April 4, 2019
20年間、自分を捨ててお手本を真似し続けた宮崎駿。「型」が無い人に「型破り」なことは絶対にできない。

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中国の深センから電車で1時間ほど行ったところに、約8000人の画家が住む大芬(ダーフェン)という場所があります。

ここでは、ホテルの受付や部屋に飾ったりする名画の複製(コピー)が大量につくられており、世界の複製画の約6〜7割がつくられていることでも有名です。

名画のコピーに限らず、少し前の中国と言えば、「theコピー大国」でした。

ブランド物からソフトウェア、そして、アニメのキャラクターまで、様々なものをコピーすることで成長してきましたが、中国のシリコンバレーとも呼ばれる深センの街を歩いてみると、もうコピー大国といったイメージはありません。












↑昔の中国はコピー大国だったが、現在の深センにコピー大国のイメージはない。(LC.inc)

ECのアリババはアマゾンを、検索エンジンのバイドゥはグーグルを、家電メーカーのシャオミはアップルをといったように、いまや世界的な企業となった中国のIT企業も当然のことながら、アメリカの猿真似から始まりました。

ところが最近では、中国企業が海外のマネすることで身につけた技術を武器に、世界初のオリジナルの物をつくり始め、テクノロジーの専門誌「WIRED UK」は2016年に「It’s time to copy China(ついに中国をコピーする時代がやってきた)」と雑誌の表紙で堂々と伝えています。

特に、日本では「マネをする」、「パクる」という言葉は圧倒的にネガティブに捉えられることが多く、オリジナルにこそ真の価値がある、0から1を生み出すことこそが起業家の仕事などと思われがちです。

正解が決まっている学校のテストをカンニングするのはダメかもしれませんが、勝ち負けがはっきりしているビジネスやオリジナリティが求められる芸術の世界では、まず成功している人のマネをどんどんしながら「型」を作り、自らその型を破ることで、「型破り」なことを行っていくというステップを踏まなければなりません。












↑ついに中国をコピーする時代がやってきた。(LC.inc)

ジブリの宮崎駿監督は20年間、日本のアニメーションに大きな影響を与えた映画監督、高畑勲さん(故人)の下につき、考え方や立ち振る舞い、話し方、そして、字の書き方までを徹底的にマネることで、表現者としての基礎を築いていきました。

また、スタジオジブリで修行していた映画プロデューサーの石井朋彦さんは入社当時、ジブリの取締役であった鈴木敏夫さんから、「若いうちは誰も君の言うことなんて、期待していない。まず、3年間は自分を捨てて、おれの真似をしな。」と言われたのだと言います。(1)


↑しっかりとした「型」があるからこそ、「型破り」なことができる。(LC.inc)

かのクリエイターの代表格、米津玄師が「型」の重要性について、次のように述べているのも非常に印象的です。

「俺はオリジナリティー信仰みたいなものが嫌いなんですよ。誰も見たことも聞いたこともないものしか許さない、と言ってしまう感じ。(中略)音楽って、フォーマットじゃないですか。『型』のようなもので成立している部分があるのは事実で、そのなかでいかに自由に泳ぐかじゃないかと。」

「美しいものって、分析して、勉強していった結果、身につくものだと思うんですよね。それをよく理解しないで、“ありのままの自分”とか“素の自分”って気持ちいい言葉でごまかして、自分がどこから生まれてきたのかを考えない。『つまんねぇな』って思います。『“素”って何だよ?』って。」

そう、米津玄師が言うように、「型」がないオリジナリティなんて、本当につまらなくて価値のないものなのでしょう。

100%模倣するつもりで、TTP(徹底的にパクる)を実践。真似できないところが、その人の本当の個性。



そもそも、カンニング(Cunning)という言葉は、日本人がつくった和製英語であり、Cunningの主な意味は「ズル賢い」だと言うことをご存知でしょうか。

誰かが時間をかけて生み出したテクニックをどんどん真似しながら盗んでいけば、短期間でその人と同等のスタートラインに立つことができます。

スティーブ・ジョブズが「素晴らしいアイディアを盗むことを恥じない」と言ったように、成功する人たちは常に手本を探しており、成功者を真似るだけ真似て、どうしても真似できないところが、きっとその人の個性なのでしょう。


↑どうしても、真似できない部分がその人の本当の個性。(LC.inc)

タレントの島田紳助さんは本格的にデビューする前、当時流行っていた漫才をすべて劇場へ見に行き、こっそりとテープレコーダーで録音し、自宅で漫才を全部紙に書きおこして、流行っているものを模倣しながら自分の独自のスタイルをつくっていきました。

ピカソも最初の頃は、ゲルニカのような独創的なものではなく、見たものを忠実に再現する絵を描いていましたが、模倣→破壊→創造を繰り返すことで、キャリアの後期には、ゲルニカや泣く女などのオリジナリティ溢れる世界観を表現できるようになっていったのだと言います。

パリで活動していた画家の藤田嗣治は、ピカソが自分の絵を見に来た時、自分の絵がピカソに見られることを光栄に思うと同時に、自分の得意なところをすべてピカソに持っていっていかれるのではないかと不安になったそうです。


↑模倣→破壊→創造の繰り返し。(LC.inc)

紳助さんの時代は、劇場にテープレコーダーをこっそり忍ばせて、漫才を録音しなければなりませんでしたが、今ではYoutubeなど様々なメディアにお手本が転がっているため、憧れの人に直接会えなくても、その人の真似をすることは十分可能でしょう。

二刀流で知られるメジャーリーガーの大谷選手は、部屋でYoutubeを見ていて「いいな!」と思ったプレーはすぐに外の練習場に行ってマネをしてみるのだと言います。

ピカソや大谷選手のように、その分野でプロの領域に達している人は、他人の優れているところをどんどん盗んで、自分の血肉にし、アレンジすることで新しいものを生み出していきます。

しかし、まだ経験も実績もない人は、中途半端にコピーしようとするのではなく、100%模倣するぐらいの気持ちで、TTP(徹底的にパクる)を実践した方が良いのかもしれません。






↑最初は中途半端にパクるのではなく、TTP(徹底的にパクれ!)(LC.inc)

星野リゾートの星野佳路さんは、経営に教科書はないと言うが、経営の教科書に書かれていることは正しいと断言し、理論をつまみ食いしないで、まずは100%教科書通りにやってみることが大切なのだと言います。

もしかすると、40歳ぐらいまでは、他人を徹底的に真似することで、基礎体力をつけ、そこから少しずつ殻を破ってオリジナリティを追求するぐらいの方がいいのかもしれませんし、むしろ個性やオリジナリティなどは出そうと思って簡単に出せるものではないでしょう。

個性とは、何かを突き止めていく過程で、他人との違いが、自分の中で抑えきれなくなって、外に自然と湧き出てしまうものであり、誰の模倣もしようとせず、ただ「0から1を生み出すことが自分の仕事」など言っている人は、本当に虚しいだけだと言えます。








↑まずは徹底的に真似るところからオリジナルは生まれる。(LC.inc)

文芸評論家の清水良典さんは、著書「あらゆる小説は模倣である。」の中で、村上春樹の小説も、海外の小説の模倣から入ったとして指摘していますし、ネイマールはメッシをお手本にし、マレーシアは「Look East」というビジョンを打ち出して、欧米ではなく日本をお手本にして経済成長を遂げていきました。

真似る力、パクる力こそ、真の学ぶ力だと言えるでしょう。

プログラマーが音楽家から、作家が料理人から何かを学ぼうとした時にこそ、新しいものが生まれる。



同じ業界の人たちを真似たり、アイディアをパクったりすることは成功するための第一ステップですが、ずっと同じ業界からアイディアを仕入れて続けるだけでは徐々に新鮮味がなくなってきてしまいます。

そこで、自分の業界以外のところからアイディアをどんどんパクり、常に斬新なアイディアを生み出し続ける必要があるのです。

例えば、トヨタはレクサスをつくる際に、欧州の高級車を超えるようなものをつくろうと考えましたが、ただベンツやBMWを真似するだけではトヨタが持つオリジナリティが十分に発揮できません。

そこでトヨタは、高級ブランドや高級ホテルを徹底的にリサーチし、デザイナーチームは実際にカリフォルニアの高級住宅街で3年間生活してみることで、異業種の価値観をどんどん模倣しながら、レクサスをつくっていったそうです。




↑自分とは違う業界から、TTP(徹底的にパクる!)を実行した時、真のイノベーションが生まれる。(LC.inc)

また、評論家の中島孝志さんは、ヤマト運輸が宅急便のビジネスを始めるにあたり、同業者である米国のフィデックスやDHLを真似するのではなく、全く異業種である吉野屋の考え方を真似た例を著書「真似する力」の中に書いています。(2)

当時ヤマトに必要だったのは、運送業を効率的に回すためのノウハウではなく、全国で同じサービスを確実に提供できる代理店の獲得でした。その代理店を集めるために、「早くて、安くて、美味しい」を全国一律で提供している吉野家を真似て、「個人、小口、値引きなし」を徹底することで、全国にビジネスをどんどん展開していったのです。

さらに、「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」では、高級料理にファーストフードのビジネスモデルを掛け合わせて回転率をあげることで、本格的なフランス料理などを安価で提供していますし、別の業界にはあるけど、この業界にはないものを上手く真似た時、画期的なイノベーションが起こりやすくなるのでしょう。


↑高級料理とファーストフードを合体させた「俺のフレンチ」(LC.inc)

しかし、最近では、子供の教育などでも、暗記や詰め込み型の重要性が薄れ、「型」や「お手本」を身体に染み込ませる前から、個性やオリジナリティが求められるようになってきています。

もし、イノベーションやオリジナリティが先人が行ってきたもののアレンジや掛け合わせでしかないのだとしたら、過去の先人の知恵やテクニックを身につけて、すぐに取り出せる状態にしてあるという意味で、暗記力とクリエイティビティには何か良い関係があるのかもしれません。

トーマス・エジソンは小学校中退ですし、堀江貴文さんも大学など行く必要がないと述べていますが、両者とも子供の頃、知識を広げるために、「ブリタニカ百科事典」を暗記するほど読み込んでいたことが共通しています。(エジソンは娘の教育にもブリタニカの暗記を導入した。)


↑大学に行く必要はないかもしれないが、過去の知識は絶対に必要である。(LC.inc)

新しいアイディアとは、既存のアイディアと既存のアイディアの組み合わせ、つまり、パクりとパクりの組み合わせでしかないのでしょう。

孫正義さんは、学生時代に1日5分の仕事で月100万円以上稼げる仕事はないかと考え、「辞書」、「クギ」、「メモリー」などといった思いつくままの名詞を小さなカードに書いて、それを300枚ほど作りました。

そして、300枚のカードの中からランダムに引いた3枚のカードを要素を組み合わせると、何か新しい商品が生まれ、それを毎日繰り返すことで、250個のアイディアを生み出したのだと言います。

その中から一番いいと思った「音声機能付き電子翻訳機」を大学の教授も巻き込んで事業化し、最終的にはシャープと1億円の契約を結び、このお金が日本に帰ってから事業を始める軍資金になったのです。


↑パクりとパクりの組み合わせ=新しいアイディア。(LC.inc)

グーグルは12番目の検索エンジン、フェイスブックは10番目のSNSで、iPadは20番目のタブレットでした。

誰が最初にオリジナルのアイディアを出したかは重要ではなく、一番重要なのは、そのアイディアをどんどん模倣して別のアイディアも組み合わせながら、市場が一番熱した時に誰が一番良いものを消費者に提案できるかということなのでしょう。

まとめ「しっかりとした「型」があるからこそ、「型破り」なことができる」



日本は歴史的に真似をするのが大好きな国でした。古代から江戸時代までは中国から文化、技術、政治制度など様々なものを真似て、明治になると欧米を真似るようになり、外国のノウハウを血肉にしながら、独自の新しい付加価値を生み出してきたのです。

よく先進国には、お手本がないと言われ、日本もそろそろアメリカの真似を辞めて、独自の新しいものをつくっていくべきだと言う声をよく耳にしますが、果たしてそうでしょうか?

確かに、誰しも師匠の「型」を身につけて、「型破り」をする時が来るように、日本がアメリカという一つのお手本を徹底的に真似する時代は終わりましたが、他の国を真似るという行為そのものを辞め、独自の力で新しいイノベーションを起こしていこうなどと考えていては、間違いなくこの国に成長は無くなってしまいます。


↑先進国にお手本はないかもしれないが、パクるべきアイディアは世界中にたくさんある。(LC.inc)

「学ぶ」という言葉は、昔は「まねぶ」と言われ、そもそもの「学ぶ」と語源は「真似(まね)ぶ」から来ているそうです。

そう言った意味で、真似ることを辞めるということは、学ぶこと自体を放棄してしまうということでしょう。

一つの手本を完全にものにして、ある程度の基礎体力をつけたら、今度は3つの手本を同時に真似て、自分の中でブレンドしていくことで、まだ世の中に存在していないオリジナリティが生み出せるようになってきます。

ものまねタレントのコロッケさんは、「真似る」という言葉がネガティヴに取られる中で、真似をすることは一つの勇気であり、「一歩を踏み出すこと」だと言いました。

かつては「コピー大国」と言われた中国の都会を歩くと、様々なストリートカルチャーや独自のビジネスモデルに出くわしますが、これは中国が世界の最新のことを全部徹底的に真似ることで「型」を身につけ、そこから型を破って独自のオリジナリティを全面に出すフレーズに差し掛かっているということなのでしょう。






↑コピー大国、中国から独自のストーリーカルチャーが生まれるフレーズ来ている。(LC.inc)

個性や創造性、そして、イノベーションなど、何も型がない人たち、ましてや子供たちがそのような言葉を口にすればするほど、目標からはどんどん遠ざかっていってしまいます。

だって、「型破り」という言葉の通り、破る型がない人に「型破り」なことなどはできるはずがないのですから。

引用

1.石井 朋彦「自分を捨てる仕事術-鈴木敏夫が教えた『真似』と『整理整頓』のメソッド」WAVE出版、2016年 2.中島 孝志「真似する力」三笠書房、2009年

その他の参考書籍

◆斎藤 広達「パクる技術」ゴマブックス、2009年 ◆コロッケ「マネる技術」講談社、2014年 ◆齋藤 孝「まねる力 模倣こそが創造である」朝日新聞出版、2017年 ◆ 俣野 成敏「一流の人は上手にパクる――仕事のアイデアがわいてくる大人のカンニング」祥伝社、2015年 ◆志賀内 泰弘「レクサス星が丘の奇跡」PHP研究所、2014年 ◆宮崎 正弘「AI監視社会・中国の恐怖」PHP研究所、2018年 ◆ネイマール「ネイマール: 父の教え、僕の生きかた」徳間書店、2014年 ◆陳潤「シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略」ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年 ◆李智慧「チャイナ・イノベーションーーデータを制する者は世界を制する」日経BP社、2018年 山名 宏和「アイデアを盗む技術」幻冬舎、2010年 ◆吉越 浩一郎「君はまだ残業しているのか」PHP研究所、2012年 速水 健朗「ラーメンと愛国」講談社、2011年 ◆沈 才彬「中国新興企業の正体」KADOKAWA、2018年 ◆勝間和代「まねる力」朝日新聞出版、2009年 ◆ジェイソン・カラカニス「エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか」日経BP社、2018年

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