September 12, 2018
プロになったら、一日何百本のシュートや素振りなんか誰でもやっている。そんなものを努力とは呼ばない。

イラスト :リーディング&カンパニー

よく1万時間努力すれば、誰でもその分野のプロになれると言われます。

そして、「No Pain No Gain」という言葉の通り、若いうちはとにかく量をこなすことが大切だと、日本で言う「努力」という言葉は、どうしても、抽象的なスポーツ根性論に持っていかれてしまいがちです。

しかし、私たちは1万時間の努力どころか何万時間も車を運転しているのに大して車の運転が上手くなっていませんし、同じ仕事を5〜10年続けて、1万時間という量はとっくに超えているにも関わらず、その分野のプロになるどころか、まだ経験が少ない新人にあっさりと追い抜かれてしまうことも珍しくありません。


↑1万時間など、とっくに超えているはずなになぜ大した成果が上げられないのだろうか?

遊びや趣味であれば、大して身を入れてやっていないからだと言えるでしょう。

ところが起きている時間のほとんどの仕事に費やし、社内・社外からのプレッシャーにも追われながら、毎日のように残業までしているにも関わらず、そこそこの仕事の成果しか上げられていないのは一体なぜでしょうか?

何も考えず素振りを500回やっても、ただ腕が太くなるだけ。それは野球の練習ではなくて、ただの筋トレでしかない。



サッカーの本田圭佑選手は「イメージができたら50%は成功。あとの50%は努力でなんとかできる。」と言い、よく1%の才能と99%の努力など言いますが、1%の「努力の仕方」を間違えてしまうと、99%の努力が無駄になってしまいます。(1)

そう言った意味では、ただ単に量をこなす努力をすればいいという回答は、すば抜けた能力を身につけるための行動として正しいとは言えないでしょう。

元プロ野球選手の掛布雅之さんは虎風荘(阪神の独身寮)で寝る前に毎晩500回バットを振っていたから「ミスタータイガース」と呼ばれるほどあなたは成功できたのだと周りからよく言われるそうです。

しかし、掛布さんに言わせれば、プロになったら誰でも500回ぐらい素振りをしていて、そんなものは努力に値せず、王貞治さんの言葉にも「努力は必ず報われる。報われない努力があるとするなら、それはまだ努力とは呼べない。」という有名なものがあります。


↑素振り500回なんかプロだったら誰でもやってる。

フロリダ州立大学の心理学者、アンダース・エリクソン氏によれば、練習の量よりも、練習をしている時に脳がどのように変化しているのかが大切なのだそうです。

素振りにしても、ただバットを500回振るのと、ピッチャーが誰で、球場がどこで、どんな展開で試合が進んでいて、そして、その球が何球目かということをしっかり意識しながら、一振り一振りバットを500回振るのとでは全然違ってくることでしょう。

何も意識せず、ただ500回バットを振っても、腕が太くなるだけで、それは野球の練習ではなくて、ただの筋トレに過ぎません。


↑本当に細かいところを意識してバットを振らなければ、それは練習ではなくただの筋トレである。

卓球シングルスで日本人初のメダリストである水谷隼選手は、学生の頃は、コーチに言われたことをただがむしゃらにこなしていたそうですが、少しずつ一瞬、一瞬の意識を高めながら練習するようにしたことで、今では練習量が学生の頃の1/3になり、練習相手にしても、常に高い意識でやっている人でなければ意味がないのだとして次のように述べています。(2)

「ただ、同じ練習をしていても、ただ頑張っている練習と、『なぜ今のボールはミスしたんだろう』『今のボールのとらえ方はよかった』と一本一本考えながら行う練習は、その効果は全く違ったものになってくる。」

「普通の選手というのは、『ただ頑張るだけの練習』をする。でも強くなる選手というのは『一本一本考えながらやる練習』をする。同じ練習時間でも効果は全く違うものになる。」

「練習では実力を問うのではなく、その選手の意識を問うて相手を探したい。高い意識でやっている選手のボールは生きている。逆に意識の低い選手のボールは形は整っているけれども、見かけだけで実際には『生きたボール』ではない。」

「生きたボールを打つ人との練習は身になる練習であり、いくらテクニックがあっても、ただ入れるだけの「死んだボール」を打つ人との練習は成果が期待できない。」


↑練習相手も常に本気で挑んで来る相手でなければ練習の質は上がらない。

先日、セリーナ・ウィリアムズを下して、20歳でグランドスラム制覇を成し遂げた大坂なおみ選手も、小さい頃からセリーナと全米オープンの決勝で戦うことを夢見ていたが、負けることを夢見たことはないと言っていました。

きっと、大坂選手もセリーナの動きや試合の状況など、細かいところを常に意識して、想像しながら練習をしていたのでしょう。

たくさん努力すると、自分のスキルが上がったように感じる。でもそれはただ自分の芸に慣れただけ。



よく自分のスキルを上げていくには、素晴らしい成果を上げている人の作品やプレーをたくさん見る必要があると言われます。

もちろん、それはそれで重要なことですが、もっと重要なのは、その人がどのような練習の仕方をして、その領域に達することができるようになったかということを学ぶことでしょう。

島田紳助さんは才能と努力には1〜5段階あって、5の才能を持つ人が5の努力をしたら、5×5=25で最高点を出すことができ、才能は生まれ持ったものなので、唯一紳助さんが後輩に教えられるのは「正しい努力の仕方」だけなのだと言います。

漫才はボクシングの練習とよく似ていて、3時間以上練習するオーバーワークになり、とにかくたくさんの練習をすると一瞬自分たちの漫才がすごく上手くなったように感じるらしいのですが、それはただ単にネタに慣れただけで、本質的な実力は全く上がっていないのだそうです。


↑上手くなったのではない。ただ自分の芸に慣れただけ。

紳助さんはただ量をこなす練習をするのではなく、「X(自分の能力) + Y(世の中の流れ)」で物事を考えることが大切で、自分自身の「X+Y」の公式が分からずに練習を重ねても、それはただの無駄な努力なのだと言います。

X(自分の能力) は自分しか分からないので、自分自身と向き合って必死に探すしかありませんが、Y(世の中の流れ)は手に入れられる資料は全部手に入れて、その業界でこれまでどんなことがあって、これから5年、10年どのように変わっていくかを分析すれば、何となく理解することができるでしょう。

XとYが分かって始めて「自分はどうするべきなのか?」と悩めばいいわけです。


↑X(自分の能力) + Y(世の中の流れ)を理解して、正しい努力をするからこそ意味がある。

紳助さんはまだYoutubeもなかった下積み時代、舞台に録音テープを隠して持っていって、上手いと思う人の漫才をすべて録音し、何度も何度も聞くことで、売れている漫才は「なぜ面白いのか」を徹底的に研究したと言います。

一発屋はX(自分の能力) のことしか考えないから、たまたまY(世の中の流れ)がX(自分の能力)にぶつかってきて、ヒットするかもしれません。

しかし、「X(自分の能力) + Y(世の中の流れ)」の法則を理解しておらず、どうしてヒットしたかが分からないため一発屋で終わってしまうのです。


↑成功するのはX(自分の能力) + Y(世の中の流れ)がぶつかった時。

実際、さんまさんのような長く売れ続ける人たちも、時代の流れに合わせて、一般人が気づかないほどのゆっくりしたスピードでY(世の中の流れ)とX(自分の能力)を上手く調整しているといい、紳助さんはこのことについて次のように述べています。(3)

「『若手を見ていて、脅威に感じることはありますか?』とよく訊かれます。まったくない。本当にまったくないんです。この前、さんまとふたりで喋ってた時、あいつもそう言ってました。」

「むしろ、若手を見ていて『アホちゃう?こいつら』と思うことの方が多いくらい。よく、一所懸命練習をしている子たちがいるでしょう。それを見るたびに、『アホちゃう?こいつら。何練習してんねん』と思います。僕から見たら、ずっと筋トレしている人にしか見えないんです。」


↑何も考えずただ一所懸命練習している人は、筋トレをして余分な筋肉をつけているだけ。

行動経済学者のK・アンダース・エリクソン 博士は世界トップレベルのアスリート、芸術家、そして知識人を対象に調査したところ、トップレベルの成果を残している人は、そうではない人に比べてしっかりと意味を考え抜いた「意思的な練習」を行っていました。(4)

もちろん、努力の量が重要ではないというわけではありませんが、結果は努力の質と量の掛け算であるため、がむしゃらであると同時にしっかりと成功方式に基づいた科学的なものでなければならないようです。

島田紳助「僕が飲食店を経営する理由は、お金儲けのためではない。『努力の仕方』次第で、別の分野でも成功すること立証してみたい。」



ただ、何が無駄な努力かということは、実際にやってみないと分わかりません。

努力の方法というのは時代によって日々変化しているため、常に一番効果的な努力の方法を研究し続けていく必要があります。

よく「愚か者は同じことを繰り返し、異なった結果を期待する」と言われますが、例えば、ランニングのタイムを上げるためには、毎日5キロ、10キロとただ走っていても、なかなかタイムは上がらず、一番効果的な練習は100mを全力で走るインターバルを繰り返すことで、プロのランナーは定期的に短いインターバルをこなしていると言います。


↑マラソンのタイムを上げるために効果的な練習は短距離。

東大を首席で卒業した弁護士の山口真由さんによれば、参考書などは2時間かけて一度精読するよりも、30分で4回ページをめくり続けた方が頭に入り、数学は分からなかったらすぐに回答を見て、その回答にしたがってもう一度解くということを繰り替えしていると自然と8割の問題は解けるようになるそうです。(5)

このように効果が出やすい「正しい努力の仕方」は数多くあり、ある程度の時間を投資して自分の実力が上がっていないと感じたら、やり方を変えていかなければ、ただただ無駄な努力を繰り替えして、結果に結びつかないサイクルに陥ってしまうことでしょう。

また、新しいスキルを身につけてようとする時は、基礎をゆっくり確実に身につけないと長期的に上達がどんどん遅れてしまい、それに加えて新しいスキルを身につける時はもの凄く精神的な力を使うため、時間を短くして徹底的に集中することが大切です。(子供であれば15分、大人であれば1時間が目安)

孫正義さんはゴルフの腕前も一流ですが、ゴルフを始めた頃は、全くクラブを振らず、理想とするスイングのビデオを繰り返し見て、録画した自分のスイングとどこが違うかを徹底的に分析していたのだと言います。


↑最初の一ヶ月はボールなど触らなくてもいいのかもしれない。

紳助さんも、「面白いネタなどやる必要はない。まずは、自分が理想とする会話のリズムを見つけて、それを身体が覚えるまで、何度も繰り返せ!!」と述べており、どうしても僕たちは偉人が残した結果やパフォーマンスだけに目がいってしまいがちですが、一番注目しなければならないのは、偉人がどうやってその領域に達したかという「正しい努力の仕方」なのではないでしょうか。

「正しい努力の仕方」を身につけても、自分が理想とする分野で成功できないのは、「成功=才能(1〜5) × 努力(1〜5)=1〜25」の方程式で、残念ながら才能に恵まれなかったからで、身体の大きさや自頭の良さなどの才能は、遺伝や育った環境が大きく影響してくるため、自分の努力ではどうすることもできません。

でも、「正しい努力の仕方」を身につけた人は、仮に自分が理想とする分野で結果が出せなくても、自分の才能が背中を押してくれる別の分野で結果を出すことができることでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=WdGweuwYQuM#action=share
https://www.youtube.com/watch?v=6RxXCHruap0&feature=youtu.be
↑まず手を動かす前にフォームやリズムを徹底的に身につけろ。

紳助さんは現役の頃から、いくつかの飲食店を経営していました。

十分成功して、お金も持っている紳助さんがあえてビジネスをする理由の一つは、「自分が芸人として成功できたのは、もしかしたらたまたま運がよかっただけで、マグレなのかもしれない。だから、別の分野で新しい挑戦をして、自分の『努力の仕方』が正しかったという確信を持ちたかった」からなのだそうで、そういった意味では、本当に次の紳助さんの言葉の通りのような気がします。(6)

「君たちの才能は『1』かもしれないし、『5』かもしれない。でも、それは自分たちで得たんじゃない。親から与えてもらったもの、神様に与えてもらったもの。」

「だけど、努力は自分で覚えるものです。誰でも頑張って『5の努力』をすれば、『5の筋力』を得ることができます。それを得ることができたら、この世界が駄目でも、他の世界で絶対成功できます。」

「(中略)『5の筋力』を持っているやつは時間はかかっても絶対成功する。それを僕はずっと言い続けてきました。それを立証するために店をやっているんです。」

まとめ



日本国民の大多数が中流階級だった少し前の時代は、努力の仕方がどうであれ、命じられた事を命じられた通りに行えば、真っ当な賃金がもらえ、年収600万円の中間層に留まることができました。

しかし、現在はすべての先進国でただ一生懸命働けば、中間層でいられる時代は確実に終わりを告げようとしています。

「努力の量」が物を言った時代の「努力の質」とはライバルに差をつけるための手段だったかもしれませんが、これから先の時代は「努力の質」を上げていかなければ今のポジションに留まることすらできないことでしょう。

ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授の調査によれば、才能が人の2倍あっても人の半分しか努力しない人は、長期的に見て、努力派の人に大きな差をつけられてしまうそうです。

ランニングマシーンでランニングをしたり、筋トレをする時にスホマを視界から消して、一つ一つの動きに意識を集中して行うのと、ただ何も考えずに行うのとでは効果が全然違いますし、毎日の勤務でも、決められた時間内に仕事を終わらせようと意識を高めて、常に集中した状態を保っていると、仕事の後に心地よい脳の疲れてがやってきて、スッと眠りにつくことができます。

自分が才能に恵まれなかったことは、親や育った環境を恨みましょう。

でも、どの分野でも成功できていないという事実は、自分の「努力の下手さ」を恨むべきなのかもしれません。

参考・引用

◆1.木崎伸也「直撃 本田圭佑」文藝春秋、2016年 Kindle ◆2.水谷 隼「負ける人は無駄な練習をする―卓球王 勝者のメンタリティー」卓球王国、2016年 Kindle ◆3.島田 紳助「自己プロデュース力」ワニブックス、2009年 P34 ◆4.ブラッド・スタルバーグ スティーブ・マグネス「PEAK PERFORMANCE 最強の成長術」ダイヤモンド社、2017年 Kindle 5.山口 真由「天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。」扶桑社、2018年 Kindle 6.島田 紳助「自己プロデュース力」ワニブックス、2009年 P102~103

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