February 12, 2020
普通の人は1日80回スマホのロックを外す「SNSに人生の20%の時間を奪われている事に早く気づけ」

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アップルの調査によれば、平均的なiPhoneのユーザーは、1日80回もロックを解除するのだと言います。(1)

これは1日の稼働時間が15時間だとしても、約11分に一回は、何かしらスマホを見ているという計算で、1日に何度も何度もSNSなどを見てしまうのは、自分の集中力の無さが原因だと思ってしまいがちです。

しかし、グーグルとYouTubeなどの仕組みを作った側の人達からすれば、日々の生活の中で11分ごとにスマホを見てしまうのは、僕たちの集中力の無さが原因ではありません。

スマホに何度も注意を奪われるのは、世界でもトップクラスの優秀な人達ができるだけ多くの時間をSNSのサービス内で過ごしてくれるように、毎日PDCAを回して実験し、ユーザーをサービスの中毒にさせることで、依存させる仕組みが設計されているからです。


↑世界トップの頭脳が依存させる仕組みをつくっている。

グーグルとYouTubeの出身者が書いた「時間術大全」という本によれば、どれだけ強い集中力を持って意志の力でSNSなどに対抗しようとしても、無駄だからやめておけと言います。

フェイスブック、インスタグラム 、そして、YouTubeのようなサービスは「いいね!」が押されるたびに脳の快楽を司る部分が刺激され、ドーパミンが捻出される。

ハーバード大学の調査でも、SNSはセックスや食べ物と同じぐらいに脳を刺激し、シカゴ美術館付属美術大学のマイケル・ピートラスは「インターネットは、薬物とギャンブル、ショッピング、ポルノをひとつにしたようなものになる危険がある」と指摘しています。(2)


↑SNSは脳の仕組みをハックしている。意志の力で抵抗するのはやめておけ。

SNSは基本的に広告からの収益モデルに依存しているため、どれだけサービスに依存させて、ユーザーから多くの時間を奪えるかを日々研究している。

これから、ドラックを1年間気合を入れて使おうという人がいないように、これから、フェイスブック、インスタグラム、YouTubeを2時間気合を入れて観ようという人はまずいないでしょう。

5〜10分ぐらいの暇つぶしと軽い気持ちで始めて、気づけば2時間経ってしまっているところが依存症の怖いところです。


↑今日から1年ガッツリ薬物をやろうという人はいない。SNSもこれと同じ。

世の中の9割の人が、英語の勉強やジムに通ったりすることを1ヶ月続ける意志力もないことを考えれば、ほとんどのSNSユーザーは自らの意志の力で世界の優秀な人達がつくった中毒型の仕組みから抜け出すことはできないでしょう。

僕たちが意志の力でSNS依存から抜け出そうとすることは、一般人がトレードでプロの投資家を打ち負かすのと同じぐらい難しいこと。

筋肉がない人が気合と根性で、100キロのダンベルを上げるはできません。

これと同じように、自らの意志の力でSNSに抵抗しようとするのではなく、スマホは職場に物理的に置いて帰宅する、SNSを使ったら毎回ログアウトするといったようにYouTubeやインスタグラムなどの依存させようとする仕組みには、意志の力には頼らないしっかりとした対策が必要になってくる。


↑意志の力でSNS依存を抜け出すのは、素人がプロのトレーダーに勝つようなもの。

ちなみに、僕は仕事用のメッセンジャーを除いては、SNSは使った後は毎回ログアウトし、さらには、パスワードをもの凄く複雑にすることで、アクセスする回数を強制的に制限しています。

グーグルやフェイスブックが僕たちから奪おうとしているのは、世間的に言われているプライバシーなどではなく、人間にとって一番希少価値の高い「時間」そのものなのでしょう。

無料で使えるサービスが増えたとしても、1日が24時間以上に増えることはない。

むしろ、資本主義から時間主義に移行し、お金よりも時間の方が大切になりつつある現在、24時間という限りある資本を気づかないところでどんどん搾取されて、資本を減らしているようでは勝負になりません。


↑時間が資本の時代に、一般人が時間を浪費していては勝負にならない。

何か新しいことを始める時に必要なのは、お金を作ることでもなければ、人脈を作ることでもなく、まずは新しい時間自体を「作る」こと。

普通の人が1日にスマホを使う時間は3〜4時間というデータもあります。

恐らく、「時間が経つのは早いね」と多くの人が口癖のように言う本当の意味は、自分がやりたいと思っていたことが、思ったよりも(もしくは全く)進んでおらず、時間だけがただ過ぎてしまったということなのでしょう。

「なんで、時間が経つのはこんなに早いんだろう」と、ここ数年自分がやったことがほとんど思い出せないのは、知らないところで1日3〜4時間をフェイスブックやグーグルが提供するサービスに奪われていることを気づいていないからです。


↑1日8時間働いて、8時間寝ても、まだ8時間自由時間がある。

1日の稼働時間が15時間だとして、知らないところで3時間の時間を奪われているのだとしたら、毎日1日20%の時間が自動的に奪われていることになる。

逆に、投資という観点から100万円のお金を年率20%で運用すると、その100万円は5年後には、約270万円の2.7倍になります。

つまり、毎日20%の時間搾取は、これと全く逆のことが起きるわけですから、毎年、毎年、自分の行動よりも、時間の経過が早く感じるにはむしろ当たり前だと言えるでしょう。

2013年、アディダスの広告で香川真司選手が「7年前は、僕は何者でもなかった。7年あればライバルを抜ける。7年あれば想いは叶う。7年後の2020年へ。走れ、今日も。」と言っていた。


↑さて、2020年になって想いはかなっただろうか?

確かに7年という時間は、何かを成し遂げるには十分な時間。しかし、2013年の香川選手は一つ重要なことを忘れていました。

それは、2013年〜2020年の7年間で、スマホ中毒が大きく拡大し、毎日の20%の時間が自動的に夢とは関係ないものに奪われてしまうということです。

2013年の時点で、香川選手はこのように言うべきだったのだろう。

「7年前は、僕は何者でもなかった。(幸運なことに、7年前はスマホ中毒は存在していなかった。)(毎日20%の時間スマホに奪われなければ)7年あればライバルを抜ける。7年あれば想いは叶う。(スマホとは距離を置いて)」7年後の2020年へ。走れ、今日も。」

隙間時間を使って、勉強をすればするほど、創造性はどんどん下がっていく。



スマホはすでに便利なツールを通り越して、退屈や目の前の現実から逃げるためのツールになっています。

一部の意識が高い人たちは、隙間時間を最大限に利用してスマホでビジネス書を読んだり、オンライン動画などを見て勉強しているのかもしれません。

しかし、隙間時間を最大限に利用し、従来のやり方でどれだけ自身のスペックを上げようと頑張っても、恐らく、「普通よりもちょっと上」ぐらいのところまでしかたどりつけないでしょう。

ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグが隙間時間を利用してビジネス書やオンライン動画を見ているなんて話は聞いたことがありません。


↑隙間時間をタスクで埋めても創造力は上がらない。

むしろ、次の時代に必要なものを生み出す人達は、隙間時間をタスクで埋めようとするのではなく、ぼーっと何もしない時間を意識的につくったり、旅行や音楽など好きなことに没頭する時間をつくることで、新しいアイディアを生み出す生産性をドンドン上げていっています。

ボストン・コンサルティング・グループとハーバード大学が共同で行った調査では、コンサル業界で仕事をする人達が24時間365日メールや電話が鳴りっぱなしの日々から一旦離れ、スマホを完全オフにして、運動や料理など、好きなことをやる日を設けました。

すると、社内でアイディアを共有したりするコミュニケーションが増え、以前よりも広い視野で物事を考えられるようになったことで、生産性が大きく向上したのだと言います。


↑隙間時間をタスクで埋めるのではなく、好きなことに没頭する時間をつくる。

疲れ切って体のバッテリーが0%の時こそ、SNSやYouTubeなどでダラダラと時間を浪費してしまいがちです。

起業家や芸術家などクリエイティブな人ほど、ドーパミンの分泌量が多い。それを価値創造のために使うか、それともただSNSで浪費するためだけに使うかということをしっかりと考えていかなければなりません。

もちろん、JKローリングや村上春樹は執筆しながら、ツイッターを更新しませんが、そういった意味で、常に「かまってくれ!」と通知を送ってくるテクノロジーから受ける一番大きな代償は、これからの時代に最も必要とされる「深く考える仕事(Deep Work)」ができなくなることだろう。


↑せっかくのドーパミンを価値創造に使うか、ツイッター に使うか。

ここ数年、自分が決めた目標が全く達成できていないと感じたり、満足のいくクオリティーの仕事ができていないのだとしたら、その大半の原因はテクノロジーに「時間」と「集中力」を知らないうちに奪われているからです。

「知らないうちに」という部分をもっと真剣に考えなければならない。

気がつけばもう年末、気がつけばもう2020年というのは、歳を取ると時間が経つのが速く感じるという単純なものではなく、僕たちの時間は確実にテクノロジーによって搾取されているからこそ、時間が経つのが速く感じるのだ。

無料なものほど怖いものはない。グーグルの社員食堂が無料なのは、お金を取らない方が運用が簡単で効率的に機能するからだろう。


↑時間を奪われ続ければ、気がつけばまたすぐ2020年の年末。

GAFA(グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾン)で働くとびっきり優秀な人達が依存させるためのプラットフォームに僕たち一般人が自らの意志の力で抵抗しても歯が立ちません。

大切な事は、ログインパスワードをちょっと難しくしたり、SNSにアクセスする時間や回数を決めて、意識的にちょっと不便な状態を作り出すことで、質の高い時間をしっかりと確保すること。

デジタル上の世界から「ログアウト」して、自分自身に再度「ログイン」をしなおさなければ、2020年も気づけばもう年末、気づけばもう2025年という事の繰り返しになってしまうことは間違いないだろう。

Note

1.ジェイク・ナップ/ジョン・ゼラツキー「時間術大全――人生が本当に変わる『87の時間ワザ』」ダイヤモンド社、2019年 2.マヌーシュ・ゾモロディ「退屈すれば脳はひらめく―7つのステップでスマホを手放す」NHK出版、2017年

参考書籍

■ジェイク・ナップ/ジョン・ゼラツキー「時間術大全――人生が本当に変わる『87の時間ワザ』」ダイヤモンド社、2019年 ■マヌーシュ・ゾモロディ「退屈すれば脳はひらめく―7つのステップでスマホを手放す」NHK出版、2017年 ■松岡 真宏「時間資本主義の時代 あなたの時間価値はどこまで高められるか?」日本経済新聞出版社、2019年 ■ジョージ・ギルダー「グーグルが消える日」SBクリエイティブ、2019年

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