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最近、少しずつではありますが、「ジャケットやネクタイを着ないことは時代遅れ」と発言する人たちが増えてきている気がします。
もちろん、それは、日本の典型的なビジネスマンが着ているようなものではなく、今までスーツを嫌がっていた人が、着たくなってしまうようなオシャレなスーツのことを指すのでしょう。
そもそも、20世紀のビジネス会議には、スーツが嫌いなクリエーターは参加させてもらえませんでした。
↑スーツが嫌いなクリエーターがビジネス会議には参加なかった。
アマゾンのジェフ・ベゾスが言うように20世紀の世界では、持っている時間の30%をプロダクト開発に、70%の時間をそれがどれほど素晴らしいプロダクトかを広告などを使って言いふらすことに使っていたのです。
21世紀になるとその比率が明らかに逆転し、クリエーターも少しずつビジネス会議に混ぜてもらえるようになり始めています。
↑クリエイターも少しずつビジネス会議に参加できるようになってきた。
でも、クリエーターがビジネスの主役ということにはまだまだならないでしょう。
しっかりとビジネスのロジックをつくってくれる人がいて始めて、クリエーターの仕事がビジネスとして成立する。
そういった意味で、クリエーターがビジネス会議に混ぜてもらえる時代になったからこそ、スーツが嫌いなクリエーターがあえてスーツを着ることで、少しずつビジネスっぽく振る舞う格好をし始める必要があるのかもしれません。
破れたジーンズを才能の証だと思ってくれる人などいない。
どれだけ型にはまるのが嫌でも、破れたジーンズやフード付きのパーカーが天性の才能の証だと思ってくれる人はなかなかいないでしょう。
自分のアイディアやコンテンツをビジネス化して、作品のクオリティーをどんどん上げていくためには、スーツを着ない側のクリエティブ系の人達があえてスーツを着ることで、ビジネスマンとの交差点をつくっていく必要があります。
↑クリエイターはスーツを着て、ビジネスマンとの交差点をつくる。
ある調査によれば、交渉の場でスーツを着ると、その商品を無理やりにでも売り込もうとする気持ちが強くなるのだそうです。
こういった調査は通常、スーツを着て交渉の場に行くと、売ろうとする気持ちが強くなり過ぎて逆効果になるという意味で捉えられることが多いのでしょう。
しかし、逆に考えれば、ビジネスサイドが苦手なクリエーターがスーツを着ることで、強気の交渉ができるようになるという視点でも捉えることができます。
↑クリエイターはスーツを着て、もっと自分の才能を売り込むべき。
よく昔ながらスーツを着たビジネスパーソンが、「私はクリエイティブ系ではないので」という言い訳をして、企画会議から立ち去ってしまうのを目にします。
これと同じように、クリエイターにとってマネタイズという言葉は、吸血鬼にとってのニンニクのようなものなのだろう。
ビジネスパーソンに対して、スーツを脱いで、もっとイノベーティブなアイディアを出せというなら、逆にクリエイターは、もっとフォーマルな格好をすることで、自分の才能を売り込むべきなのだろう。
よく良いものをつくっていれば、お金は後でついて来ると言われますが、稼ぐ力が低下すれば、クリエイターのつくるコンテンツの質はどんどん下がっていってしまいます。
↑マネタイズとは吸血鬼にとってのニンニクのようなもの。
このことを一番よく理解していた矢沢永吉さんは、若い頃から着々と会社設立の準備をしていました。
まだ、アーティストが金儲けを考えるなんて汚いと言われていた時代から、「アーティスト兼経営者になる奴がいないなら、オレが最初にやってやるよ!」と言って、今まで代理人任せにしていたグッツの販売や楽曲の管理にどんどん自身も関わるようになっていきます。
矢沢さんは、アーティストの自分が経営をやるのは、自分の才能を守るためだと言っていますが、こう言った考え方をクリエティブ系の人達は見習うべきなのでしょう。
孫正義が潰されず、ホリエモンが潰されたのはちゃんとスーツとネクタイをしなかったから。
いつも油塗れの服を着ていた本田宗一郎の技術は、誰もが認める超一流でした。
しかし、営業やビジネスモデルの設計は全然ダメで、「Theスーツ系」の経営者、藤沢武夫と組んだことが、世界の本田として発展していく一番のキッカケになったのです。
クリエイティブ系や技術系の人達は、自由な雰囲気を最大限に謳歌して、服装など全く気にしていないように見えますが、ビル・ゲイツには、スティーブ・バルマー、マーク・ザッカーバーグには、シェリル・サンドバーグ、そして、スティーブ・ジョブズには、ティム・クックといったように、飛び抜けた才能を持った人の横には、常にしっかりスーツを着たビジネスパーソンがいたからこそ、ここまで成長できたことを忘れてはいけません。
↑スーツを着ない人成功者のすぐ横には必ずスーツを着たパートナーがいる。
マイクロソフトは最初のIBMとの契約が上手くいったことで、次々と様々な企業にソフトウェアを導入することに成功します。
もし、この時、ビル・ゲイツがスティーブ・バルマーと一緒にしっかりとスーツを着て、交渉の席についていなければ、ビル・ゲイツはただの技術屋として、一生資本家に好き勝手使われるだけの人生だったのかもしれないでしょう。
ジャーナリストの田原 総一朗さんは、孫正義が潰されず、ホリエモンだけが潰されてしまったのは、しっかりとスーツとネクタイをしていなかったからだと述べています。
ホリエモンは優れたアイディアを持ち、「稼ぐが勝ち『ゼロから100億、ボクのやり方』」という自身の本のタイトル通り、稼ぐ力もしっかりと持っていたのでしょうが、唯一スーツを着なかったことが潰されてしまった原因なのかもしれません。
↑次のレベルの行くために、スーツを着る。
1980年代から1990年代にかけて、アメリカでIT革命が起き、多くの人達がどんどんスーツを脱ぎ捨てていく中、スティーブ・ジョブズはあえてスーツを着るようにしていました。
そう言った意味では、スーツを着ない代表格であるジョブズこそが、スーツの重要性を一番理解していたのだと言えます。
確かに典型的なビジネススーツは、ニュー・エコノミーの人たちから見れば、オールド・エコノミーの象徴とも言えるだろう。
でも、これからは一億総クリエーター時代が少しずつ迫ってくる中で、スーツとカジュアルな私服を上手くブレンドさせた新しい服装というものがどんどん生まれてくるのでしょう。
スーツ嫌いの人がもっとスーツのようなものを着るようになったら、世の中はもっと面白くなる気がします。
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