。
しかし、この「顧客に幸せを与える前に、従業員に幸せを与える」という考えこそが、スターバックスのマーケティング戦略であり、現在では健康保険の他に会社が大学の授業料を負担、中国では会社が家を提供するなど、会社が従業員に与える「Give」が増えれば増えるほど、従業員がお客さんに与えるサービスの質が上がっていくのだとシュルツ氏は言います。
さらに、シュルツ氏は全パートナーの誕生日と入社記念日に署名入りのカードを送り、会社の規模がかなり大きくなっても、何人かで分担してカードを仕上げました。
何か裏があるとカードの受け取りを拒んだ社員がいても彼は気にしなかったそうです。(1)
↑顧客に幸せを考える前に、従業員の幸せを考えた事がスタバの成功の秘訣。
これに加えて、シュルツ氏がスターバックスの経営から離れ、2008年頃に経営が悪化し始めると、シュルツ氏は自動エスプレッソマシーンの使用をあえてやめることを決意します。
きっと、スターバックスが提供すべきものは効率性によって失われたストーリーではなく、人間の手とマニュアルの機械が生み出す物語だったのであり、お客さんはコーヒーにお金を払うというよりは、見えないストーリーにお金を払っているのでしょう。
↑テクノロジーが進化すればするほど、ストーリーに投資しなければビジネスは成り立たない。
最近、アメリカや中国では、クレカやスマホで決済するのが当たり前で、人工知能などが運営する無人の店舗なども普及しつつあるのはご存知の通りです。
日本でも現金を使わずSuicaなどで簡単に支払いが完了してしまうことで、お店での人間味のあるやり取りが失われてしまっているなどという声をよく聞きます。
スターバックスの多くの顧客もカードやスマホで決済する人が多く、自動エスプレッソマシーンが店内のロマンを失わせたように、テクノロジーが世の中に普及すればするほど、スターバックスはいま以上のプレミアムな物語と一緒にコーヒーを提供していかなければならないでしょう。
こういった時代背景を見通して、シュルツは通常のスターバックスよりも豪華でディズニーランドのようなストーリーを提供する「スターバックス・リザーブ® ロースタリー」をオープンしています。
↑時代が変われば、スタバのコンセプトもどんどん変わっていく。
スターバックス・リザーブのコーヒーや施設は通常のスターバックスに比べて何倍も豪華なことは間違いありませんが、何よりプレミアムなのは、保険、大学の授業料、そして、家をサポートしてもらいながらスターバックスで働く、従業員の方々そのものなのでしょう。
最近では、プレミアムスイーツやプチ贅沢など本来の価値に一段階上乗せした商品がどんどん増えています。
でも、価値を上乗せする部分のプライオリティーは、商品よりも、人の方が圧倒的に上であり、世の中が不安になればなるほど、僕たちはプレミアム商品以上に、「ヒューマン・プレミアム」にお金を払っていくことになるでしょう。
↑不況になればなるほど、人々は「ヒューマン・プレミアム」にお金を払うようになる。
「ヒューマン・プレミアム」が加われば、コーヒーを飲まないはずの中国人が、コーヒーをお茶のようにガブガブ飲みはじめてしまうのですから本当に不思議なものです。
きっと、コーヒーなんて「ヒューマン・プレミアム」に付いてくるただのおまけなんだろう。