イラスト by リーディング&カンパニー
日本では、家を購入する一番の理由として、「毎月家賃を払うくらいなら、住宅ローンを払った方がマシ」と考える人がダントツで多いそうです。(1)
ところが、日本の家というのは、住み始めた瞬間から価値が下がり、「この家で暮らせてよかった!」という日々の充実感を感じていなくても、ローンは毎月返済していかなければならず、実は経済的なメリットを望んで家を買った人ほど、ローンの返済を憂鬱に感じてしまう傾向にあります。(2)
↑不動産さんの「家賃を払い続けるなら、ローンで家を買った方がお得ですよ」はお決まりの営業トーク-
古ければ古いほど価値があると考えるイギリスの家の平均寿命は約77年で、イギリスでは築100年以上の家も当たり前に存在します。
しかし、日本の住宅の寿命は約30年程度と、仮に数千万円の高額なローンを35年で組んでせっせと返済していったとしても、返済し終わる頃には家の資産価値はほぼゼロになってしまうことでしょう。(3)
また、不動産の広告などを見ると、「◯◯に住む品格」「悠久の高台邸宅街で、人生はいま、高みを目指す」などのほぼポエム化した表現をよく目にしますが、結局、このような広告やキャッチコピーはマンションの品質とは全く関係なく、むしろあなたがマンションを購入する時の金額に広告費用が乗せられているため、実際は自分自身のお金で、自分の購買行動をサポートしているようなもので、日本人の住まいに対する意識の低さを身を持って感じてしまいます。(4)
コンクリート住宅に住む人は9年早死し、高層階に住む人ほど病気になりやすい
当然のことながら、住まいは心身や健康など様々なところに影響を及ぼします。
現代のマンションやハウスメーカーが作る家はユニクロと同じで、デザインよりも価格を重視し、価格の割にはしっかりしていて、多少の流行を先取りしているのかもしれません。
けれども、長期的に見れば負の遺産以外の何ものでもなく、現在は7軒に1軒が空き家、2033年には3軒に1軒が空き家になると言われる中で、東京オリンピックに向けて住宅が足りないと新しいものをどんどん作り続けるのは、ただ次の世代が背負う負の遺産を増やし続けているだけなのでしょうか。(5) (6)
↑ユニクロのような住宅がどんどん作られていく
島根大学の中尾哲也教授の研究によれば、マンションなどコンクリート住宅に住む人は、木造の住宅に住む人に比べて9年早死するのだと言います。
さらに、東海大学医学部の逢坂文夫講師の調査によると、マンションの高層階に住む妊婦は流産する確率が高く、イギリスの調査でも高層階に住む住人ほど診療所に通う頻度が高いという調査があります。
アメリカではニューヨークの高級マンションに住む女性ほど、乳ガン発生率が高いそうですが、高層階マンションは「眺めがいい」というところだけに注目し過ぎて、住まいが身体に長期的にどうのような影響を与えるかが全く考慮されていません。(7)
↑高層階に住む人ほど、病気になりやすい
「人」が「木」に寄り添って「休む」と読み、英語で森林を意味する「forest 」とは、「for rest」、つまり「休む場所」を意味するように、従来、日本の家と言えば木造住宅が中心でした。
ところが、戦後の高度成長期を通じて、鉄筋コンクリートの集合住宅が急増し、ジャーナリストの船瀬俊介さんによれば、コンクリートの校舎の子供は、木造の校舎の子供に比べて、疲れが3倍、イライラが7倍、頭痛が16倍、腹痛が5倍になるとも言います。
そして、インフルエンザによる学校の閉鎖率を比べると、木造校舎のクラスは10.8パーセントだったのに対して、コンクリートの校舎のは22.8パーセントだったそうで、鉄筋コンクリートの住まいが身体に大きな負担をかけているのは間違いないでしょう。(8)
ユニクロ化する住まい選び「自動の食器洗い機が10年後の資産価値と何の関係があるのか」
image_CC_Yoshizumi Endo
日本人は欧米人に比べて、住まいに対するこだわりが低く、スーパーで500円の買い物をする時には、ものすごく考えますが、一生で一番高い買い物とも言われる自宅に関してはユニクロ感覚で済ませてしまいます。
自宅を洗濯機や自動車と同じような消耗品的な感覚で、長期的な価値の本質を見極められないところが日本人の幸福度や生活の質に大きな影響を与えているのでしょう。
現在、2011年の東日本大震災からの資源不足と東京オリンピックに向けての開発ラッシュで、都市部の新築マンションの価格がどんどん上がっていますが、これは海外からの投資なども絡んで現状の価格と実質の価格が一致しておらず、アテネや北京などを見ても、オリンピックのために巨額の投資をし過ぎた国の経済は、閉幕後、著しく停滞することは十分に予想できます。(9)
↑人生の中で一番大事な買い物をユニクロ感覚で選んでしまう日本人
本当の資産価値とは、20年後、30年後に自分にとって大事なものは何かを主軸に考える視点であり、オリンピックの特需、ローンなどの経済的メリット、そして自動の食器洗い機が付けられるかどうかなどは、長期的な資産価値に果たしてどれだけ影響してくるのでしょうか。
住宅という「箱」ではなく、そこに入れるソフトウェア、つまり、人々の生き方・考え方に重点を置いて、建築と人間をしっかりと交差させた暮らしをデザインしていかなければ、日本人の生活の質はいつまでたっても上がることはないでしょう。(10)
また、「暮らし」と言うと住まいばかりのことを考えてしまいがちですが、実際は、家にいる時間よりも、働いている時間の方が長かったりするため、「住むこと」と「働くこと」の問題を切り離さず、同時平行で課題を解決していく方が効果的なのかもしれません。(11)
↑自動の食器洗い機があるかどうかなんて、長期的な家の資産価値には全く関係ない
日本マイクロソフトの元代表取締役である成毛眞さんは、「家づくりこそ、最高の道楽だ」と述べ、子供部屋は小さく、リビングを広くして、リビングを通らないとそれぞれの部屋にいけないようにするなど、家を設計するということは、家族の人生を設計することでもあるとして次のように述べています。(12)
「私は家をつくるために、何度も建築士さんと話し合いをした。こういうプロセスは非常に楽しくて、自分もモノづくりをし ている気分になれた。じつは家づくりこそ、最高の道楽なのだ。みなさんも、マイホームをつくるときはとことん楽しんでほしい。」
「建て売り住宅を買うぐらいなら、もう少しお金を貯めて、建築士さんに頼んで自分なりのマイホームを建てたほうがいいと思う。 規格どおりの会社で働き、規格どおりの服を着て、規格どおりの家に住む……。そういう人生を送ることを、家族はみな望んでいるだろうか。」
↑家を設計するということは、家族の人生を設計すること
江戸時代の頃は、物事を考えるスパンが現在よりもずっと長く、例えば津軽の人たちは3代かけて防砂林を作ったりしたそうです。
当時の人達は、家や建物というのは個人という枠を越えて存続するものだと考えていましたし、ピラミッドを作った人達にしても、ガウディにしても、時代を超えた建築を作るという概念をしっかりと持っていました。(13)
まだ、世の中には、目の前のものをすべてコンクリートで固めないと気がすまない人達がたくさんいます。
現実を受け入れられないのは大人の勝手ですが、もうこれ以上、次の世代に負の遺産を残すことだけは本当にやめてほしいものです。
参考書籍
1.八納 啓造「わが子を天才に育てる家」PHP研究所 P79 2.八納 啓造「住む人が幸せになる家のつくり方」サンマーク出版 P20〜P21 3.野澤 千絵「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」講談社、2016年 kindle 4.川瀬太志・柿内和徳「資産価値の高い家づくり22の知識」幻冬舎、2012年 P12 5.城戸 輝哉「不動産業界の人だけが知っている新築マンションは買わないほうがいいワケ」扶桑社、2016年 P54〜55 6.榊 淳司「マンションは日本人を幸せにするか」集英社、2017年 P104 7.船瀬 俊介「コンクリート住宅は9年早死にする―いますぐ“木装リフォーム”して健康を取り戻そう」リヨン社、2002年 Kindle 8.船瀬 俊介「コンクリート住宅は9年早死にする―いますぐ“木装リフォーム”して健康を取り戻そう」リヨン社、2002年 Kindle 9.藤原 和博「10年後、君に仕事はあるのか?―――未来を生きるための『雇われる力』」ダイヤモンド社、2017年 Kindle 10.松村 秀一「ひらかれる建築: 『民主化』の作法」筑摩書房、2016年 Kindle 11.嶋田洋平「ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり」日経BP社、2015年 Kindle 12.成毛 眞「40歳を過ぎたら、定時に帰りなさい」PHP研究所、2016年 Kindle 13.養老 孟司・隈 研吾「日本人はどう住まうべきか?」新潮社、2015年 Kindle