July 17, 2017
2000万円よりも一回の信用を絶対に優先しろ「信用→お金の変換効率の高さは私が必ず保証する。」

イラスト:リーディング&カンパニー

よく起業したばかりの方の名刺を見ると、名前が毛筆で大きく書かれていたり、「◯◯で幸せな世の中をつくります」などと言った夢のような言葉が名刺に書いてあることがあります。

実際、上場企業や長く続いている会社になればなるほど、名刺には名前と連絡先だけといったようにシンプルなものが多いですが、これはいちいち余分なことを言わなくても、実績と歴史を積み重ねてきているという自信の表れなのでしょう。

別に実績や歴史がなければ、信用がないというわけではありませんが、その人を信用するという意味では、未来の夢を語るよりも、その夢を実現させるために過去に何をやってきたか、もっと言えば、その夢を叶えるために過去3日間何をしていたかを具体的に聞く方がよっぽど説得力があります。


↑多くの場合は、夢言葉だけで、まだ大して何もしていないことが圧倒的に多い

お金は信用を数値化したものだと言われ、世の中はこれから少しずつ資本主義社会から信用主義社会へとシフトし始めていくことでしょう。

つまり、ビジネスにしても、何にしても「あいつは信用できる」と思われるかどうかで雲泥の差が生じてくることになりますし、例えば、新しい仕事を始める時、信用のある人とは契約書なんて結結ばなくても、電話一本で済ませることが可能になります。

さらに、ビジネス面では何もその人のスキルや実績が単純に信用に結びつくわけではありません。何だかんだで、学歴が就職活動に大きく影響するのは、何も暗記した歴史の内容や数学の公式が仕事に役に立つという意味ではなく、目標に向かって精一杯努力し、同じ出題範囲、同じ時間、そして同じ年齢といった共通のルールの中で、しっかりと結果を出してきたという部分が信用に結びついているのでしょう。(1)


↑同じルールの中でしっかりと結果を出してきたということが、社会的な信用につながっていく

「儲ける」という漢字は、「信じる者」と書きますが、信用からお金への効率変換は非常に高く、その逆のお金から信用への効率変換はあまり高くないと言われるように、  もし、もの凄く頑張っているのに給料が上がらないのだとしたら、それはただ頑張るだけではなく、頑張りを信用に変換していく必要があり、実績を積み上げたうえで、信用を積み上げていくことが収入アップの本質だとも言えます。  (2)(3)

長い人類の歴史の中で信頼をつくるのに時間がかかるのは、人間の心の概念が形成される過程で信頼すべきでない相手を信頼してしまった時の痛手が大きく、安易に人を信頼してしまうことで、子孫が残せない可能性が高かったからなのかもしれません。(4)

ピカソが30秒で描いたスケッチは100万円「『信用→お金』の変換効率は高いが、『お金→信用』の変換効率はそれほど高くない。」


(Flickr_kelly_CC)

相手への信用は、様々なところから生まれますが、もしお金が信用を見える化したものであるならば、やはり一番の信用を築く方法は常に付加価値を提供し続けることでしょう。

小説家の村上春樹さんは、小説は信用取引以外の何ものでもなく、「なんか変てこなものだけど、村上さんが書いたものであれば、悪いものではないだろう」と受け取ってくれるある一定の読者がいることが大切なのだとして次のように述べています。(5)

「僕が 一番好きなのは、読者からの手紙で、『今回の村上さんの作品、私はすごくガッカリしました。ぜんぜん好きになれなかった。でも、次の本も必ず買いますから頑張ってください』っていうやつ(笑)。これって最高の読者ですよね。なぜかという と、信用取引がしっかり成立してるから。面白くないと思っても、次の本も買いますよというのは、その信用取引がまだ成立し ている証拠なんです。」



↑信用取引を成立させていくためには、できるだけの手間と時間をかけて書く。手を抜いて書いたものは絶対に見抜かれる (Flickr_发课 吴_CC)

美術史上、経済的に最も成功した画家と言われるピカソの遺産は約7500億円までにのぼったと言われています。そのピカソがどのようにお金の本質を理解し、世の中から勝ち得た信用をどうお金に変えていったのか、山口揚平さんの「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」という本の中で詳しく述べられています。(6)

まずピカソは何かを購入する際は、小切手を使いました。その小切手を貰った商店主は有名人であり、信用が高いピカソからサイン入りの小切手を現金化せず、額に入れて部屋に飾ったり、大事にタンスにしまっておいたため、ピカソは自分の信用を使って実質タダで買い物をすることができたのだと言います。

また、ピカソは1973年に1本5万円以上するワインのラベルをデザインしましたが、デザインの報酬をお金ではなくワインでもらうことで、ピカソが書いたラベルの評価が高ければ高いほど、ワインの値段が上がることになり、そのワインを自分で飲むにしろ、他の人に販売するにしろ、ピカソの懐が潤うことには変わりありません。


↑本当のお金持ちは、信用が一番マネタイズしやすいことを知っている

そして、美術史上、最も莫大な資産を築いたピカソの考えを象徴するエピソードがもう一つあります。

レストランであるウエイターがピカソに「このナプキンに何か絵を描いて貰えませんか?お礼はいたします」と尋ねると、ピカソは30秒ほどで小さな絵を書き、ニコッと笑って100万円を請求したと言います。

ウエイターが驚いて、「わずか30秒で描かれた絵が100万円ですか?」と尋ねると、ピカソは次のように答えたそうです。

「いいえ、この絵は30秒で描かれたものではありません。40年と30 秒かけて描いたものです。(ピカソは当時40歳)」

恐らく、ピカソは新しい価値を出すことがどれだけ大変で、「信用→お金」の変換効率は高いが、「お金→信用」の変換効率はそれほど高くないことをこのウエイターにしっかり伝えたかったのかもしれません。

ビル・ゲイツ「上手くお金を使うことは、それを稼ぐのと同じぐらい難しい。」、ジョージ・ソロス「お金を稼ぐよりも、使う方が難しい。」


(画像_Flickr_Creative Commons)

全世界で2000万部以上を売上ている「7つの習慣」の著者、スティーブン・R・コヴィーは、信頼関係の定義を「その人に接する安心感」と表現し、実際、一般的に相手をどれくらい信頼できるかはその人の能力の高さ以外の様々なところでも見ることができます。(信頼残高) (信頼学の教室)

約9兆6800億円の資産を慈善活動にあてているビル・ゲイツは、「上手くお金を使うことは、それを稼ぐのと同じぐらい難しい」と述べ、2兆円以上の資産を持つヘッジファンド・マネージャーのジョージ・ソロスに至っては、「お金を稼ぐよりも、使う方が難しい」と断言しています。別にお金持ちでなくても、一ヶ月分のレシートとクレジットカードの明細を見れば、その人の思考、行動、そして性格といったものを予測することは十分可能です。(お金の言論)


↑お金とはありのままの人間性を映し出す (Flickr_Cookie M_CC)

ファイナンシャルアカデミー代表の泉正人さんによれば、最近では、ローンや金融機関から融資を受ける時に「いま、どれくらいのお金が手元にあるか」という経済的な信用だけではなく、過去の入金履歴やクレジットカードの利用額の変動の幅などから、その人がどのようにお金を使ってきたかという「お金の履歴書」を通じて、人間的信用が求められる時代になってきているのだと言います。(7)

そもそも、本当のお金持ちはモノやサービスの価値と払うお金をしっかりと天秤にかけて判断するため、価値のないモノにお金を払うことを極端に嫌い、コストパフォーマンスをまず第一に物事を判断することから、高級な場所などには滅多に行きません。(8)

ソフトバンクのある社員が、孫正義さんに「いつも頑張っているから、今日は僕がご飯をおごってあげよう」と言われて、ワクワクしてついて行ったら、ただの駅弁を買ってくれただけだったという笑い話を聞いたことがありますが、そう言った意味で、モノやサービスの本質を知っているということは、人間的信用を生み出すということになりますし、何より良い消費者になれば、無駄なお金を使わないため、信用残高だけではなく、本当の預金残高まで自然に増えていくことになるのでしょう。


↑本当の金持ちの判断基準はコスパが良いかどうか、彼らは価値のないものにお金を払うことを本当に嫌う (Flickr_GavinLi_CC)

しかし、お金を使わず、貯金を増やし続けることが必ずしも信用向上につながるというわけではありませんし、むしろ、目的のない貯金は単なる思考停止でしかありません。

日本銀行調査統計局が発表したデータによれば、日本の家計の金融資産構成は現金・預金が51.8パーセント、アメリカが13.7パーセント、ユーロ圏が34.4パーセントなのに対して、現金の保有率が圧倒的に高いことが分かります。

そう言った意味で、アメリカやヨーロッパが有価証券や株式といった「投資」によって資産を保有しているのに対して、日本人は現金自体を自分の懐に貯め込むことが大好きな民族だと言えるのかもしれません。


↑目的のない貯金は単なる思考停止でしかない

野村証券、JPモルガン、そしてゴールドマン・サックスを経て、現在も投資家として活躍されている藤野英人さんは、日本人があまりお金の話をしたがらず、なぜかお金に対して汚いイメージを持っているのは、実は、「お金が大好き」だということの裏返しで、投資などを通じて、他人にお金を出さず、自分の懐に貯め込むという習慣は、人間よりもお金自体の方を信じている証拠なのだとして次のように述べています。(9)

「自分でお金を貯め込んでいるということは、人にお金を出したくないということ。それは、人を信じていないことでもあります。日本人ほど、他人を信じていない民族はないということに他なりません。他人にお金を預けたら、もう自分のところに返ってこないと思っているわけですね。最近では会社も信じていませんし、政府も信じていません。ましてやNPOやNGOといった非営利組織や非政府組織も信じていない。特定の宗教を信じている人も少ないでしょう。」

「では、日本人はいったい何を信じているのでしょうか?結局、お金しかありません。日本人はお金を信じているのだと、私は思います。だから、お金を現金や預金として貯め込んでいるのでしょう。他に信じられるものがないため、仕方なくお金を信じているとも言えます。人を信じられず、お金しか信じられない。それが日本人の本当の姿なのです。」



↑アメリカ人は年間約13万円寄付するに対し、日本人はたったの2500円

昔から「金離れがいい」とか「使いっぷりが見事」とか言うのは、お金の使い方と人柄がリンクした良い表現ですが、もし自分が困った時に誰も助けてくれないのであれば、今までのお金の使い方が間違っていたということなのかもしれません。

また、人間は同じ金額だとしたら、それを稼いだときの感情よりも、失うときの痛みのほうがはるかに強いと言われることからも、お金の使い方によってその人の本音が出るというのは、恐らく間違いないことでしょう。

本当の信頼関係とは「お願い」と「感謝」が相互に成立している場合のことを指す。



最初に述べたように、「儲ける」という漢字は「信じる者」と書き、価格は安いけれど信頼関係のない企業と、価格は少し高いけど信頼関係のある企業のどちらと取引をするかは人それぞれですが、数少ない創業100年以上の老舗企業が簡単に仕入れ先を変えないのは、値段よりも信頼の方が企業を繁栄させていく上で大切だと思っているからなのでしょう。

そもそも、日本における株式の価値は、1990年代前半まで、自分たちが蓄積してきた「過去」の信頼や技術をもとにして評価していました。しかし、1990年代後半に欧米人たちが「会計のビックバン」を通じて、自分たちに有利な国際会計制度を作り上げ、過去ではなく「未来」に生み出されるであろう利益に応じて、株式が評価させる基準に変わっていきました。(10)

これによって、日本は長い年月をかけて築いてきた信頼や技術を、それとは全く見合わない価格で引き渡してしまったわけですが、日本国内だけで見れば、欧米社会のように何かを契約するたびに長い契約書を作り、何かトラブルがあれば、すぐ弁護士が出てくるという関係から生じる不信のコストは想像以上に高くつくことでしょう。


↑欧米人は勝負に勝つために、まずは自分たちに有利はルールやプラットフォーム作りから始める

また、企業と従業員の信頼関係にしても、企業は払った給料分ぐらいの成果は少なくても出してもらわなければ困ると、様々なルールや仕組み、または成果報酬などを導入しようとします。

しかし、日本人に限ってはもともと儒教の遺伝子を持っており、給料をもらうと「その給料分は働かないと申し訳ない」と自然に意識するため、成果に応じてニンジンをちらつかせるという人間味のない信頼関係ではなく、仕事をする前に、先にニンジンをあげてしまったとしても、しっかりとした信頼関係が保てると言います。超ホワイト企業で利益は業界一とも言われる未来工業の山田昭男さんは次のように述べています。(11)(超ホワイト企業)

「動物はちゃんと働いたら餌をやればいいんです。さて、人間も動物だという屁理屈もあるけど、人間が馬と同じように頑張っ たらやればいいのかというと、そこのところに僕は疑問を感じるわけです。」

「大体日本の会社はこれだけ働いたらこれだけやるよというノルマ主義ですよね。成果を出せば割増金を出すよ、成績が悪い人 は引くよと…… 従業員を馬と同じように扱っている会社がめちゃめちゃ多い。ところが、『悪いな、実はこういうことをいっ たけれども、 いまリーマンショックで会社の業績が悪いんだから勘弁してよ』と約束通り支払わないこともある。会社というのはそれがいえるんです。だから、社員は信用するはずないんだよ、 そんなもの。」



↑中国は儒教について、孔子が説明しなければならなかったが、日本人は生まれつき儒教が遺伝子に組み込まれている

「営業の赤本」などの著書で知られるジェフリー・ギトマーは「信頼は愛情よりも大事だ」と言い、信頼関係とは「お願い」と「感謝」が相互に成立している時、つまり、「お願いします」と「ありがとう」をお互い素直に言える状態のことを指すと言います。

ある調査では、成果を上げる人はそうでない人に比べて、周りとの信頼・協調関係が1.7倍高く、周囲の人々の信頼・協調関係をとり結ぶ力は8倍も強かったそうです。(12)

そう言った意味で、普段から相手が想像している以上のことを行い、約束を守ることで信頼関係を成熟させ、いざという時には「お願いします」とお願いできる関係を常に保っておくことが本当に大切だと言えるでしょう。

まとめ「上場企業だけではなく、あなたも世の中に上場している。」



私たちは「明日の朝遅刻せずに会社に行けるかな?」と不安にならずに寝られるのは、iPhoneのアラームが指定した時間に鳴ることを100パーセント信頼しているからであり、全く利子のつかない銀行にお金を預けるのは、少なくても自分のお金が誰かに奪われて、無くならないことを信頼しているからです。

当たり前ですが、iPhoneのアラームが毎朝鳴ると信頼できるのは、過去何年間、ずっとセットした時間にiPhoneが鳴り続けてくれたという事実があるからで、結局、未来をどれだけ感動的に語っても、「じゃあ、その目標達成のために、ここ一週間、具体的に何をしましたか?」と聞かれた時に、実際何もしていなかったら、やっぱりそんな人を信用できるはずがありません。


↑信頼できるのはあなたの過去だけ、その目標達成のためにここ一週間具体的に何をした?教えてくれ (イラスト:リーディング&カンパニー)

資本主義社会から信用主義社会に少しずつシフトしていく中で、価値を生み出して、約束を守るのは当然のことですが、お金の使い方、メールの返信の速さ、住んでいる場所、そして書いているブログの内容から学歴まで、すべての事柄があなたの信用に良い意味でも、悪い意味でも影響を与えてくることでしょう。

私たち個人も、企業と同じように「上場」して、常に株価がついて評価されているのかもしれません。もし、仮にそうなのであれば、「信用→お金」の変換効率は高いが、「お金→信用」の変換効率はそれほど高くないことだけはしっかり覚えておきたいものです。

参考書籍・引用

1.泉 正人「お金原論」東洋経済新報社、2016年 Kindle 2.堀江 貴文「お金はいつも正しい」双葉社、2012年 p204 3.泉 正人「お金原論」東洋経済新報社、2016年 Kindle 4.中谷内 一也「信頼学の教室」講談社、2015年 Kindle  5.川上 未映子・村上 春樹「みみずくは黄昏に飛びたつ」2017年 Kindle 6.山口 揚平「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」ダイヤモンド社 2013年Kinlde 7.泉 正人「お金原論」東洋経済新報社、2016年 Kindle 8.菅井 敏之「一生お金に困らない人生をつくる―信頼残高の増やし方」、2015年 Kindle 9.藤野 英人「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」ダイヤモンド社、2013年 P28 P45〜P46 10.山口 揚平「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」ダイヤモンド社 2013年Kinlde 11.天外 伺朗「『日本一労働時間が短い“超ホワイト企業”は利益率業界一!』山田昭男のリーダー学」講談社、2014年 Kindle 12.安田 雪「『つながり』を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス」光文社、2010年 kindle

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