July 9, 2015
松下幸之助「面接で『運が悪い』と答えた人は、どんなに学歴や面接が良くても、即不採用。」

(illustration by L&C)

スタンフォード大学の心理学者アルフレッド・バンデュラ氏によれば、人生で最も重要な出来事は、最もささいなことから生まれると述べていますが、俗に「運がいい」と呼ばれる人達は、たまたまそのホームページに行き当たっただけ、その瞬間に、偶然その場所を歩いていただけ、パーティーに行ったら、たまたま会う人に会っただけ、というように次々と訪れる新しいチャンスをただ単純に、偶然だと考えていることが多いと言います。

しかし、エジンバラ大学のリチャード・ワイズマン博士が運について、徹底的にリサーチした研究によれば、運は魔法の力でも、神様からの贈り物でもなく、「考え方」や「心の持ちよう」が大きく影響すると述べており、松下幸之助さんが面接の最後に必ず「あなたは運がいいですか?」と質問し、「運が悪いです」と答えた人は、どれだけ学歴や面接結果が良くても不採用にしたという話はあまりにも有名です。


↑自分で「運が悪い」という人は即不採用。(illustration by L&C)

ワイズマン博士は自分は運が悪いという人と自分は運が良いという人を集めて、入念な準備のもと実験をし、その人達が喫茶店の前に落ちている5ポンド札の存在に気づくか、そして喫茶店の中に入り、どのような行動を取るかを調べました。

この実験で、自分は幸運だと答えた人は、喫茶店の前に落ちている5ポンド札に気づき、喫茶店の中に入ると「実業家」の横に座って、自己紹介をし、コーヒーをご馳走して、会話をし始めたのに対し、自分の人生は不運ばかりだと答えた人は、5ポンド札の存在にも気づかず、「実業家」の横には座りましたが、その後、話しかけることはありませんでした。

その日の午後、両者に今日の午前中、何か良いことか悪いことがあったかと、質問したところ、自分は運が悪いと思っている人は無表情で、特に何もなかったと答えたのに対し、自分は運がいいと思っている人は嬉しそうな顔をして、道で5ポンド札を見つけたことと、喫茶店で実業家と会話が弾んだことを詳しく説明したと言います。(運のいい人の法則/リチャード・ワイズマン)


↑同じチャンスでも、全く違う人生になる。 (Flickr/observista)

さらに、別の実験では、運の良い人と悪い人を100人単位で募集し、入念な経歴調査、観察、そしてヒアリングをもとに分類して、その上で新聞広告の中からお金をプレゼントするというメッセージをどれだけ見つけられるかを調査したところ、運が良い人の方がメッセージを多く見つけることができ、両者には明らかな差があったとワイズマン博士は伝えています。

この理由として、運が良い人は常にリラックスしているため、自分の周りの偶然に気づやすいということが挙げられますが、さらに運の良い人は、「圧倒的に数をこなす人」でもあり、懸賞に当選する確率がずば抜けて高い人は、毎週60通のハガキを出し、インターネットでも70件ほど登録するなど、かなりの件数に応募し、出会うべき人にいつも出くわす人は、スーパーのレジに並んでいる時に閉店時間を聞いたり、パーティーで会った人にその服をどこで買ったのかと尋ねたり、電車や飛行機で隣に座った人から書店の同じ本棚の前に立った人まで、どんどん話しかけることで、「偶然のチャンス」を作り出し、確率論的な概念からチャンスをものにしていきます。


↑隣の人にどんどん話しかけることで、必然的に運は上がる (Flickr/Matthew Hurst)

サイバーエージェントの藤田晋さんは3人から始めた会社が、今では3,000人以上の社員を抱え、本を書けばベストセラー、様々なベンチャー投資も成功させるなど、周りから「運が良いな!」と言われることも多いそうですが、ビジネスは、「洗面器から最後まで顔を上げなかったものが勝つ」 が鉄則で、“そのとき”が来るまで仕事の質を落とさないよう、しのいでいる人にしか運はやってこず、麻雀界で20年間、無敗で引退した桜井章一さんも、ビジネスでもスポーツでも、負けの原因の99%は自滅だと述べています。(運を支配する/桜井 章一・藤田晋)


↑藤田晋「洗面器から最後まで顔を上げなかったものが勝つ」 (Flickr/s.semba)

しかし、最近では、フェイスブックで友人が資金調達に成功した、新しいオフィスに引っ越した、たまたま日曜日に「情熱大陸」を見て感動したなど、周りに影響されて、今までの戦略や働き方をあっさりと変えてしまうことで、自滅していく人も多く、誰もが早くラクになりたいという願望から、どんどん洗面器から顔を上げていきます。

藤田さんは会社を始めた当時、週に110時間、がむしゃらに働くことで、勝つ確率を0.1%でも上げ、「これだけやって、ダメなら仕方ない」というレベルまで仕事をしたと述べていますが、「正しい選択」、「正しい努力」を続けていけば、運は複利のように積み上がっていき、結局、それをどれだけ続けているかが、運の総量を決めているようです。


↑早く楽になりたいと、どんどん顔を上げていく。 (US Air Force)

H.I.Sの創業者、澤田 秀雄さんは、「人生の90%は運に左右されている」として、運気が強い人は仕事の生産量も1.2倍だと述べていますが、澤田さんは一時期、倒産を経験した元経営者や元気のない人と集中的に付き合うことで、運気について実験をしてみたそうです。

結果は予想通りで、運気は著しく下がり、最終的にはライブドア事件に巻き込まれ、H.I.S証券の副社長をしていた野口英昭さんが自ら命を断ってしまい、あえて運の悪い人を周りに置くという、のんきな発想をしたことを反省していると、著書の「運をつかむ技術」の中で述べています。


↑運が人生の90%を左右する。 (Rory MacLeod)

コント55号の萩本欽一さんは、上司に怒られたり、嫌なことがあるたびに、運はどんどん貯まっていきますが、ほとんどの人は飲みに行ったり、自分にご褒美をあげることで、運を全部使い切ってしまっていて、萩本さんは若い頃、先輩にご飯に連れていってもらって、「何でも好きなものを食えよ」と言われても、「僕はかけそばが好きなんです」と押し通して、運をひたすら貯めていたそうです。

また、遊び運と仕事運、いいことを二つ重ねたら悪い運がついてくると言われ、「得」に「得」を重ねると、運が下降線をたどってしまい、例えば、ロサンゼルスで仕事があって、少し余裕を持ってスケジュールを組み、合間にディズニーランドなど行くという計画は、運気を下げる原因になります。(ダメなときほど運がたまる/萩本欽一)


↑「得」の上には、「我慢」を重ねる。(Flickr/Anna Michal)

松下幸之助氏は自分が運がいい理由について、「若い時に海に落ちて、溺れ死にそうになったけど、夏だったから助かった。」、「自転車に乗っていたら車にぶつかって、線路に投げ出されたが、電車が2メートル前で止まってくれたおかげて、命を取り留めた。」など、普通の人であれば、不幸な出来事として捉える話を、どんな出来事に対しても、自分自身が幸いと思えるかどうかで、「運が強い」かどうかを判断していました。

ウォーレン・バフェットは20歳の時に、ハーバード・ビジネススクールを不合格になりましたが、すぐに図書館に行き、ほかに入れてくれそうなビジネススクールを探していたところ、自分が感銘を受けた本を書いた教授がコロンビア大学で教えていることを知り、コロンビア大学に入学して、彼から直接教えを受けたことが、ビジネス界で大成功する大きなキッカケとなりました。


↑「私にとっていちばん幸運だったのは、ハーバードを不合格になったことだ」 (Flickr/Fortune Live Media)

運には波があり、一番良くないパターンは勝負する時ではないのに、周りに影響されて、勝負を仕掛け、自滅してしまうことで、藤田さんは同業の経営者が華々しい活躍をする中で、投資家から散々非難 され、勝負したい気持ちをグッとこらえながら、ゴルフなどで気をまぎらわしたと言います。

H.I.Sの澤田さんは、バブルが崩壊すると一時的に事務所を新宿から浅草に移し、ライブドア事件が起こると、長期の休みを取って、日本から離れたと述べていますし、ビル・ゲイツは、経営やプログラミングを忘れるために車を猛スピードで飛ばすのが大好きで、265 キロもあるシアトルからバンクーバーの間を、2時間以内で走れると自慢していたなど、しっかりと時を定めて行動しなければ、どんどん負のスパイラルにハマっていきます。


↑運気が向かない時は、一時的に仕事から離れるに限る (Flickr/Sócrates el Guitarrista)

恐らく、世の中に「運のいい人」は存在せず、運気は同じような人生を同じ環境で生きていても、考え方ひとつで大きく変わり、周りに流されず、時を見極めて勝負できた人、正しい努力をしている人、そして視野を広げ、数をこなすことで偶然のチャンスを作り出している人を、ただ周囲の人たちが「あいつは運がいい」と呼んでいるだけなのでしょう。

そう考えれば、松下幸之助さんが「運」を採用基準にしていたのは、十分納得がいくことですし、もう「Good Luck(幸運を祈る)」という言葉を使う必要はないのかもしれません。

参考: 「運を支配する/桜井 章一_藤田 晋」、「運のいい人の法則/リチャード・ワイズマン」、「ダメなときほど運はたまる/萩本 欽一」、「運/斎藤 一人_柴村恵美子」、「運をつかむ技術/澤田 秀雄」

/LUCK